山 行 記 録

【平成15年10月11日(土)〜12日(日)/朝日連峰 泡滝ダム〜以東岳】



大鳥池と大鳥小屋


【メンバー】単独
【山行形態】夏山装備、避難小屋泊(以東小屋)
【山域】朝日連峰
【山名と標高】以東岳 1,771m
【天候】11日(晴れ)、12日(雨のち曇り)
【温泉】山形県西川町 水沢温泉館300円
【行程と参考コースタイム】
(11日)

泡滝ダム8:30〜冷水沢吊橋9:20〜七ツ滝沢吊橋9:40〜大鳥小屋10:30〜東沢〜以東小屋13:00(泊)
(12日)
以東小屋6:00〜東沢〜大鳥小屋7:45-8:00(休憩)〜七ツ滝沢吊橋8:40〜冷水沢吊橋9:00〜泡滝ダム10:00

【概要】
この1週間はめずらしく日本晴れのような好天が続いている。その秋晴れも今日まではなんとか持ちそうだと言うので予定していた飯豊連峰を急遽取りやめ、久しぶりに以東岳に登ることにした。泡滝ダムからの以東岳は3年振りである。いつのまにかダムの堰堤手前は駐車スペースとして整備されており、すでに4〜50台のマイカーでいっぱいであった。

泡滝ダムでは澄み切った青空が広がり、朝から日焼けが心配なほどの日差しが降り注いでいる。紅葉が始まったばかりの渓谷を眺めながら歩くのは楽しいばかりで、足どりも軽く途中では何人もの登山者を追い越した。今日は小屋泊りも満員と思われ、ほとんど休憩をとらずに大鳥小屋に急いだ。登るにつれて紅葉も徐々に深みを増して行く。見上げると真っ赤に燃えるような戸立山から三角峰付近の稜線が見えた。冷水沢と七ツ滝沢にかかる二つの吊橋を渡り、ジグザグの急坂を1時間ほど登れば大鳥小屋だ。小屋前のベンチや、大鳥池の周辺では多くの人達がザックをおろしてくつろいでいるところだった。

大鳥小屋からはオツボ峰コースを左に見送り、今日は直登コースを進む。大鳥池の湖畔をたどりながら東沢を渡るとすぐに怒涛のような急登が始まった。たちまち背中から汗が流れたが、黄葉のブナ林の中の登りは爽快であった。グイグイと高度を稼ぐに従って、次第に大鳥池が眼下に見えてくる。見渡せば三角峰からオツボ峰にかけては今がまさに紅葉の盛りであり、色鮮やな山肌はまぶしいほどであった。まもなく樹林帯を抜けたところで今日初めての休憩をとる。ここからは草原の中に登山道が緩やかに伸びており、美しい草紅葉が辺り一帯に広がっている。乾ききった喉にみずみずしい梨がおいしかった。

以東小屋では何人か休んでいたが、まもなく狐穴に向かって小屋を出てゆくと誰もいなくなってしまった。管理人が水汲みから戻ってきたところですぐに宿泊の受付をしてもらう。登山口を遅く出発したにもかかわらず、意外にも私は一番最初の受付だったようだ。寝る場所さえ確保できれば一安心で、2階にひとまずザックを下ろしてから水汲みに出かけた。水場から戻り軽く食事をしている間にも次々と登山者がやってくる。夕暮れまではまだまだ時間があり、昼食後は以東岳の山頂でのんびりと過ごした。

今日は全くといっていいほど遮るものがないすっきりした展望が広がっていた。山頂からは緩い上り下りを繰り返しながら大朝日岳へと縦走路が伸び、中腹から下の紅葉と、森林限界から上部の笹の緑と草紅葉の褐色の光景は、まるで一幅の絵画を見ているようでもある。渋くくすんだ色調は夏山とは違った魅力があり、見ていて飽きることがなかった。飯豊連峰と吾妻連峰の間には磐梯山が鎮座し、蔵王連峰から船形山、神室連峰へと稜線が続いている。その左手には月山と鳥海山が聳えており、今日は山頂から見える山を数え上げればきりがないほどである。特に鳥海山がすっきりと見えるのは久しぶりで、裾野に広がる酒田の市街地さえもはっきりと見えるほどであった。休んでいるとオツボ峰や狐穴小屋の方からも登山者がひっきりなしに登ってきていた。私はのんびりと岩陰で昼寝をしたりしながら山頂のひとときを過ごした。

4時近くになると山頂ではさすがに膚寒い風が吹くようになった。日はまだまだ高かったものの、少しずつ薄雲が広がり始めていた。大きく西に傾き始めた陽の光が反射して日本海が銀色に輝いている。小屋に戻ると定員が30名ほどの小さな以東小屋はすでに多くの登山者で喧噪を極めていた。ほとんどのグループは宴会に盛り上がり1階も2階も騒然としている。私も隣のグループの人達とビールを飲みながら夕食を楽しんだ。夕食後、うつらうつらとまどろんでいると、小屋の中が異様な明るさに包まれた。急いで外に出てみると、まもなく太陽が日本海に沈むところで、日没直前の夕陽を浴びて以東岳が黄金色に輝いている。こんなに美しい光景を眺めるのはいつ以来だろうか。その夜は満ち足りた思いで床についた。

翌日は朝から厚い雲に覆われていた。強風とともにガスが流れていて、時々小屋の周囲からは視界がなくなった。この3連休を利用して大朝日岳へ縦走する人達も多く、暗いうちに起きだした人達は早めに朝食を終えると、次々と小屋を出て行く。私はのんびりと出発するつもりでいたところ、早立ちする人達につられて起こされてしまい、晴れそうもない空模様をみては6時に小屋を出た。外に出てみると雨混じりのガスのため上下とも雨具を着た。晴れていればオツボ峰を経由して下る予定だったのだが、稜線は何も見えないので、昨日の直登コースを忠実に下ることにした。200メートルほど下るとガスから抜け出し、やがて熊の皮を広げたような大鳥池が眼下に現れた。雨は止むことはなかったが、紅葉した潅木は見飽きることがなく、結構惜しみながらの下りだった。東沢を渡る頃にはようやく雨も上がりはじめ、周囲には明るさが戻った。しかし、昨日までの秋晴れはすでに去ってしまい、天候は間違いなく下り坂に向かっていた。


以東岳山頂から望む大朝日岳




残照のオツボ峰付近
奥には鳥海山と月山(右)




夕暮れ、黄金色に輝く以東岳


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