山 行 記 録

【平成15年9月20日(土)〜22日(月)/玉川温泉〜焼山〜後生掛温泉〜八幡平〜松川温泉(裏岩手連峰縦走)



紅葉に包まれる焼山山荘


【メンバー】単独
【山行形態】夏山装備、避難小屋泊(陵雲荘)下山後、松川温泉泊
【山域】八幡平
【山名と標高】焼山1366.1m、 八幡平1,613.6m、畚岳1577.8m、諸檜岳1516m、前諸檜1481m、嶮岨森1448.2m、
       大深岳1541.4m、小畚岳1467m、三ツ石山1466m、
【天候】20日(曇り時々晴れ)、21日(曇りのち晴れ)
【温泉】
岩手県岩手郡松尾村 松川温泉「松川荘」、「峡雲荘」
【行程と参考コースタイム】
     
自宅2:00=(R287,R13,R341経由)=新玉川温泉着8:30(自宅から約280km)
(20日)新
玉川温泉9:00〜焼山10:45〜13:00後生掛温泉(バス)見返峠駐車場〜陵雲荘15:15(泊)
(21日)陵雲荘6:15〜八幡平6:40〜畚岳登山口7:15〜畚岳7:35〜 諸檜岳8:25〜前諸檜9:15〜嶮岨森9:45/10:00発〜
     大深山荘10:35〜大深岳11:00〜小畚岳12:10/12:40発〜三ツ沼13:07〜三ツ石山13:35/13:50発〜
     三ツ石山荘14:15/15:15発〜松川温泉16:20(泊)
(22日)※車回収 松川温泉9:50=10:20東八幡平バスセンター10:52=11:35八幡平12:25=13:40新玉川温泉
     (R341,R13,R287経由)=自宅着20:00

【概要】
今回は東北百名山のひとつである焼山の縦走と裏岩手連峰の縦走を組み合わせたコースである。この週末は台風15号の影響でどこも悪天候が予想されていたが、そんな中でも北東北だけは雨の心配がなさそうなため、長い間懸案となっていた裏岩手連峰を歩くことにした。この山域はよく知られているように、登山口には必ずといっていいほど古くからの温泉があるのも魅力的である。一部分をバスでの移動を挟んだ形となったものの、紅葉が始まった焼山や裏岩手連峰の縦走は予想した以上に楽しく、また概ね天候にも恵まれたこともあって、最近にはないほどの思い出深い山行となった。

登山口である新玉川温泉の標高は約700m。焼山までは700m弱の登りだからそうたいしたことはないので結構気楽な歩き出しである。ビジターセンター付近に車を置いて裏手へ通じている山道を進むと、まもなく多くの人で賑わう玉川温泉に着く。見渡せば登山者は見あたらずほとんど温泉を目的とした観光客ばかりである。玉川温泉を抜けてコンクリートと石畳の道をたどり、硫黄臭が漂う地獄谷遊歩道が見えてくるとまもなく焼山登山口だ。少し色付き始めた山肌を見ながら急な階段を登ってゆく。しばらく薄暗いブナ林が続いた。気温は低く、吐く息が白い。雨が降り出しそうな暗い空を見上げると気分は晴れなかった。

1100mを超えるとようやく視界がひらけてきた。左手から荒涼とした焼山の山頂部分が見えてくるとまもなく名残峠に着いた。標高は1324m。三角点のある焼山のピークへは南へ40mほどだが、特に三角点にこだわらなければここを山頂としてもよいような感じの所である。ここでは噴煙がいたるところから上がっていて、火山地帯に立っているのをあらためて実感させられるところだ。あまりに寒いのでここからは長袖のシャツを着た。眼下の火口湖を左手に見下ろしながら下って行き、鬼ガ城を過ぎるとまもなく焼山避難小屋についた。周辺ではすっかり紅葉が始まっている。その先の栂森のベンチでザックを下ろすと、正面には鳥海山の秀麗な姿が遠くに見えた。国見台を巻き、平坦路を過ぎると後生掛温泉までは意外と長い下りが続いた。石がゴロゴロした沢状の道は滑りやすく少しうんざりするところである。後生掛温泉の裏手に降り立ち、宿泊棟を抜けて正面玄関に出ると、ここでも多くの観光客でごったがえしていた。ここから八幡平までは予定では当然歩くつもりだったのだが、泥火山周辺を散策しているうちに道を間違えてしまい、時間を大きくロスしたためにバスで移動することにした。バス時刻までの余裕時間を利用して後生掛温泉の足湯に浸った。

見返峠から陵雲荘までは約20分ほど歩く。陵雲荘には水場がないというので見返峠にある八幡平パークサービスセンターで水を分けてもらった。八幡平は夕暮れが近いために観光客もすでにまばらだった。八幡沼の畔に建つ陵雲荘は7月10日に新築されたばかりの新しい山小屋で、中にはログハウスに使用するような高級なストーブが設置されてあって驚く。熾き火が少し残っており小屋の中もまだほんのりと暖かい。
こんな豪華な山小屋にもかかわらず、この夜はMARIUSZ GRABDA(マリウス-グラブダ)さんというポーランド人の男性と二人だけであった。といっても彼は日本が全く話せないというのでがっかりしたのだが、しばらくしてから私の小学生程度の英単語を並べるという、旅の恥はかき捨て的方法で声を掛けてみると、それがなんと少しずつ通じはじめたのだから面白いものである。環境を学ぶために東北大学にやってきたということや、翌日は裏岩手連峰を南下して岩手山をめざしていることなどが少し話しているうちにわかった。いま思い出してみても珍問答のやりとりのようなものだが、思いもよらなかった英会話教室のような時間を過ごしながらこの日の山小屋の夜が更けた。

翌日は5時前に起床して朝食の準備を始めた。今日は長い縦走路を歩くことになるので6時過ぎには小屋をでることにした。マリウス氏は8時に小屋を出るのだといいながらまだシュラフにもぐっている。今日の行程は途中まで同じなのだが、2時間も違えば道中は一緒になることはまずないので最後に握手をして別れた。八幡平の頂上を経由して見返峠に下りると、峠では新しい休憩施設を建設中であった。藤七温泉に向かって車道を歩いてゆくと途中に畚岳の登山口があり見上げると大勢の団体が登っているのが見えた。昨日も寒かったが今日も雪が降り出しそうな膚寒さだ。軍手では手がかじかむのでゴアの手袋をした。畚岳はさすがに展望は素晴らしく、秋田駒や大白森、そして遠く鳥海山もすっきり見えている。北西の方角に見える秀麗な姿の山は何だろうと地図を広げると、それは秋田の名峰、森吉山であった。

縦走路に戻ると分岐からはなだらかな道が続いた。その先の諸檜岳はピークという感じがしない山であった。先を歩いていた団体には前諸檜付近で追いついた。全部で50人の団体とのことで狭い山道では追い越すのも一苦労であった。私は先に行かせてもらったがその大半が女性で、この団体はマイクロバスを利用して畚岳の登山口から松川温泉への日帰りだという。裏岩手連峰縦走路はなだらかな山並みが続くとはいえ、ピークを8つも越えなければならない長いコースなのに、この女性パワーには圧倒されるばかりであった。

前諸檜まではぬかるみの多い道に閉口した。前諸檜からは大きな石がゴロゴロした道が続いた。石沼という池塘を大きくしたような場所があったが、日が射さず、寂しい風景だけが頭の片隅に残った。嶮岨森はなだらかな縦走路にあって一段と高いピークで、ここも
遮るものがないので眺望がよいところだ。縦走路の先にはなだらかな大深岳が横たわり、山の中腹には大深山荘も小さく見えている。山頂で一休みしていると、まもなく先ほどの団体が登ってきて、ひとしきり賑やかさが戻った。この頃には雲行きが少し怪しくなっていて、目前にはひときわ大きい岩手山が聳えていたが、ガスに見え隠れするばかりで、すっきりとした姿はなかなかみせなかった。嶮岨森を後にすると笹薮が目立つようになった。この付近は歩く人が少ないのだろうが、刈り払いも特に行われてはいないようである。大深山荘は現在改築中であり宿泊はできないようだった。山荘の近くに水場への標識があり縦走路で唯一の水場ではあったが、水は十分なのでそのまま通過する。山荘からはようやく笹ヤブからも開放されて気分が軽くなった。大深岳手前の分岐で休んでいると6名ほど登山者がやってくる。みんな松川温泉から三ツ石山を一周する日帰りルートのようだ。今日は岩手側が曇って、秋田側だけが晴れているなあとみんなぼやいた。

分岐からはひと登りで大深岳に着いた。山頂からは一転して大きく下るので、前方に聳える小畚山への登り返しがきつそうである。途中で八瀬森への分岐があり、ここからは曲崎山を経て去年カミさんと登った大白森へと縦走路がつながっているところだ。こちらの縦走路もいつか歩きたいと思っているコースのひとつであった。前方を見上げると小畚山と三ツ石のピークが見えた。この付近までくると雲が割れて日差しものぞくようになり、気持ちの良い山歩きが続いた。下りきった鞍部付近では意外にも小沢が横断しており、ここは臨時の水場にも使えそうである。これは地形図にはないもので、最近雨が降り続いたために沢水として残っているのかもしれなかった。小畚山への登りからは見晴らしの利くハイマツ帯になり、オオシラビソはいつのまにか見えなくなっている。周辺には高山的雰囲気が漂っていて、まるで朝日連峰を歩いているような感じさえするところだ。ようやく登り切った小畚山は畚岳と同様に展望が広がる山頂だった。ここでは湯を沸かして昼食にした。森吉山の上空は明るく晴れていたが、岩手山は相変わらず雲に隠れていてよく見えなかった。

小畚山から三ツ石山までの間は素晴らしい縦走路であった。なだらかな稜線にはナナカマドやミネカエデ、ウラジロヨウラクなどの潅木類の紅葉が鮮やかで、うっとりとするような山並みが続いている。穏やかで気持ちの良い稜線はまさしく山上の楽園を思わせた。三ツ沼を通過すると三ツ石山まではもうまもなくであった。道ばたに立つ標識には「三ツ石山荘まで1.9キロ、藤七温泉より12.9km」とある。ここまでずんぶん歩いてきたなあと、陵雲荘を出てからの今日の行程を少し振り返った。三ツ石山はゴツゴツした露岩の山頂だった。山頂には大勢の登山者がひしめき合っていて、すぐには座れる場所もなかったほどである。山頂からは大松倉山、犬倉山、姥倉山、 黒倉山と連なり、その先には岩手山がさらに大きく迫っている。しかし、長かった裏岩手連峰の縦走路も今回の行程ではこの三ツ石山が最後のピークである。暖かい日差しを浴びていると私は桃源郷に遊んでいる気持ちになり、三ツ石山の山頂からはなかなか腰を上げる気にはなれなくていた。

山頂から下ると赤い屋根の三ツ石山荘が眼下に見えてくる。三ツ石山荘周辺は湿地帯になっているところで、春先から初夏にかけては多くの高山植物が咲き競うところだ。ここからは松川温泉の他にも網張温泉や滝ノ上温泉にも下れるので、どこに下ろうか迷ってしまいそうな贅沢な地点でもあった。小屋では大勢の人達が休憩中だったが、まもなくするとほとんどの人達が松川温泉に下山していった。私は閑散とした山小屋の中で、地元の単独行の人と話をしながらのんびりと1時間ほど過ごした。三ツ石山荘から松川温泉までは1時間もあれば下れるのでもう先を急ぐ必要はなかった。松川温泉へは岩手山への道を少し進んだところの分岐から左に下って行く。小屋からはなだらかな道がしばらく続いたが、いったん下りはじめると徐々に勾配が増し、最後にかなりの急坂となった。急な階段を転げるようにしながら下りて行くと今夜の宿である松川温泉が目前だった。



八幡沼と陵雲荘



陵雲荘の内部




嶮岨森
左奥は大深岳



三ツ石山からなだらかな裏岩手連峰の縦走路を振り返る


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