山 行 記 録

【平成15年11月2日(日)〜3日(月)/飯豊連峰 大日杉〜飯豊本山】



草履塚から本山を望む(2日午後1時)



【メンバー】単独
【山行形態】冬山装備、避難小屋泊(本山小屋)
【山域】飯豊連峰
【山名と標高】地蔵岳1538.9m、飯豊本山2105.1m
【天候】2日(晴れ)、3日(晴れ時々曇り)
【温泉】西置賜郡飯豊町「白川荘」300円
【行程と参考コースタイム】
(2日)大日杉8:20〜ザンゲ坂〜長ノ助清水〜滝切合10:00〜地蔵岳10:25〜御坪11:50〜切合小屋12:30〜
    草履塚13:00〜一王子〜(水場往復)〜本山小屋14:40(泊)
    
(3日)5:00起床(早朝、本山を往復)本山小屋7:00〜草履塚7:45〜切合小屋8:10〜御沢分岐8:50〜(穴堰往復)〜
    地蔵岳10:10/25〜長ノ助清水11:10〜大日杉11:40

【概要】
大日杉登山口から登るのは今年の8月以来である。大日杉小屋では冬支度の準備が始まっており、小屋の関係者が何人か作業中であった。駐車場にはマイカーが6〜7台といったところで、この時期の登山者としては予想よりかなり多い気がした。飯豊では初冠雪があってから1カ月以上たってしまったが、最近の好天でほとんど雪が解けてしまい、今日も穏やかで小春日和のような澄んだ青空が広がっていた。

登山口周辺では紅葉がまだ残っている感じだったが、ザンゲ坂を登り稜線に出ると、樹木にはほとんど葉が見あたらなくなった。快晴の空からはまるで夏のような日差しが降り注ぐ。たちまち汗まみれになり、途中から冬用の下着一枚になった。今日はほとんど夏山か初秋の山登りという雰囲気ある。長ノ助清水で4人組に出会ったが、地蔵岳までの日帰りの人達であった。葉を落としスカスカになった樹木の間からは、視界を遮るものはほとんどなく、周りの山の状態が良く見えた。まるで残雪期の春山を歩いているような感じだ。ダマシ地蔵が近づくと左手からは飯豊本山が姿を現した。雪は沢筋に残っているだけで、真っ白に輝いていたつい先日までの初冬の飯豊山がウソのようであった。

地蔵岳には約2時間で着いた。8月には3時間もかかったのだが、前回はやはりテントが重かったせいだろうか。山頂の三角点に腰を掛け、ミカンを食べながら小休止する。地蔵岳山頂から切合小屋までは緩やかな稜線歩きが続いた。いつもはブナや潅木が邪魔をしてみえない飯豊本山も、今日は絶えず右手に眺めながら歩けるので楽しいばかりである。目洗清水付近では、切合小屋までだという4人組を追い抜いた。

快適な山歩きとはいえ、御坪を過ぎて種蒔山の登りに差し掛かる頃にはさすがに疲れを感じた。たいした標高差はないのに窪地のような急坂では喘ぎ声がもれてくる。しかし途中の水場を過ぎれば切合小屋はもう間もなくである。種蒔山をトラバースしていると、水を引いているホースからは滔々と水が流れ出ていて、小屋へのホースはそこで分断されていた。切合小屋では川入にこれから下るという夫婦者が外で休んでいるだけであった。草履塚の登りでも燦々と暑い日差しが降り注ぐ。ピークまで登り切ると、ようやく飯豊本山が正面に現れた。ここまでくればもう本山まではひと登りであり、安心感もあって大休止をとることにした。この草履塚からの展望は今回のルート上でも一番お気に入りのポイントであり、飯豊本山から御西、大日岳へ続く大パノラマは見ていて飽きることがなかった。この久しぶりの眺望を楽しみながら遅い昼食をとった。

草履塚を下ると登山道にはようやく雪が現れた。しかし積雪はわずかで、踏跡もあるのでスパッツをするまでもなかった。姥権現で手を合わせ、御秘所の岩稜帯を過ぎると、御前坂から登山者がちらほらと下ってくる。切合小屋泊まりの人達が空身で本山を往復してきたところであった。最後の登りである御前坂を登っていると前方に登山者が一人見えた。その人には本山小屋のテン場付近で追いつき、水場までは二人で連れだって往復した。水場の標識からは一面、雪に覆われていたが、踏跡もないので慎重に雪面をトラバースする。水場からはいつものようにチョロチョロと流れる細い水を時間をかけて水筒に汲んだ。

本山小屋の前には雪が少し残っているだけであった。小屋にはまだ誰もいなかったが、本山のピークには登山者が何人か立っているのが見えた。小屋の二階にザックを下ろし、小屋泊りの準備を始める。そのうち登山者が4人ほどやってきて、静かだった山小屋は結構賑やかになった。私は水場で一緒になった郡山からきたという単独の人と一緒に夕食を楽しんだ。日没は午後4時44分であった。ちょうど大日岳の右肩に夕陽が沈むのを冬期入口から眺めたりした。日没後は小屋の中も急速に暗くなる。いくらなんでも登山者はもう来ないだろうと思っていると、5時過ぎになって2名の年輩の登山者が入ってきたときはさすがに驚いた。昨夜は門内小屋泊まりだったという東京の二人は、テントやアイゼン、ピッケルなども入った大きいザックを担いでいた。結局この日の小屋泊りは、新潟大学の山岳部だという4名のほか、全部で17名ほどにもなり、11月の山とは思えないほどの賑わいとなった。この夜は風が吹き荒れたが、就寝前に外に出てみると、月夜に空は晴れわたり、喜多方や米沢の街明かりが遠くに煌々と煌めいていた。

翌日は5時に起床した。ほとんどの人達がまだ暗い4時過ぎから煮炊きの準備を始めたため、しかたなく起こされてしまった形だ。おかげで6時過ぎにはザックのパッキングも完了してしまい、いつでも下山できる体勢が出来上がった。窓の外からは終始うなり声のような風音が聞こえている。昨日は穏やかな晴れ間が広がったが、今日は少し風が強く、防寒着とウインドブレーカーを着て外に出た。ザックを小屋前に置いて本山に向かうと、早めに小屋を出た人達がちょうど本山から戻ってくるところだった。大日岳やダイグラ尾根には眩しいほどの朝日が当たり輝いている。飯豊本山ではさすがに寒いくらいの風が吹いていた。しかしこの時期にこうして登れるのは僥倖には違いなく、刻々と変化する朝の光景を、惜しむようにしながら山頂からしばらく眺めていた。

本山小屋を後にすると、切合小屋を発ってきたという、本山までのピストン組とすれ違った。草履塚まで下ってくると風も弱まり、ここからはウインドブレーカーも不要となった。草履塚では最後の大展望の見納めである。早めに本山小屋をでた人達はすでに種蒔山を通過した後らしく、縦走路にはほとんど登山者が見あたらなかった。切合小屋付近も人の気配はなくひっそりとしている。誰もいないはずと思っていたら、入り口付近を通り過ぎる時、小屋の中からは何人かの話し声が聞こえた。

今日も小春日和に恵まれると思われていた天候は、切合小屋を過ぎる頃から薄雲が広がりはじめていた。日差しが遮られると急速に気温が下がり膚寒さを感じるほどになった。天候は予報どおり下り坂のようである。それでもいっぺんに崩れるほどではなく、日差しが差したり遮られたりを繰り返した。種蒔山からは予想通り風も止んでしまい、冷えていた体はようやく温まり始めた。しばらく11月とはとても思えないような快適な山歩きが続いた。御沢別れでは久しぶりに県の史跡である「飯豊山の穴堰」まで往復する。御沢は春の雪渓のイメージが強いだけに、全く雪のない光景は新鮮だった。森閑とした御沢の一角に、今もひっそりとして残る「飯豊山の穴堰」にしばし見入った。

縦走路に戻ると一路、地蔵岳に向かう。この区間は以外と時間がかかるところで、疲れているだけに登りよりも下山の方が長く感じるところでもある。アップダウンを繰り返しているうちに両足はだんだんともつれ始めていた。地蔵岳への最後の登りではスローモーションのような足どりで登らなければならなかった。ようやく地蔵岳に到着すると、最後の展望を楽しみながら行動食で休憩をとることにした。テルモスから熱い紅茶を注ぎ、カステラを頬張ると至福の感情に包まれる。昨日のような快晴ではなかったものの、種蒔山から草履塚、飯豊本山、そしてダイグラ尾根と連なるパノラマを眺めていると、すぐに下る気持ちにはなれなかった。地蔵岳を後にすると、乾燥した褐色の落ち葉を蹴散らしながら大日杉小屋をめざした。降り積もった落ち葉は道形がわからなくなるほど登山道を覆い尽くしていたが、それはまるで羽根布団の上を歩いているかのように、柔らかくそして優しい登山道であった。


本山小屋付近からの大日岳(3日午前6時25分)



早朝の飯豊本山(3日午前6時35分)


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