【平成15年9月6日(土)/湯ノ平コースから浅間山】
釜山から噴火口をのぞく
まるで地球の内部を見ているような恐ろしさがある
歩き出すと一ノ鳥居までは林道のような幅広い道が続いた。付近はミズナラやカラマツ、ブナなどの鬱蒼とした樹林帯である。あいにくの曇り空だったが、朝の涼しい風が心地良かった。一ノ鳥居からは不動滝コースと巻道との分岐となっていて私は不動滝コースに入った。沢沿いの道の途中には水場があり、少し先でまもなく不動滝が現れる。不動滝は二段になって流れ落ちる滝でなかなか見応えがある滝であった。二ノ鳥居からは勾配が増してゆく。やがて見晴らしもきくようになり、前方からはいかにも火山地帯を思わせるような景観が現れ始めた。右手に荒々しい断崖を見せながら聳えるのは牙山だった。登り切るとカモシカ平の看板のある平坦な場所に出た。付近にはハクサンフウロ、ハクサンシャジン、ノアザミ、アキノキリンソウなどが結構まだ咲いており、この辺は春から初夏にかけては高山植物が咲き乱れるところらしかった。
カモシカ平を過ぎ、ひと登りすると硫黄臭の漂う場所に出た。ここは有毒ガスが噴出しているところで長居は出来ないところだ。急ぎ足で横切って行くとやがて火山館に到着する。火山館は最近建てられたばかりの新しい小屋で、テラスなどもあり休憩にはもってこいの場所だった。私は小屋前のテーブルにザックを下ろし、今日初めての休憩らしい休憩をとることにした。小屋には管理人がいて、中を見学させてもらう。火山館という名前から資料館のようなものを想像していたら、ここは緊急事態のときのシェルターを兼ねた単なる休憩小屋である。中ではストーブが焚かれていて、これからの寒い季節にはありがたい小屋だが、活動中の火山地帯のため、この小屋には泊まることはできないと聞きがっかりした。
火山館から浅間神社の前を横切り登って行くと湯ノ平の高原に出た。この頃になるとようやく日差しが差し始め、少しずつ青空も広がった。登山道の傍らにはやたらとマツムシソウが目立つ。高原からは賽の河原となり、樹林帯を抜け出すと右手前方からは浅間山が現れ、急に展望が開けてくる。ザレた道がずっと山頂付近まで続いていて、高度が上がるにつれて展望はすこぶる良くなった。左手には第一外輪山の荒々しい稜線がガスに見え隠れし、振り返ると広大な裾野の先端には小さく街並みが見えた。火山らしい高山帯の景観を楽しみながら登って行くとやがて分岐に着く。左のピークは釜山で右の斜面を登れば前掛山だが、分岐には火口である釜山への立入禁止告示板が立っている。すぐ近くには緊急避難用のシェルターもあり、まさに活火山の荒涼とした様相が漂っている場所だった。ここでどちらを登ろうか躊躇ったが、好奇心が不安を上回り、やはり火口まで登ってみることにした。
火口が近づくにつれて強風に煽られてくる。吹きさらしの稜線はさすがに寒くてじっとしていると体が震えてくるほどだった。やがて火口淵に登り着くと度肝を抜かれるような迫力ある光景が目の前に飛び込んできた。垂直に落ち込んでいる不気味な火口は、その壁面の至るところから噴煙が噴出し、まるで地球の内部を覗き込んでいるような恐怖感がある。私はこの光景に圧倒されながらも、一方では立入禁止区域に入っていることに後ろめたい気持ちもあって、記念に写真だけを納めてそうそうに立ち去ることにした。
分岐からはせっかくなので前掛山にも足を延ばしてみることにした。風はますます激しさを増し、途中から長袖シャツを着た。この斜面は見かけほど勾配もきつくないのであっさりと山頂に着いてしまった。前掛山には浅間山の標注が立ち、少し早めに登っていた単独行の人とお互いに写真を撮りあった。分岐に戻って腰を下ろして休んでいると少しずつ登山者が登ってくる。天候は薄日が差したり陰ったりを繰り返すばかりで、どうも天候は下り坂のようであった。登山口には昼過ぎに戻った。浅間山荘付近ではまぶしい陽光が降り注いでおり、いつのまにか顔や腕などは赤く日に焼けている。ここは登山口が温泉にもなっているので、汗を流してから帰宅の途につくことにした。天狗温泉の赤い湯に浸っているとこの2日間の疲れが少しずつ取れて行く気がした。
火山館のウッドデッキ
前掛山山頂
ここには浅間山の標識がたつ
後ろには噴煙をあげる釜山が見える