山 行 記 録

【平成15年10月18日(土)/朝日連峰 三面〜鷲ガ巣山】



中ノ岳山頂(950m)
前方は1004mのピークで、さらに右奥に聳えるのが鷲ガ巣山


【メンバー】単独
【山行形態】夏山装備、日帰り
【山域】朝日連峰
【山名と標高】鷲ガ巣山(わしがすやま) 1,093m
【天候】晴れ時々曇り
【温泉】新潟県岩船郡関川村 桂の関温泉「ゆーむ」500円
【行程と参考コースタイム】
 三面発電管理所(駐車)8:10〜登山口8:20〜見晴台8:50〜鷲ガ巣山避難小屋(観測所)9:15〜前ノ岳9:30〜中ノ岳10:30〜鷲ガ巣山11:20/12:00発〜中ノ岳12:50/13:00〜前ノ岳13:50〜避難小屋14:10〜登山口14:50〜三面発電管理所15:00

【概要】
村上市から望むと朝日連峰を背にして二つの鋭鋒を目にすることができる。地元では二子山とも呼称されるこの山は、実際には前ノ岳、中ノ岳、そして本峰の鷲ガ巣山と三山からなる山である。昔は頂上直下の大岩壁にワシが生息しており、それが山の起源になったという言い伝えもある鷲ガ巣山は、まるで槍ヶ岳のような鋭い穂先を空に突き上げており、前ノ岳と中ノ岳を従え、ひとり孤高を誇示して最奥に聳え立っているという印象だ。鷲ガ巣山の標高は1100m足らずなのだが、登山口の標高は90mほどしかないのでその標高差は約1000mにもなる。しかも前衛峰ともいうべき前ノ岳と中ノ岳を必ず通らなければならないので、その間の上り下りを加えれば1400mにもなるのだから決して手軽な山ではない。体調が万全のときにいつか登りたいものだと以前から機会を伺っていた山であった。

山形側は快晴の空模様であったが、新潟県では予想外に薄雲が広がっていた。7号線を北上し、村上市から古渡路の交差点を右折して三面ダムに向かうと、約20分ほどで三面ダムと朝日スーパー林道の三叉路に着く。そのスーパー林道のすぐ先の左手路上に4〜5台ほどの駐車スペースがあり、新潟ナンバーの車2台がすでに駐車中であった。車道のすぐ先で右折すると林道沼田線のゲートがあり、鷲ガ巣山の登山口はそこから500mも先であった。ゲートは施錠されているので一般の人は車の進入はできない。登山口までは歩いて10分程度であった。登山口には郵便受けを利用した登山届のポストがあり、ノートは既に満杯のため記載できるページもなくなっていた。

登山口から山道に入り、鬱蒼とした杉林を進むとやがてタケン沢を渡る。水量は少ないが、ここはヒルの多発地帯として知られているところで、今の季節では心配ないはずだったが、やはり気持ちよいものではなかった。ここから雑木林の中の急登が始まった。まわりは紅葉が始まったばかりで青々とした樹木が多かったが、登るに従って紅葉は次第に鮮やかさを増していった。途中、見晴台を通過する。朽ちかけた標識が木の幹に掲げられており、古くからの登路を感じさせた。気温は低く膚寒いほどだったが、予想外の急登に真夏のような汗が流れ続けた。登山口から約1時間ほど急坂を登り続けると鷲ガ巣山避難小屋に着いた。屋根と壁がかろうじて残っているというずいぶん古い小屋で、観測所も兼ねているような表示があるのだが、雨量計らしき設備などはどこにもなかった。少し登ると近くには水量がわずかの水場がある。小屋からはさらに急坂を登り続けると、付近はいつのまにか美しいブナ林に変わっていた。

前ノ岳には避難小屋から約15分で到着した。ここには三角点があるだけで標柱などはなかった。左手には三面ダムの眺望、前方には中ノ岳が大きく迫っていたが、その右奥に聳える鷲ガ巣山はまだはるかに遠い。前ノ岳から中ノ岳までは130m下り、最低鞍部からは350mも登らなければならないので考えるとうんざりするほどだが、一方では紅葉を楽しみながら歩けるのだから長い行程を歩くにはいい時期であった。色づいたブナの葉が逆光を受けて風に揺れている様は秋の深まりを感じさせた。鞍部からは再び急坂となり、フィックスロープをつかんだりしながらゆっくりと登った。中ノ岳の直下では道が二股に分かれており、良く踏まれている方の右手に進むと水場で行き止まりであった。この水場もチョロチョロとした水量しかなかった。

分岐に戻ってさらに急登を続ける。そのきつい勾配はストックの先も刺さらないほどで、いつもはあまり頼ることがないフィックスロープを、今回は何度もつかみながら体を引き上げなければならなかった。登り切った左手奥は大日様という小さな祠がある中ノ岳の広い山頂であった。ここは前ノ岳よりもさらに展望がよいところだ。しかし中ノ岳の本峰は目前に大きく迫る1004mのピークのほうであり、さらにその右奥の鷲ガ巣山まではまだまだである。まるで独立峰を二つ登ったような疲労を感じていたが、鷲ガ巣山まではあと一つ登るだけなのだと自らを励ました。

1004mのピークを過ぎると再び大きく下るようになった。それは延々と果てしなく続くようにも思われ、帰りの登り返しを考えると憂鬱になってくるばかりだった。細いブナが横倒しになっている歩きづらい箇所をトラバース気味に通過するとナイフリッジのような切り立った尾根歩きとなった。爽やかな秋風の吹く稜線ではあったが、さすがにこのあたりまで来ると足の疲れも大きい。ようやく最低鞍部まで下りるとそこからは220mほどの登り返しが待っていた。しかも登り切ったところがまだ手前のピークだと知るとがっかりした。早くも山頂から下ってきた二人の登山者が途中で待っていてくれて、立ち止まりながら息を切らして喘いでいると、二人からは「山頂はもうまもなくですよ」と励まされた。鷲ガ巣山の山頂まではもうひと踏ん張りであった。

ようやく着いた鷲ガ巣山の山頂には真新しい石の祠があり、いくつかの大きな岩が横たわっている奥に広場があった。地元から来たという4人組のグループもちょうど到着したところらしく、朝日連峰をバックにしてお互い写真を撮りあった。鷲ガ巣山の山頂からは遮るものがない雄大な展望が広がっている。朝日連峰と飯豊連峰の稜線はあいにく雲に隠れてすっきりと見えなかったが、正面には意外な近さに祝瓶山の秀麗なピークが聳えていた。右手には下越の名山である光兎山も端麗な姿をみせている。4人組のリーダーらしき人は、この鷲ガ巣山には8回目の登頂だというので驚いたが、意外にもこの鷲ガ巣山はめったに晴れわたるということがないのだという。ずっと雨模様だったりして天候には恵まれなかったというから、こんな薄曇りでも今日の天候はかなりいい方なのだろう。私はしばらくこの4人組と一緒にのんびりとした昼食を楽しんだ。

休憩中している間にも天候は回復するだろうと思われたが、結局、山頂はずっと薄雲に日差しが遮られたままだった。膚寒くなってきたのを機に、私は一足先に山頂を下ることにした。山頂からは前方に大きく中ノ岳が立ちはだかっているので下っているという気がしなかった。鷲ガ巣山への登りで体力を使い果たしていただけに、長く傾斜のきつい登り返しはつらいものだった。しかし下っているうちに薄雲も取れて爽やかな秋空が広がると、気分も一転して晴れやかになった。柔らかい日差しと爽やかな秋風はこの時期の山登りでは最高のご馳走だ。中ノ岳の広い山頂で果物を食べながら小休止しているとなんともいえない幸福感が広がった。ここからは前ノ岳への登り返しも待っているのでまだまだ登山口までは遠かったが、久しぶりに戻った秋の日差しを浴びながら、中ノ岳からの展望を心にしっかりと刻んでおこうと思った。三面発電管理所近くの駐車場には鷲ガ巣山の山頂からちょうど3時間かかって戻った。下りと登りに同じ時間が必要だという、最近にはなくきつい山だったが、紅葉を愛でながらの充実した鷲ガ巣山の一日が終わった。



鷲ガ巣山の山頂直下から中ノ岳を振り返る
左奥は前ノ岳


前ノ岳から望む中ノ岳(左)と鷲ガ巣山(右)


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