山 行 記 録

【平成15年8月22日(金)〜23日(土)/朝日連峰 天狗角力取山〜障子ガ岳】



天狗角力取山から障子ガ岳を望む(22日)


【メンバー】単独
【山行形態】夏山装備、避難小屋泊(天狗小屋)
【山域】朝日連峰
【山名と標高】粟畑1,397m、天狗角力取山1,376m、障子ガ岳1,482m
【天候】(22日)晴れ時々曇り、(23日)曇り後晴れ
【温泉】西川町大井沢「湯ったり館」(300円)
【行程と参考コースタイム】
(22日)南俣沢出合8:45〜雨量観測所11:50〜粟畑12:30〜天狗小屋13:00(泊)
(23日)天狗小屋6:15〜粟畑〜障子ガ岳7:30〜紫ナデ8:25/30〜出谷吹沢10:10〜南俣沢出合駐車場10:40

【概要】
天狗角力取山から障子ガ岳を巡るコースは、結構ロングコースにもかかわらず今まではいつも日帰りであった。いつか天狗小屋に泊まってのんびりと過ごせたらどんなにか楽しいことだろうと考えてもなかなか実現できないまま何年か過ぎていた。天狗角力取山直下に建つこの天狗小屋にはまだ泊まったことはなかったのである。今回は体調もすぐれないので厳しい山は敬遠したかったこともあり、その長年の懸案を実行するにはいい機会なのかも知れなかった。

久しぶりに訪れた
南俣沢出合では、砂防工事による通行止めのため車は駐車場まで進めなくなっており、ずっと手前の林道の路肩に留めなければならなかった。そのためでもないのだろうが、付近には工事の車両以外の車が1台も見あたらなかった。雨上がりのムッとした熱気のなか尾根に取り付くとすぐに暑い日差しが照りつける。しばらくするとバカ平と呼ばれる平坦なカラマツ林の中の歩きとなり、夏の日差しをしばし忘れることができた。しかし知らず知らずのうちに勾配は増して行き、やがて喘ぎ声がでてくるほどの急坂となる。全身から流れ出た汗は、すでにTシャツからズボンまでをびしょぬれにしていた。竜ガ岳北面のトラバースからはいったん急登から開放され、その先で水場を2ヶ所ほど通過する。ここでは汗を拭きながら疲れた足をしばし休めた。前回歩いたときはこの付近には雪渓がかなり残っていたのだが、今の時期、雪などはどこにもなかった。

小さな上り下りを繰り返していると、途中で朝の4時に登り始めたという宮城の夫婦連れに出会った。まだ11時前だったが、すでに障子ガ岳を登ってきたというから、もしかしたら昼前に下山してしまうのではと思われた。やがて鞍部から緩やかな山道をたどると樹林帯から抜け出して見晴らしの良いピークに着く。すぐ近くには雨量観測所があり、目の前にそびえるのが粟畑だ。登山口からここまでの標高差約800mを3時間で登ってきている。ずいぶんのんびりしたペースであるが、しかし今日は全身に疲労感が襲い、少し動くのも大儀になっていた。いつのまにか右手に聳える障子ガ岳は天を突くような、すっきりとした三角錐の姿を見せている。もう天狗小屋も間もなくだと思うとなんとなくホッとした気分になって銀マットを敷き大休止をとった。

粟畑からは出谷川をはさんで正面に以東岳が望めた。空全体に雲は多いものの、それでも稜線が見えるのはありがたかった。雨ばかり降り続く今年の夏にとっては、雲の多い今日のような日でも好天に恵まれたというべきだろうか。つい欲張って狐穴小屋まで足を延ばしたなるほどだったが、朝日の主稜線まではここからはまだ4時間以上は必要で、今日の体調ではとても無理であった。緩やかな山道を下るとまもなく天狗角力取山だった。付近にはアキノキリンソウ、マツムシソウ、オヤマリンドウ、キンコウカなどが咲いていたが、葉の色はすでに深緑というよりもうっすらと色づきをはじめている感じだ。薄曇りのなかで気持ちの良い涼風が吹き、いつのまにか秋の気配が漂いはじめた静かな天狗角力取山の山頂であった。

天狗小屋には人の気配もなくひっそりとしていた。この小屋は平成12年に改築されたばかりで、最近、飯豊や朝日連峰で建て替えられている他の山小屋と同様に、清潔な水洗トイレも設置された快適な山小屋である。階段の壁には大きな天狗のお面などが飾ってあったり、1階の本棚には図書が置かれてあるなど一風変わっている小屋でもある。私はザックをひとまず下ろして、Tシャツを干したり、水を汲んだりしながら小屋泊りの準備を少しずつ整えた。しかし時間はまだまだ早く、私は外に銀マットを敷いて横になった。外は日差しが心地よいので小屋の中よりはよほど暖かく、知らず知らずのうちに30分ほど眠った。それから遅い昼食を食べ、文庫本を読んだりしながら午後のひとときをすごす。天候はすこぶる良く、雨の心配もないので今日は何人か小屋泊りでやってくるかも知れないと思っていたのだが、夕方になっても結局誰もやってくることはなかった。そのうち太陽が天狗角力取山の山陰に隠れてしまうと山小屋の中が急に薄暗くなった。それを機にローソクを灯してのんびりと夕食の準備を始めた。しかし一人きりの夕食はいくらゆっくり食べても瞬く間に終わってしまい、食後は何もすることがなくなって、ヘッデンをつけてはまた文庫本を読んだ。就寝前に小屋の窓から眺めると、寒河江市の街並みなのかオレンジ色に煌めいていた。

翌日は4時半過ぎに起床した。まだ真っ暗だったが東の空が少し赤く染まりかけている。シルエットのように浮かぶ山並みは蔵王連峰のようだった。この少しずつ明るさを増してゆく早朝の風景は、山小屋に泊まった時の私の好きな時間である。外に出てみると昨日も風は強かったが今日はそれ以上の強風が朝から吹いていた。それから30分もするとすっかり日が昇ってしまい、モノトーンだった風景は一気に色鮮やかな風景へと変わった。しかし一時は青空が広がると思われた上空は、薄雲が広がり太陽はなかなか顔を出すことはなかった。ラーメンで朝食を済ませ、6時過ぎに小屋を出る。前線が上空を通過中のようで、強風に潅木が絶え間なく揺れている。粟畑のピークを過ぎるとまるで台風並の突風が尾根上を通ってゆき、思わず吹き飛ばされそうになる。庄内側はすでに雨が降っている模様で、稜線は全く見えず、遠からずここにも雨が降り出しそうな気配が漂っていた。それでも障子池付近は窪地のためか風も和らいで、気持ちの良い草原歩きのひとときを味わった。障子池からはひと登りで障子ガ岳に着いたが、その山頂にはいつのまにかりっぱな標柱が立っていた。

山頂から下り始めると濃いガスから抜け出して、右下には急峻な中先沢の沢底までが見えた。振り返るとガスの中にうっすらと障子ガ岳が浮かび上がり、また東斜面の障子を立てかけたような大きな岩壁は一直線に沢底へと落ち込んでいた。ヤセ尾根を大きく下り、鞍部から再び登り返すと紫ナデのピークに着いた。この紫ナデから北へは登山道はないものの、ヤブの向こうには大桧原山や赤見堂山へと伸びるゆるやかな稜線が続いており、いつかはこの稜線をたどって月山までを歩いてみたいものだと思ってからすでに何年も経ってしまっている。ここからあらためて眺めると、まるで飯豊連峰の烏帽子岳から御西の稜線を眺めたときか、あるいは北股岳から門内岳方面を眺めているような山並みが広がっているのである。それはたおやかな稜線という表現がぴったりするような、見ていて飽きない風景がここにはあった。そして眺めれば眺めるほどここから登山道があればなあと思わずにはいられなかった。

晴れたり曇ったりの天候が続いていたが、いつのまにか太陽はまた薄暗い雲にすっかり隠れてしまっている。一晩ゆっくりと眠って体調は戻っていたものの疲れはやはり足にきていて、紫ナデからは約3時間も下らなければならないのかと思うと気が遠くなりそうだった。潅木は絶え間なく風に揺れ続けており、相変わらず庄内側は真っ暗だった。いったん大クビトのピークに登り返すと、そこからは一気に急坂の下りとなる。標高が800メートルを切ると深い木立の中を下るようになり、樹林の中では清々しい風が吹き抜けてゆき、木漏れ日がキラキラと煌めいた。10時10分、ようやく
出谷吹沢の底に降り立つ。小屋を出てからここまで約4時間かかったことになる。出谷吹沢では頭から水をかぶって汗を流し、沢水を心ゆくまで飲んでから再びザックを背負う。そこからしばらく山道をたどると林道に飛び出し、約30分の林道歩きで昨日の出発点である南俣沢出合に戻った。付近には登山者の車らしいものは見あたらず、工事中の重機の音だけが山間の谷間に響き渡っていた。


天狗角力取山の直下に建つ天狗小屋



小屋には大きな天狗のお面が飾られてある



天狗小屋からの日の出
手前の山は
竜ガ岳


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