山 行 記 録

【平成15年5月17日(土)〜18日(日)/朝日連峰 針生平〜大朝日岳〜祝瓶山】



平岩山付近から望む大朝日岳



【メンバー】単独
【山行形態】夏山装備、避難小屋泊(大朝日小屋)
【山域】朝日連峰
【山名と標高】北大玉山1469m、平岩山1609.0m、大朝日岳1870.3m、大玉山1,438m、祝瓶山1,417m
【天候】(17日)曇り後晴れ、(18日)曇り時々晴れ
【温泉】西置賜郡小国町五味沢 白い森交流センター「りふれ」500円
【行程と参考コースタイム】
(17日)大石橋8:20〜角楢小屋8:50〜大玉沢出合吊橋10:00〜森林限界10:50〜大玉山分岐12:00〜
     北大玉山12:20〜平岩山13:00-13:30(昼食)〜14:40大朝日岳14:50〜大朝日小屋15:00(泊)

(18日)大朝日小屋6:00〜大朝日岳6:10〜平岩山7:00〜北大玉山7:50〜大玉山8:45〜前大玉山9:05〜
     水場分岐9:25〜赤鼻尾根分岐9:40〜鈴振尾根分岐10:35〜祝瓶山10:50-11:30〜大石橋14:00

【概要】
この時期に小国口から大朝日岳を登るのは3年連続になる。針生平からは行程も長いうえに大朝日岳までの標高差1450mを考えると、つい二の足を踏みそうになるのだが、それだけに充実感のある山旅を楽しめるルートである。二日目の予定は祝瓶山への縦走路を周回する予定だが、それはあくまで体調次第という計画とした。

大石橋の駐車場には車は5〜6台ほど停車中だったが、登山者のものではなく釣り人か山菜取りのようであった。予報では週末の天候は好天に恵まれそうなのに、駐車場周辺はあいにく小雨模様で、気落ちしながら歩き始める。その雨も吊橋を何本か渡っているうちにほぼ上がってしまい、カクナラ小屋付近では薄日も差すほどになり、気温が上がり始めていた。

荒川源流に沿って平坦なブナの原生林を2時間弱歩き、最後の大玉沢出合に架かる一本吊橋を渡るとようやく尾根に取り付く。ここからはほぼ一直線の急登が300m以上続く。登りはじめると汗の匂いにつられて大量のブヨがまとわりつき閉口する。虫避けスプレーを振りかけてみるが、ほとんど効果がなく、次回こそは虫対策をしなければと思った。登山道の両側にはイワウチワの群落が続き、タムシバ、ムシカリ、ムラサキヤシオなどが盛りだ。

まだ雪渓に覆われている蛇引の清水を通過すると、傍らには残雪が現れ、ほどなく森林限界を抜け出した。大玉沢から吹き上げる風は涼しく、ようやくブヨの大群からは開放される。ここからは北大玉山が目前で右手には大玉山が大きい。美しい残雪と新緑のコントラストは眺めていて飽きない風景だ。しかし縦走路の末端には残雪を抱いた祝瓶山が天を突くように聳えており、明日あの高低差を登るのかと思うと思わず気が遠くなった。ここまで一気に登ってきて大量の汗が流れていた。残雪で汗を拭い、少なくなった水筒に雪を詰めて再び歩き出す。森林限界からはおびただしいほどのカタクリが咲いていた。

稜線は涼しい風が吹き、新緑のブナ林が残雪に映えていかにも春山らしい雰囲気が漂っている。いつもこの稜線に立って初めてつらい登りに耐えてきてよかったと思うのである。雪は例年より多く、いつもは夏道のところも残雪が道を塞いでいた。野川分岐にはちょうど正午に着いた。標柱がいつのまにか新しいものに替わっており、周りにはミネザクラが咲きはじめている。時々日差しが差すものの、それは長続きはせず西の空は再び曇り始めていた。どうも今日は陽が照ったり陰ったりの繰り返しのようである。

今日は非常に疲れていた。シャリバテなのだろうか、平岩山が目前の所でどうにも動けなくなり、雪を取れる場所を選んで昼食をとることにした。いつもは一気に大朝日岳まで登っているのだが、久しぶりの長い行程にバテ気味のようであった。焼きソバを食べると少し力が湧いてきた気がして再びザックを背負った。

高曇りのような天候が続いていたが、歩いているうちに雲に隠れていた大朝日岳がようやく姿を現す。汗を飛ばしながら最後の350mほどの急登に耐えると、ようやく大朝日岳山頂に到着した。登り始めてから6時間以上たっていたが、今日はもう登ることはないのだと思うこの開放感がたまらない。誰もいない山頂で心地よい疲れを感じながら360度の展望を楽しむ。雲が多くて遠方の山々は霞んで見えなかったが、それでも縦走路の北端には以東岳を望むことができた。どこからともなくウグイスが鳴き、遠くの沢からは時折ガラガラと雪崩れる音が聞こえていた。

大朝日小屋では早めに着いた登山者が7〜8人ほどいて思い思いの時間を過ごしている。私も早速雪を解かして水を作り、コーヒーを淹れて一息をついた。その後、二組のパーティが加わってこの日は総勢15人ほどの宿泊となった。ほとんど古寺鉱泉からの人達で、最後に着いた3人組だけが日暮沢から竜門山経由できたらしかった。しばらくすると若いスノーボーダーが2人、Y字雪渓を滑るのだといって小屋を出ていった。私はカメラを構えながら小屋前からY字雪渓を滑り降りる二人をしばらく眺めていた。

暗くなる前に夕食を済ませると、小屋の窓からはオレンジ色の日差しが差し込んでいる。ちょうど西朝日岳に夕陽が沈もうとしているところだった。登山者の何人かはそんな景色を眺めるために山頂にいってくるといって小屋を出ていった。その日は風もなく穏やかな夜が更けてゆき、満月を思わせるような煌々とした月明かりが、一晩中夜空を照らしていた。


翌日は4時半に起床した。外に出て夜明け前の写真を何枚か撮る。昨夜はもう一歩も動けないほど疲れていたが、ぐっすり眠ったおかげでだいぶ快復しており、この分だと予定通り祝瓶山への周回コースをとれそうな気分になっている。窓の外を見ると中岳や西朝日岳のまわりには雲海が広がっており、朝から晴れる気配が漂っていた。私は朝食にカップうどんをつくり、食後はコーヒーを飲んでから小屋を6時に出発した。

小屋を出ると急に風が強まり、朝方まで見えていた山頂もガスに隠れてしまった。雲海がガスとなって下から吹き上げてくるようであった。平岩山との鞍部まで下る途中でようやくガスから抜け出し視界が戻る。縦走路の先には北大玉山や大玉山、祝瓶山の峰峰が見えた。左手の白い山並みは一見飯豊連峰だと思ったが、よくみると柴倉山、三体山の稜線で、飯豊の主稜線は朝靄に隠れて全く見えなかった。朝の清々しい空気に触れながら歩くのは久しぶりのような気がした。稜線漫歩を楽しみながら北大玉山を通過する。遠くから沢音だけが聞こえる静かな山道だった。

野川分岐を過ぎると道は少し不明瞭になる。ここもおびただしいカタクリの群落が続き、踏まないように気を配るのがたいへんであった。雪渓と夏道を交互に繰り返しながら高度がどんどん下がる。鞍部からは大玉山がひときわ大きく前方に聳えていた。大玉山は三角点のある山頂にこそ雪はないものの、東側一帯は大量の雪に覆われていた。日差しは暑く汗が止めどなく流れていた。水筒はいつのまにか底をついており、残雪を水筒に詰めた。

大玉山から下ると雪はところどころに現れるだけでほとんど夏道となった。三角点のある前大玉山を再び登り返し、鞍部付近の水場の標識を通過すると、さらにいくつかのピークを登り下りしながら赤鼻尾根の分岐についた。ここからは左手に木地山ダムが見えはじめ、また正面の祝瓶山がさらに大きく迫ってくるところだ。上空には薄黒い雲が広がり、今にも雨が降りそうな気配さえ漂っているが、これからの登りを考えれば、暑くない分だけ登りやすい天候ともいえた。赤鼻尾根の分岐からはさらに高度を下げ続ける。祝瓶山の最低鞍部の標高は980m。ここからはおよそ440mの高度を登らなければならない。疲れ切った体にはこの標高差は途方もない高さに思えた。昨日までの疲れは一晩で快復したと思われたものの、さすがにここまでのアップダウンで体力は底をつきはじめていた。

急坂の途中で樹林帯を抜け出すと涼しい風が体を撫でて行く。この涼風は汗まみれの体にはまさしく生き返る思いがした。この風の爽やかさを味わうために山を登っているのだと思いたくなるほどの心地よさである。鈴振尾根分岐手前には大きく雪渓が残っていた。雪の急斜面をキックステップで登り切ると鈴振尾根の分岐に着く。ここから祝瓶山の山頂まではひと登りだったが、いつのまにか痛み始めた足のためにゆっくりと登らなければならなかった。

祝瓶山の山頂には大朝日小屋を出てから5時間ほどかかって到着した。大朝日岳から祝瓶山までの縦走路を歩くのはこれで3回目だったが、いつもながら長いなあと思わずにはいられない。しかしそれだけにようやく歩き通したのだという達成感に満たされていた。振り返ると大朝日岳はいくつもの山並みの向こうにかすんで見えるだけで、すでに遥かかなたに遠ざかっている。祝瓶山荘を見下ろしてみても誰も登ってくる気配はなく、たった一人きりの静かな山頂であった。私は雪で冷やした果物の缶詰を食べながら山頂では40分ほど休んだ。

祝瓶山からはますます痛みだした足をかばいながら下らなければならなかった。久しぶりの長丁場を歩いて膝が笑いはじめていた。尾根の途上には華やかなアズマシャクナゲが咲き、少し高度が低くなるとタムシバやムラサキヤシオに目を奪われる。私はそんな春の花々に励まされながらゆっくりと長い尾根を下った。しかし鈴振尾根もブヨが多く、そのうっとうしさに耐えかねて、暑いにもかかわらず途中から長袖シャツを着なければならなかった。高曇りの天候のなか気温は少しずつ上昇している。汗は止めどなく流れ続けていたが、それは膝の痛みからくる脂汗なのか、暑い日差しのためなのかわからなくなっている。大石橋には2時間30分かかって降り立った。大朝日小屋を出てからちょうど8時間だった。2本のストックがなかったらもっと時間がかかっていたのかもしれない。私は足の痛さに耐えながら、荒川の源流で汗を流し、今日の長い縦走路を振り返っていた。



荒川源流に架かる一本吊橋
対岸からはひと登りでカクナラ小屋につく



蛇引尾根からの祝瓶山
手前は大玉山の稜線



蛇引尾根と野川口との分岐点
登山道は北大玉山へと続く


晴れ渡った大朝日岳山頂



Y字雪渓から見る小朝日岳と鳥原山の稜線



Y字雪渓を滑るスノーボーダー



夕暮れ迫る大朝日小屋



夜明け前のY字雪渓(午前4時20分)
左奥は小朝日岳



早朝の中岳と西朝日岳(午前5時)



縦走路から見る、大玉山と祝瓶山



前大玉山から大玉山を振り返る



祝瓶山山頂
大朝日岳(中央奥)はすでに遥か遠い


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