山 行 記 録

【平成15年3月16日(日)/飯豊連峰 栂峰



1490m峰から望む栂峰



【メンバー】単独
【山行形態】テレマークスキーによる山行、冬山装備、日帰り
【山域】飯豊連峰
【山名と標高】栂峰(つがみね)1,541m
【天候】晴れ
【温泉】飯豊町「フォレストいいで」300円
【行程と参考コースタイム】
小屋集落除雪終了地点(480m)6:10〜林道終点(660m)7:35〜990m峰9:00〜1102mピーク9:25着/9:35発〜1402mピーク11:05〜1490m峰(神社)11:35〜栂峰12:20着/13:00発〜1490m峰14:00〜1102mピーク14:30〜林道終点15:00〜小屋集落除雪終了地点16:00

【概要】
「東北山スキー100コース」では最高の評価をもって紹介されている栂峰。1週間前もこの栂峰に向かったのだが大雪直後のラッセルにあえなく敗退している。今日もまた続けて敗退というわけにはゆかないので、朝方、暗いうちに自宅を出た。東北地方は移動性高気圧に広く覆われる予報なので、今日は願ってもないチャンスといえそうである。小屋の集落が途切れる除雪終了地点には1台乗用車が停まっていたが、登山者のものではなく渓流釣りのようであった。

6時10分、早速シールを貼って歩き始める。林道は堅雪となっておりスキーはほとんど潜らなかった。昨夜からかなり冷え込んだためで、この前のラッセルがウソのようである。前回よりは20cm程度の積雪があったようだが、あれから他には人が入った様子はなく、1週間前の私のトレースがうっすらと続いているだけであった。人の踏み跡はなかったものの、林道には動物の足跡があたり一面に散乱しており、かなりにぎやかだ。兎やカモシカの他、中にはあきらかに熊のものと思われる大きな足跡もあり、途中でザックに熊避けの鈴をつけた。歩いていると、まわりの景色が徐々に明るさを増し、正面に見える栂峰の稜線には朝日が当たり始めていた。

林道終点には1時間25分で着いた。ここでスノーブリッジを対岸に渡り、急斜面に取り付く。さすがにこの付近はスキー靴が埋まるぐらい雪は柔らかいが、それでも1週間前のラッセルほどではないのでなんとか一人でも行けそうである。すぐに杉林の斜面になり、ジグザグに登って行く。ここでは1週間前のトレースはすっかり消えていた。杉林の中は視界が遮られて展望はないものの、右側は深く沢に落ち込んでいるので尾根の形状はわかりやすい。8時25分、杉林を抜け出ると割合に広い尾根にでた。視界が一気に開けて、真っ白い雪面がまぶしい。ここからは展望を楽しみながらの快適な登りが続く。地形図にある840mのピークは単なる尾根の途上であってどこがピークかわからなかった。カラマツ林のなだらかな斜面を登り、やがてその樹林を抜け出ると990m峰だった。ここからは1102mの稜線が正面で、そのピークへは右手の尾根に移らなければならず、その支尾根には雪庇が出ているので少し躊躇したが、雪庇を乗り越えられそうな箇所までは斜上してゆき尾根に取り付いた。この斜面も無木立の中斜面で、下りの滑降が楽しみなところだった。右手、西側にはようやく飯豊連峰が現れる。少し春霞のためうっすらとしか見えないが、連峰の盟主、飯豊本山は豊富な雪を抱いて全山真っ白であった。

登り切った1102mのピークは横に広い尾根上の一角だった。ここもどこがピークかわからない。左は栂峰に続くなだらかな尾根となっており、ここで10分ほど小休止することにした。正面には見るからに圧倒されそうな山が聳えている。一瞬、飯森山かもと思ったのだが、地形図をみると1490メートル峰から派生している稜線であった。急峻な斜面は大日倉沢に鋭く切れ落ちていた。

ここからはしばらくブナとクロベが点在する平坦な尾根を南に進む。この尾根からは新鮮な風景を見渡すことができて、まだまだ雪深い山々の景色は見ていて飽きることがなかった。小さなアップダウンはたいしたことはなかったが、標高1200m付近からは斜度が少しずつ急になった。日差しはまるで4月か5月の陽光のようであり、背中や額からは汗が止めどなく流れた。あまりに暑いのでちょっとした休憩でさえブナの木陰を選んでしなければならなかった。振り返っても他には誰も登ってくる人が見あたらない。耳を澄ませても小鳥のさえずりさえ聞こえてこなかった。この静まり返った山奥で、私は今たった独り切りなのだということが忽然と頭をよぎった。

1402m峰からは割合に平坦な雪原となった。前方にはひときわ高い1490m峰がそびえている。私は右手の少し高みを左に卷きながら急斜面に取り付く。ここもブナがまばらに生えているだけの滑走が楽しみな斜面だ。1490m峰には11時35分に到着した。このあたりまで登るとブナの木よりもオオシラビソが多くなり、県境の稜線は蛇行しながらその先の飯森山へと続いていた。ここには蔵王神社の祠がある筈なのだが、もちろん今は深い雪の下であった。

1490m峰から眺めると栂峰まではまだ結構な距離がある。栂峰の山スキーの記録はこの1490m峰までのものがほとんどで、栂峰の本峰まで足を伸ばしているものが少なかったが、ここから更に1時間近くかかりそうな距離を考えればそれも頷ける気がした。ここまでも5時間以上かかっているのである。私はとりあえずの目標まで登れたことにホッとしたものの、この天候でこの時間ならばなんとか行けるだろうと、この先の栂峰まで足をのばすことにした。

ピークから下りはじめてみると、コルまでは雪面が大きく波打っておりかなり難儀しなければならなかった。この稜線は複雑に風が舞う場所なのか、背丈ほどもある大きなうねりが延々と続いている。私はこの上り下りを避けるために少し右手のなだらかな斜面をトラバースしながら進んだ。この頃になると暑さにも加えて体力も限界に近くなっていた。両足は足枷をはめられたように重く、一歩前に踏み出すのも難儀になっていた。ここまでの登りで疲労が溜まってきたのだろうか。コルからはなだらかな斜面をひと登りで栂峰の山頂に着いた。

ようやく到着した栂峰の山頂は、豊富な積雪を抱いた広い雪原であった。ここまでは小屋の集落を歩き始めてから6時間10分かかった。これが速いのか遅いのかはわからなかったが、ガイドブックの「小屋から4時間で山頂」というのは、全く不可能だろうという気がした。しかし一人でラッセルを続けてようやくこの栂峰まで着いたのだ。1週間前に敗退していただけに感激はひとしおである。南西には飯森山が大きく聳え、正面には県境の稜線が大峠トンネルへと続いている。その向こう側は吾妻連峰、安達太良山へと続いているはずであった。春の霞み空のせいなのか遠望はよくなかったものの、今日は無風快晴の天候にただただ感謝した。栂峰へは長い行程になるだろうと思って、今日はビールをザックに忍ばせている。暑い日差しを何時間も浴び続け、また汗がかなり流れただけに、この一口がたまらなくうまい。内臓の隅々まで滲みわたるようであった。あとはカップラーメンにお湯を注いで簡単な昼食を作った。

昼食を終えると早速シールをはずして滑降を開始する。山頂からのフカフカの斜面は快適のひとことで、1490m峰とのコルまではあっという間に着いてしまった。ここで目前の尾根を巻いてゆくつもりで北側の斜面に回ってみたが、地形図にはないような深い小沢が入り組んでいるので巻くのは容易ではなかった。いつのまにか雪崩の危険もあるような急斜面に差し掛かっており、私はその斜面でトラバース気味に深雪を漕いでいるうちに、途中で足が攣ってしまった。ほとんど休まずに栂峰まで登り続けてきたツケがここにきてまわってきたのかと愕然とする。始めは片足だけだったが、そのうち両方の太股が攣ってしまい動けなくなってしまった。山頂からひと滑りしてきたとはいってもここはまだ栂峰の直下であり、林道まではまだまだ途方もない距離があるのだ。暗澹たる気持ちに襲われたがさすがにどうしようもなく、足を揉んだりしながら時間をかけて回復を待った。そこからは再びシールを貼り1490m峰まで登り返すことにした。

再び波打つような稜線を乗り越えながら1490m峰に登り返す。距離にするとわずかだがここまで戻ってきただけで安堵感が全然違った。ここからはなだらかな斜面が眼下に広がっており、のんびりと、そしておおらかなテレマークターンで下って行く。この快適さをなんと表現すればいいだろう。飯豊連峰や眼下に広がる山並みを眺めながら下るのは、まるで夢を見ているような気分である。1102mに続く平坦な尾根も快適な滑降が続いたが、それでもスキーだとあっというまに下ってしまう。1490m峰から1102mのピークへは30分ほどで着いてしまった。

しかしその快適な滑りも杉林に入るまでであった。ここまで下ってくるとさすがに雪質も悪くなってきていた。気温の上昇によってすでに湿った重い雪に変わっており、樹林帯では悪雪に足をとられて杉の木に激突しないように慎重に下った。やがて眼下に堰堤が見えてくると林道は目前である。今日は誰も登ってはこなかったらしく、林道の終点には朝方の自分のトレースだけが残っていた。ここからは小屋の集落まで林道を下るだけである。先日とは違ってスキーもよく走ったが、S字カーブを通過するとほとんど推進滑降となった。やがて前方に小屋地区の集落が見えてくると今日の長かった行程も終わりに近い。横になったら一歩も動けないほどの疲労感が全身を襲っていたが、一方ではやっと念願の目的を果たせたという達成感に浸っていた。それは最近にはない心地よい疲れでもあった。




林道を歩き始めて30分
栂峰の稜線に朝日があたる



990m峰(中央)から1102mのピークをめざして登る



1102mピーク
西の方角には飯豊本山がうっすらと浮かぶ



1102mピークからの眺望
1490m峰から西に派生する稜線
急峻な斜面は大日倉沢へと切れ落ちている




ここはヤセ尾根だが眺めが良くて気持ちの良い稜線だ
クロベ(ネズコ)やブナが点在する



1260m付近
暑い日差しに汗が止めどなく流れる


1490m峰から県境稜線が飯森山(右奥)へと続く



栂峰山頂からの展望(1)
山頂は豊富な積雪を抱いた広い雪原となっている
県境稜線の先には大峠トンネルがある



栂峰山頂からの展望(2)
近くに聳える飯森山が大きい



上の望遠写真



1490mのピークからは快適な滑降が続く
夢のような風景と展望だ



林道終点近くになると遠くに小屋の集落が見えてくる


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