山 行 記 録

【平成15年4月19日(土)〜20日(日)/月山〜肘折温泉】



小雨が降り続く、早朝の念仏ヶ原避難小屋
この時間、まだ視界があるが月山は見えない。[AM5:35]



【メンバー】単独
【山行形態】テレマークスキーによる山行、冬山装備、避難小屋泊(テント、スコップ持参)
【山域】出羽三山
【山名と標高】月山 1980m
【天候】(19日)曇りのち雨&ガス(20日)雨&ガス
【温泉】肘折温泉 共同浴場 200円
【行程と参考コースタイム】
    自宅5:45=(車)=姥沢7:30
19日 姥沢リフト終点8:20〜月山頂上9:50〜立谷沢橋10:40〜念仏ヶ原避難小屋11:40
20日 小屋5:40〜小岳6:30〜ネコマタ沢7:40〜大森山9:00〜林道9:20〜林道除雪終了地点9:50〜肘折温泉10:10
    肘折温泉12:10=(バス)=13:20新庄駅1350=(JR)=15:00赤湯=(車)=自宅着16:00

【概要】
まるで週末を狙ったように天候が崩れるというサイクルが、4月に入ってからずっと続いている。しかし今日は午前中ぐらいなら持ちそうだと思いなおしてカミさんに姥沢まで送ってもらう。空全体に薄雲が広がっているが、西川町に向かう車からは月山の山頂が見えた。姥沢には何回か通っているのだが月山の姿を見るのは今年初めてであった。

リフト乗り場で登山者カードを記入して早速リフト終点に向かう。念仏ヶ原の避難小屋は今年も雪に埋まっている可能性があり、一応テント、シュラフ、スコップなども持ったのだが、担いでみるとザックがかなり重くて、カミさんに預けなかったことをすぐに後悔した。リフト終点からは牛首を目指してほぼ真っ直ぐに登り始めた。天候はいまひとつだったが、一週間前のホワイトアウトからみれば快適の一言で、後ろを振り返れば残雪に覆われた朝日連峰の山並みが見えた。

牛首の稜線はさすがに冷たい風が吹いている。鍛冶小屋まではあとひと登りだが、急斜面に取り付くとまもなく、小雨が降り出してきてしまった。一時薄雲が切れて青空も広がるのではと期待していた天候は、そんな思いとは裏腹に悪くなる一方であった。鍛冶小屋では風を避けるように休憩中しているスノーボーダー達が4人ほどいるだけで、他には登山者は見あたらない。スキーを担いで山頂に向かうと急に風が強まり、同時に猛烈なガスが広がり、視界は見る間になくなってしまった。四つん這いになりながら踏ん張ったが、それでも折からの強風に煽られて倒されたりした。

月山山頂は濃霧のために何も見えなかった。雨は激しさを増し、まさに山頂は暴風雨の様相を呈している。不安感が募る一方だったが、急いでシールをはずし方角だけを決めて一気に滑り降りると、まもなく風も弱まり視界も少しずつ効くようになった。月山の東斜面に広がる大雪城は、晴れていればこのうえない快適な斜面なのだが、今日はひたすら雨との競争である。天候は回復するどころか雨足はだんだん強くなっていた。千本桜はあの辺りだろうかと狙いを定めて大きくターンをしながら下る。ザラメ雪は滑りやすいのだがいつになく重いザックに体が振られて途中何度か転倒した。

千本桜の急斜面の肩に立ってみると、雪面は大きく崩れていて長い亀裂が走っていた。大きく迂回しながらなんとか通過して広い尾根上に出る。トレースは全く見あたらなかった。例年この付近では念仏ヶ原の台地を眺めながら一休みするところだが、今日はそんな気分にもなれない。雨は一向に止む気配はなく、立谷沢の渡渉地点までは一気に下った。半分ほど雪が消えかかった立谷沢橋を右手に見ながらスノーブリッジを対岸に渡り、そこからは再びシールを貼って念仏ヶ原へと向かった。最近の雨で雪が少なくなった斜面を難儀しながら登ると広々とした念仏ヶ原の雪原にでた。月山の山頂付近は黒々とした雨雲に隠れて見えなかった。

念仏ヶ原の小屋は1階の入口が見えるほど雪解けが進んでいた。2階へのハシゴを登って小屋に入り、濡れたものをロープなどに吊し終えると早速食事の準備だ。ゴアテックスの雨具を着ていたにもかかわらず全身濡れてしまって体はかなり冷え切っている。昼食に暖かいカップラーメンを食べると少し気分が落ちついた。時間はまだ昼を少し過ぎたばかりである。小屋にある布団や毛布も使わせていただき、シュラフに潜りこんだ。そうしているうちに体が温まりしばらく眠った。その後、文庫本を読んだりラジオを聞いたりしながら時間をつぶした。結局その日は新たに訪れる登山者もなく、小屋泊まりはひとりきりであった。夜は風雨が強まり小屋は一晩中うなり声が絶えなかった。

翌日、窓の明るさに促されて外に出てみると細かい雨が休みなしに降り続いておりがっかりした。視界は昨日よりもはっきりしていたものの月山は見えなかった。ラジオの天気予報によると今日も雨模様のうえに午後からの確率は80%と高い。土砂降りにならないうちに早めに小屋を出ることにした。

小屋を出ると一瞬だがガスの切れ間から月山が姿を現した。何ともいえないような神々しい姿に感動する。悪天候の中、念仏ヶ原までたどりついた者へのご褒美のような気がした。しかしたちまちガスが流れて視界がなくなり、その後、月山が再び姿を現すことはなかった。小岳に向かう区間は月山の姿を眺めながら登れるので楽しみにしていたのだが、今日はすぐ目前の小岳のピークさえ見えなかった。

小岳のピークでシールを外し、早速緩やかな雪面を下って行く。記憶にある斜面であり、まもなく赤沢川沿いに下って行くはずであった。ところが見覚えのない斜面を下っていることに気づき、あわててGPSを取り出す。現在地を確認すると、めざしていた次のピークからは大きくコースが逸れていることがわかった。私が小岳と思ったピークは手前の1199mのピークだったのだ。トラバースしながら本来のルートに戻ろうとしてもかえって遠ざかるばかりである。しかたがないので途中から再びシールを貼って小岳へ登り返した。視界がないというのは恐い。記憶にある地形とはいっても雪山では至る所に似たような地形があるのだというのを今更ながら知らされたようなものであった。

常にポケットに入れていた地形図は、降り続く雨に破れてしまいほとんど役に立たなくなっていた。そこからはGPSでときどき現在地点を確認しながらコースを進んだ。ツアーのコースとはいえ、今日のような悪天候の時は誰も通ることはない山奥である。怪我をすればすぐに遭難につながるので、急斜面はほとんど横滑りで下り安全策をとった。ネコマタ沢もまた大きく雪庇が崩れていて、上部にはすでに雪がなくなっている。そこもまたコースを大きく迂回しなければならなかった。

ネコマタ沢の末端を左に大きく回り込み、正面の急斜面を登り返すと778mのピークだ。昨年はここで陽光の降り注ぐ中、西川山岳会のメンバー達とのんびりと休憩したことを思い出したが、今日は展望が利かない薄暗いブナ林が広がっているだけであった。ここからはしばらく樹林帯となり、GPSはほとんど機能しなくなった。記憶を頼りに尾根なりに進んでゆくと、見覚えのない大きな池塘が、突如ガスの中から現れたりしてあわてた。周囲の状況が見えない中で地形を読むのはさすがに困難をきわめた。

右往左往しながらも徐々に大森山が近づいていた。急斜面の直下までくるとさすがに見覚えのある現在地点は疑いようもなく安心感が広がった。今日は何回の登り返しがあったのだろう。思い出せないほどの登りで両足の太股はパンパンに張っていた。スキーを担ぎながら最後の急斜面の登りに汗が流れた。雪が柔らかいので滑落する心配はなかったものの、45度以上はあろうかという急斜面である。大森山の山頂までは何回もストックで支えながら休まなければならなかった。

大森山へはちょうど9時に着いた。山頂は相変わらず雨に煙っていたが、あとは尾根伝いに下るだけなので方角さえ間違わなければ問題はない。喉がカラカラに乾いており冷たい水筒の水が美味しかった。そこからは横滑り、斜滑降、キックターンを駆使しながら一気に下り、やがて肘折温泉に通じる林道の一角にでた。ほとんど視界が無い中、なんとかここまで無事にたどり着いたのだという感慨にしばし浸った。

林道といっても下り始めは道形さえはっきりわからなかった。しかし半分ほど下った地点からスノーモービルのトレースが現れると一気に緊張感が解けた。私は降り続く雨のために下着までずぶ濡れになっていた。冷え切った体はまるで濡れネズミのように震えはじめている。気が張っていたせいか行動中はあまり寒さを感じなかったのだが、緊張感からようやく開放されて初めて寒さを感じてしまったのかもしれなかった。今回ほど一刻も早く温泉の熱いお湯に浸りたいと切なく思ったことはない。まもなく眼下には麓を走る林道が飛び込んできたが、肘折温泉は降り続ける雨に煙っていて見えなかった。



牛首直下から仰ぐ月山山頂
連日の雨でかなり積雪がなくなってしまった[AM8:30]



一瞬だけ姿を現した月山
(念仏ヶ原避難小屋の上部付近から)[AM5:48]



ガスに煙る大森山山頂[AM9:00]


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