山 行 記 録

【平成15年6月6日(金)〜7日(土)/飯豊連峰 石転ビ沢〜胎内尾根(二ノ峰直下まで)〜梶川尾根



快晴の石転ビ沢



【メンバー】単独
【山行形態】夏山装備(アイゼン、ピッケル)、避難小屋泊
【山域】飯豊連峰
【山名と標高】梅花皮岳2000m、北股岳2024.9m、門内岳1887m
【天候】(6日)快晴、(7日)晴れ
【温泉】飯豊温泉「梅花皮荘」500円
【行程と参考コースタイム】
(6日)天狗平7:00(410m)〜温身平分岐点7:20〜桧山沢吊橋7:45〜温身平分岐点8:10〜砂防ダム8:20〜梶川ノ出合9:20〜石転ビ沢ノ出合9:45-10:00〜梅花皮小屋12:20(1850m)(泊)

(7日)3:30起床(早朝、梅花皮岳往復)
梅花皮小屋6:30〜北股岳6:55〜門内岳7:30〜二ノ峰直下8:20〜門内岳9:30〜扇ノ地紙10:00〜梶川峰10:30〜五郎清水11:00〜滝見場11:20〜天狗平12:50

【概要】
先週に続いての飯豊連峰である。予定ではダイグラ尾根を登り石転ビ沢を下る計画を立てていた。この時期はまだ桧山沢に架かる吊橋がかけられておらず通行不能なのはわかっていたが、それでもこの時期のダイグラ尾根を登りたくて取りあえず吊橋までいってみると、吊橋には板が半分ほど掛けられていたものの、その先はワイヤーのみしかなく、そのワイヤーも手がかりがないので、どんなにがんばっても渡ることは不可能だった。頼みにしていたスノーブリッジも跡形もなく消えてしまっていては結局あきらめるしかなく、私は元の道を引き返して石転ビ沢に向かった。

東北地方は広く高気圧に覆われるとあって朝からすがすがしい青空が広がっていた。約1時間の無駄な時間を食ってしまったが、石転ビ沢は先週の悪天候に比べれば何の問題もなく、気分的にはすごく楽であった。今日はのんびりとした気分で歩いていると、砂防ダムを過ぎたあたりで新潟からきたという12名の団体に追いつき、その先でも二つほどのグループを追い抜いてしまうと、結局先には誰もいなくなってしまった。「うまい水」「彦衛門の平」を過ぎ、先週と同様に地竹原手前の沢で雪渓に乗る。しかしこの1週間で雪渓の状態はかなり変わっていた。先週末歩けた所も今日はすでに歩けなくなっており、危険個所をやりすごしてから雪渓を歩くことにした。石転ビノ出合までゆくといつものように大岩でアイゼンを装着。快晴の空に真っ白い雪渓と新緑はいかにも夏山らしい佇まいを見せている。こんな天候のもとで石転ビ沢を歩くのは快適そのものであった。時々左岸側から落石があり、ドッ、ドッと不気味な音をたてながら大きな石が転がってゆく。急斜面を登っていると前方に草付き付近を登っている登山者が一人見えた。北股沢の出合からは柔らかくなった雪面にまるで階段のようなトレースが続いており、梅花皮小屋まではそれほど緊張感もなく登ってゆくことができた。

梅花皮小屋の周辺はハクサンイチゲやミヤマキンポウゲが咲き乱れ、早くも一面のお花畑になっていた。小屋では二人の登山者が休憩中であった。玄関で取り留めのない話をしているうち、一人はまもなく御西小屋に出発してゆき、一人は日帰りらしく石転ビ沢を下ってゆくと小屋には誰もいなくなってしまった。小屋の入り口付近には、思わずうたた寝をしてしまいそうな気持ちの良い日差しが降り注いでいる。しばらく登ってくる人もなく、私は昼食を済ませると外に出て、文庫本を読んだりしながらのんびりと一人の時間を過ごした。午後も2時を過ぎると三々五々登山者が石転ビ沢を登ってくるようになり、小屋前はだんだんと賑わいを増した。小屋に着くなり早々と宴会を始める者や、一休みを終えて早速山スキーを楽しんでいる者もいる。夕方になると日没の風景を写真に撮るのだといって4〜5人が北股岳へと登っていった。この日の宿泊は30名ほどにもなり、平日なのに山小屋は予想外に混み合った。

翌日は3時半に起床。まだ外は薄暗かったが、ご来光を眺めるため梅花皮岳まで登ってみることにした。稜線は朝の冷たい風が吹いていたが、ウインドブレーカーを着るとそれほど寒くはない。ひんやりとした朝の空気はすでに夏山の雰囲気を感じさせた。徐々に蔵王連峰付近の上空がオレンジに染まり始め、真っ赤な太陽が少しずつ浮かび上がってくる。刻々と変化する様は見ていて飽きることがなかった。私は太陽が昇ってもしばらく雲海に浮かぶ山々を眺めていた。

小屋に戻ると、ラーメンと昨日のおにぎりで簡単な雑炊をつくって朝食を済ませ、6時半には梅花皮小屋を出た。ほとんどの登山者は石転ビ沢を下る予定で小屋を出ていった。北股岳への夏道はまだ半分以上雪に覆われており、山形県側に張り出した雪渓を慎重に登る。滑れば石転ビ沢へと真っ直ぐに滑落して行きそうなほどの急斜面である。山頂は大勢の登山者達で賑わっていた。ザックは小屋に置いてきたらしく、みんな空身であった。山頂からは門内岳、扇ノ地紙、地神山への主稜線が北へと続き、北の果てには杁差岳が僅かにのぞいている。私はこの久しぶりに眺める風景にしばし見とれていた。

門内岳には梅花皮小屋からちょうど1時間で着いた。山頂からは笹薮の向こう側に胎内尾根が伸び、波打つ尾根の先には二ノ峰の鋭鋒が天に突き上げるように聳えていた。胎内尾根は昨年の秋、門内岳まであと一歩というところでヤブと悪天候に阻まれてしまい、藤七ノ池付近から引き返した因縁の尾根である。門内岳から未踏の区間は僅かだが、それでも二ノ峰までは直線距離にして2kmほどもあるので安易に踏み入れるわけには行かない。しかし雪渓を歩けることと、梶川尾根を下るにはまだ早い時間ということもあって、胎内尾根を少しだけ偵察してみることにした。予定外の行動なので、無理はせずにゆけるところまでゆくことにして、アイゼン、ピッケルを持ち、サブザックには水筒だけをいれた。

門内岳からはすぐに笹薮に入った。胸まである密生した笹薮に早速足を取られたりしたが、少しすると足元には登山道らしき踏跡が見えた。といってもほとんど廃道同然であり、ヤブ漕ぎはすこしも楽にはならなかった。途中でどうにも耐えきれなくなり、左手の雪渓に逃れるとさすがに雪渓歩きは快適で、胎内尾根を下っているということを忘れた。急斜面がずっと続いたが、ピッケルで制動をかけながらグリセードでどんどん下った。途中で雪渓が切れている箇所があってそこはヤブをかきわけて進むとまた雪渓が現れた。しかし太い幹が絡んだヤブに入ると昨年の地獄のようなヤブ漕ぎが脳裏によみがえってきてあわてた。門内岳からは高度、およそ400m近くも下っただろうか。見上げればすっきりとした三角錐の二ノ峰が、目の前にそびえ立っていた。そこから藤七ノ池までは500mもないようだったが、この先で雪渓は途切れていた。立ち止まった付近はシーンと静まり返り、深い渓谷の最奥部からは小鳥の鳴き声さえ聞こえなかった。そこは門内岳も北股岳も見えない最低鞍部であった。雪渓がまだ多く残る4月か5月上旬であれば、ピークを卷いたりしてもう少し楽に二ノ峰までは行けそうであったが、今回はヤブ漕ぎをしてまで進む気持ちはなく、今日はここまでとした。

登り返しの雪渓はかなりの急斜面なので、そこからはアイゼンを装着した。一歩ごとにピッケルを差し、アイゼンを確実に刻みながら門内岳に引き返した。門内岳には約2時間で戻った。胎内尾根から眺めた門内岳や北股岳の光景だけが収穫として残った。結局わずかな偵察時間だったが、この散策で予想外に疲れてしまい、しばらく門内岳の山頂で休んでから梶川尾根にむかった。

扇ノ地紙はほとんど雪に覆われていた。梶川峰付近もかなりの残雪があって夏道をかくしていたが、途中でポツリポツリと登ってくる人がいるので迷う心配はなかった。雪渓が融けだしたところからはイワカガミ、チングルマ、カタクリなどが咲き始めている。梶川峰を過ぎたあたりで、道に迷っている3人のグループがおり、私は声をかけて夏道に誘導した。そこはダケカンバの峰の直下付近で、急斜面に雪渓が残っているところである。3人は雪渓を登っているうちに誤って反対側に進んでヤブに入り込んだものらしかった。いたるところに雪渓の残る今の時期は、明瞭な尾根道でも要注意だということかもしれない。五郎清水は標柱さえも雪に埋まっているので水場は当分使えそうになかった。

さらに夏道と雪渓歩きを交互に繰り返してゆくと滝見場に着く。ここは日当たりが良い場所だけに雪などないだろうと思っていたのだが、予想外に滝見場は広い雪原となっており、見慣れたいつもの面影はなく、無雪期とは全く違った風景が広がっているだけだった。滝見場を下るとさすがに残雪はほとんどなくなった。夏場には熱射病も心配な長丁場の梶川尾根である。延々と続く急坂にうんざりする頃、眼下に飯豊山荘が見えてくるとようやくホッとする。全身から止めどなく汗が流れていた。風も通らない樹林帯をさらに黙々と下っていると、私は道の傍らにヒメサユリが一輪咲いているのを見て思わず立ち止まった。その淡いピンクの可憐な花びらを見ていると、疲れていた気持ちがふっと和らぐようだった。それは今年はじめて見るヒメサユリであった。




桧山沢に架かる吊橋
なんとか通れそうな気がするが、残念ながら通行不能である




お花畑と大日岳
梅花皮小屋から



梅花皮小屋と北股岳
水場付近から



梅花皮岳
御西小屋をめざして登山者が一人登っていった



梅花皮小屋前からの梶川尾根



午後2時を過ぎると大勢の登山者が石転ビ沢を登ってきた



梅花皮岳から望む大日岳とミネザクラ(早朝4時25分)



梅花皮岳からのご来光(午前4時40分)




胎内尾根と二王子岳
ギルダ原付近から



二ノ峰間近
この少し先の雪渓から引き返した



胎内尾根から望む門内岳



ほとんど雪に覆われている扇ノ地紙
正面は地神山、奥に杁差岳が見える



滝見場から石転ビ沢を望む
標柱はまだ雪に隠れていて見えない



飯豊山荘がようやく眼下に現れる
梶川尾根の途上から



登山道に咲く一輪のヒメサユリ


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