山 行 記 録

【平成15年8月2日(土)〜3日(日)/飯豊連峰 ダイグラ尾根〜梶川尾根】



門内岳付近から胎内尾根を望む
ニッコウキスゲとハクサンシャジンのお花畑が広がる


【メンバー】単独
【山行形態】夏山装備、避難小屋泊
【山域】飯豊連峰
【山名と標高】飯豊山2,105m、御西2,013m、烏帽子岳2,018m、梅花皮岳2000m、北股岳2025m
【天候】2日(曇り時々晴れ)、3日(曇り時々晴れ)
【温泉】小国町 国民宿舎「梅花皮荘」500円
【行程と参考コースタイム】
(2日)天狗平6:00〜桧山沢吊橋6:40〜休場の峰9:05/15〜千本峰9:55〜宝珠山標柱11:45〜飯豊山14:00/15〜本山小屋14:30(泊)

(3日)本山小屋4:30〜御西小屋(朝食)5:50着/6:30発〜御手洗の池7:15〜烏帽子岳8:15〜梅花皮岳8:40〜梅花皮小屋9:00〜北股岳9:30〜門内小屋10:23〜扇ノ地紙(昼食)10:45着/11:20発〜梶川峰11:50〜五郎清水12:15〜滝見場12:35〜天狗平14:00

【概要】
久しぶりのダイグラ尾根である。2カ月前に登ろうとして以来だから大分経ってしまった。よりによって梅雨も明けそうな真夏に登ることになるとは思わなかったが、思い立ったときが吉日と思うしかない。山小屋はかなり混み合うことが予想されるのでテント持参も考えたのだが、体調はいささか不調ということもあり今回は小屋泊まりの予定で自宅を出た。

朝早い時間にもかかわらず、飯豊山荘前の駐車場はどこもかしこもすでに満車状態である。湯沢のゲート付近には登山指導所が設けられており、飯豊連峰は今まさに夏山の本番を迎えていた。指導所で登山者カードに記入し早速出発する。桧山沢吊橋からは対岸に渡り、尾根の取り付きからは急登がしばらく続く。ここはかなりの汗を搾り取られる所だ。水はおよそ2リットル。その他にも水分の足しになるようなものが結構あってザックは結構重く、延々と続く急登にしばらくあえいだ。途中、950m前後の所に水場の標識があるが水は間に合いそうなのでそのまま通過。ときどき樹林の間からみえる飯豊の稜線には厚い雲が居座っていた。

まだ朝の涼しい空気が樹林帯に満ちていたが、時々雲間からはカッとする夏の日差しが照りつけると体力が奪われる気がした。上半身から流れた汗はズボンにまで滴るようになっていた。ザックの重さにはだんだんと慣れてきたものの、足は異様に重く今日のダイグラ尾根を半分は後悔している気持ちが心の片隅に芽生え始めている。体調は今一つで気が弱くなっているのかもしれなかった。とりあえず休場の峰まではがんばろうと自らを励ます。

休場の峰にはちょうど3時間ほどで着いた。風が少しあるので心地よい山頂だ。ここからは千本峰のはるか先にすっきりとした三角錐の宝珠山が見えている。その後方に聳えるはずの飯豊山は白い雲に隠れて見えなかった。山頂には二人の女性と男性の3人組が休憩を終え、千本峰めざしてちょうど出発するところであった。飯豊山荘を朝5時に出たというのだから私より1時間早い計算である。今日はかなりゆっくりとしたペースのつもりだったので、それでも追いついてしまったのが意外だった。しかし真夏のこの時期にダイグラを登る人などいないだろうと思っていただけに、同じようにがんばっている人がいるだけで励みになるような気がした。10分ほどの休憩で再びザックを背負って次のピークに向かった。

休場の峰からは二つか三つのピークの先に険しい千本峰が迫る。ゆったりとしたペースを守りながらもひたすら歩いていると、早くも下山する人達が少しずつ現れた。あまりに早いので時間を聞いてみたら4時半に本山小屋を出たという人達だった。千本峰の標識の立つ樹林帯を過ぎると前方に宝珠山が聳えていた。その間にはいくつものピークがあってまだまだ先は長いことを思い知らされる。もう少しだと思うのに宝珠山にはなかなか着かなかった。時々雲が晴れると御西のなだらかな稜線が現れる。まだまだ多くの雪渓を抱いていて、今年は早く雪が消えたと思っていただけに残雪の多さが意外だった。

岩稜帯を過ぎ、いくつかのピークを登り返しながら宝珠山の標柱までくるとピークももうまもなくである。この標柱の前後に雪渓が僅かに残っており、早速ザックを放り投げ、雪をかきむしって汗だらけの顔を洗った。この付近は残雪期にグリセードで下った頃を思い出すところだが、今はニッコウキスゲやハクサンコザクラ、マツムシソウなどの花々がいっせいに咲き乱れる世界である。ザックに腰を下ろして地蔵岳の稜線や大又沢に広がる風景をしばらく眺めていた。

宝珠山のピークから下ると奇遇にも西川山岳会の安達氏と出会った。彼はこの暑い盛りにダイグラ尾根を日帰りでピストンだというのだから驚く。さらに今日は未明の2時半に飯豊山荘を出たというのだから呆れるばかりであった。安達氏は登りの途中でビールを1本飲み、山頂では2本飲んでから下ってきたという。問いつめてみると下りの途中で飲む分もまだザックにあるというのだから空いた口が塞がらない。下戸の私には考えられないが、つらい山登りでもこうした特別な「燃料」がある人達がうらやましくなった。

宝珠山の岩稜帯まできたところで大休止をすることにした。ここまでくれば後は鞍部まで下り、最後の300mあまりを登れば飯豊本山は目前のはずである。気がつくといつのまにかガスに包まれていた。展望があまり無かったのは残念だったが、今日はこのガスのおかげでそれほど直射日光にも晒されずに登ることができたのを考えればむしろ感謝しなければならないような気がした。ここで腹ごしらえをして本山に向かった。

飯豊本山には14時ちょうどに到着した。天候がいまひとつのためか、山頂には誰もいない。御西への稜線を歩いている人も見えなかった。ザックを下ろしここまでの長い道のりを振り返る。体は非常に疲れていたが、こうしてまたダイグラ尾根を登ることができたのだという達成感に浸りながら、しばらく山頂からの景色を一人静かに楽しむ。山頂にはほとんど乱舞ともいえるほどのトンボが飛び交っていて、春山ではいつも閉口させられていたブヨなどの虫は全く見あたらなかった。付近には飯豊の特産種であるイイデリンドウが多数咲いていた。

本山小屋では二人の管理人が次々とやってくる登山者の受付に忙しかった。管理人によれば登山者はこれからも続々登ってくるらしく今日は間違いなく満員の予定だそうである。私は2階の東側の一角を指定され、ザックをひとまず下ろすととりあえず水汲みにでかけた。そして小屋に戻りシュラフの上に足を投げ出してしばらく眠った。一眠りすると5時近くになっており、外に出て夕食の準備をはじめる。小屋の周りでは大勢の人達が思い思いに夕食の楽しい一時を過ごしていた。夕食後「今、大日岳が見えるぞ!」という登山者の声に促されて外に出てみた。しかしガスの切れ間からは確かに大日岳が姿を見せていたものの、写真を1〜2枚撮っているうちに再び雲に隠れてしまい見えなくなってしまった。多くの登山者で満員にふくれあがった山小屋は、隣の人とは互い違いに寝なければならないほどの混み具合になり、その夜は暑苦しくてなかなか寝付くことができなかった。

翌日は4時に起床した。まだ薄暗い小屋の中でほとんどの人達が起きだしている。今日は4時半には出発したかったのでいそいで荷物をまとめた。まだ腹が空いていないので朝食は御西小屋でとることにしてとりあえず小屋の外に出てみると、朝の冷気は爽やかだったが、周りは濃霧に覆われているのでほんとど視界がなかった。強い湿気を含んでいるため、黙っていても全身が濡れてくるようだった。

御西への縦走路を歩いているとぽつりぽつりと御西小屋から登山者がやってくる。視界はよくなかったものの、おだやかな水平道が続くこの付近は、ニッコウキスゲなどの高山植物が咲く一面のお花畑になっているところで、花の多さと美しさにしばらく感激しながら歩いた。厚い雲が割れて上空からは時々青空ものぞいたりしたが、なかなかすっきりと晴れることはなかった。深い霧に包まれた御西小屋ではこれから出発しようとする人達でにぎやかだった。小屋の軒先で朝食用のラーメンを作っていると、早くも大日岳を往復してきたらしい人が何人か汗だくの表情で小屋に戻ってきた。

烏帽子岳へ向かうと、ここでも様々な高山植物が咲いており、長い稜線歩きでも退屈することがなかった。特に南斜面のお花畑は見事で、眺めていると時間を忘れそうになる。この区間ではとくにイブキトラノオやニッコウキスゲ、ミヤマキンポウゲなどが多く目についた。梅花皮岳まで来たところでようやく少し空が晴れてくる。陽が差すとジリジリとした夏の日差しが降り注いだ。梅花皮小屋では治二清水の水を水筒にたっぷりと補給する。昨夜泊まった人達はほとんど出発した後で、小屋には管理人だけが残っていた。登山者は北股岳付近で4人組にすれ違っただけで門内小屋までは静かな山道であった。時々青空がでるもののすぐにガスに包まれてしまう。今日の天候はどうもこんな調子であり、すっきりと晴れる気配はなかった。

数え切れないほどの花々を愛でながら続いた雲上の稜線歩きも扇ノ地紙の分岐点までである。梶川峰まで下ってしまえばあとはひたすら梶川尾根の急坂が待っているだけである。また尾根を下り始めれば暑い日差しに晒されるのは間違いなく、そう考えると何も急いで下る気にはなれなかった。6時に朝食を食べてからすでに5時間が過ぎていることもあり、扇ノ地紙から少し下ったところで昼食を取ることにした。池塘の見える草原に銀マットを敷き、インスタントの焼きそばを作る。食後はしばらくザックを枕にして横になった。チングルマの群生する草原の向こう側には丸森尾根や杁差岳があり、また地神山と残雪のコントラストも美しく、こんな風景を眺めている時間は至福のひとときであった。

梶川峰を下ると大きなザックを背負った多くの登山者が登ってくるのに出会った。さすがに8月で、この時期は週末とか曜日などはほとんど関係がないようである。梶川峰直下のトットビ沢の源頭部は以前から深くえぐられた登山道だったのだが、旧道へはロープが張られて通行は禁止され、今は笹薮に切り開かれた新しい道を通るように変わっていた。真夏の直射日光が照りつける中、1時15分、五郎清水を通過。滝見場では無線交信をしている人達と少し立ち話をしてさらに下った。湯沢峰では以前、梅花皮小屋でお世話をいただいた小国山岳会の斎藤氏と出会った。斎藤氏は2週続けて石転ビ沢を登ってきていたらしく、私が昨日ダイグラ尾根を登ってきたことを話すと、来週末には同じくダイグラを登りたいのだが、と言っていた。

湯沢峰からはまだ標高差約600mの下りがあるのだが、勾配が急なために飯豊山荘まではひと下りという印象である。ますます気温が上昇する尾根道をひたすら下っていると額や頬からは汗がボタボタと地面にこぼれた。途中、足を痛めたらしい女性が難儀しながら下っていた。梶川尾根の急で長い下りに膝が笑ってしまい、後ろ向きでないと下れないようであった。この状態の膝の痛さがよくわかるだけに見ていてつらいものがあったが、幸い飯豊山荘もまもなくなので先に下らせてもらった。登山口に降り立つと陽光が降り注ぎ、湯沢の橋の上には陽炎が揺れていた。私は早速ザックを放り投げて湯沢に下り、滔々と流れる冷たい沢水を頭から浴びた。雪解け水は陽に焼けた二の腕や首筋に気持ちよく、全身の細胞が生き返る思いがした。



宝珠山の岩稜から飯豊本山の稜線を望む



夕食を楽しむ登山者達
(本山小屋で)



ちょっとだけ姿を現した大日岳
(夕食後、本山小屋前から撮影する)



烏帽子岳に向かう登山道で



ニッコウキスゲやイブキトラノオが一面に咲く
梅花皮岳から下る途中で



石転ビ沢
(北股岳の途上で)




チングルマが咲き乱れる扇ノ地紙付近
遠望は杁差岳


inserted by FC2 system