山 行 記 録

【平成14年12月9日(月)/朝日連峰 白兎尾根から長井葉山】



葉山の山頂付近から下界を見下ろす
気温は氷点下でブナ林の霧氷が美しい



【メンバー】単独
【山行形態】冬山装備(ワカン)、日帰り
【山域】朝日連峰
【山名と標高】長井葉山1,237m
【天候】曇り時々雪
【温泉】西置賜郡白鷹町 パレス松風 300円
【行程と参考コースタイム】
白兎登山口(300m)9:30〜葉山山荘(1210m)12:10-12:35〜白兎登山口14:00

【概要】
白兎登山口から葉山に登るのは実に久しぶりで、また春山以外で積雪期に登るのは初めてである。登山口の標高は300m。山頂までの標高差は900m余りとたいしたことはないのだが、天候は思わしくはないので状況次第では途中で引き返してもよいつもりで自宅を出た。さすがにこの時期、葉山森林公園の駐車場には車は1台もなかった。上空に寒気が入っているために朝からかなり冷え込みが厳しく、登山靴の靴紐を結んでいると指先の感覚が無くなるほどだった。気温は間違いなく氷点下である。登り初めはアウターの下にフリースの防寒着も着て登ることにした。また先月から降り続いた積雪はかなり多いと思われるためワカンを持った。

公園から林道を少し進むと左手に葉山登山口の鳥居が建っている。その鳥居をくぐり階段を登って一気に尾根に取り付くと、雪で真っ白になった登山道が尾根にそって伸びていた。しかし雪は落ち葉の上にうっすらと雪化粧している程度でまだ積雪というほどではない。登山道は深くえぐれており、その窪みには大量の落ち葉が降り積もり、歩くとフカフカとした感触が心地よかった。

この白兎尾根は周りの樹林がじゃまをして普段は展望が利かないのだが、この時期はすっかり葉を落としているので、スカスカになった樹林の間からは周囲のほとんどが見渡せた。夏には見られない風景が眺められるのでこれも今日の楽しみのひとつであった。標高が500mを越えると登山道にもようやく雪が現れた。気温が低いので雪は堅く締まり凍っている。最近歩いた人だろうか。2人分の踏跡がうっすらと残っており、これならば今日は迷うこともなさそうだと安心した。犬の足跡もあり一緒に連れて登ったのかも知れなかった。

やがて登山道は急坂となり背中から汗が流れてきたために途中から防寒着もアウターも脱いだ。雪道には犬の他に熊のものと思われる足跡も残っていた。この時期はまだ熊も冬眠には入っていない筈だと思うと少し不安になり、ここからは熊避けの鈴をザックに付けた。登るにつれて積雪も徐々に増し、また急坂が続くので次第に疲労が増した。靴が潜らない分だけスリップするので結構足が疲れるのだ。しかし雪面が堅いので用意してきたワカンの出番はなさそうである。今日の状態ではむしろアイゼンが必要なほどであった。

天候は相変わらず曇り空が続き、上空からは時々小雪が舞った。若いブナや潅木の枝には霧氷がびっしりと張り付いていて、枝先に触れるたびに雪が全身にふりかかった。714mの尾根上のピークを超え、800m付近の割合平坦な尾根に出たところで小休止する。ここから前方を見上げると黒々とした高みのピークの向こうに葉山の稜線が望めた。山の斜面はほとんど雪に覆われており、そのモノトーンの寒々とした光景には冬山の寂しさが漂っていた。山頂まではまだまだ登らなければならず、また雪も多そうな様子に気分も沈みがちだが、気を取り直してまたザックを担いだ。

ぐいぐいと雪の急斜面を登るとまもなく付近は広々としたブナ林になった。このあたりは傾斜が幾分緩やかな雪原となっていて、ガスられれば方角を見失いそうな場所である。積雪はおよそ60〜70cmほどだろうか。登山道は雪にすっぽりと覆われてほとんどわからなくなっていた。ずっと続いていた踏跡はいつのまにか消えていたが、ところどころ枝先につけられた赤布を見つけるとやはり安心した。標高1100m付近から尾根は左に折れる。ここからは最後の急登に汗が流れたが、身を切るような寒気のために少し立ち止まっただけでたちまち体が冷えた。高度計はもう1200mを超えていた。もう小屋はまもなくだろうとブナ林をかきわけて先を進むと、突然見覚えのある葉山山荘が目の前に現れた。

葉山山荘は人の気配もなくひっそりと静まりかえっていた。少し不安を抱きながら登ってきただけに、ようやく着いたのだと安堵感に浸る。早速小屋の裏手にまわり、葉山神社に参拝して安全を祈願した。天候が良ければ葉山神社からは大朝日岳が見えるのだが曇り空のために全く見えなかった。また天候が悪化しそうな気配に奥の院も今日はあきらめることにした。小雪が舞い始めてきたため小屋の中に入り早速昼食にした。お湯を注いでカップメンを作る。そしてラーメンを食べながら小屋にある雑記帳をめくってみた。記録は一番新しいもので11月上旬のものしかなく、今日途中までたどってきた踏跡の登山者の記録はなかった。もしかしたら踏跡氏は年末年始のための荷揚げのため登ってきたのかもしれなかった。小屋には冬山合宿用と書かれたデポ用品が小屋の片隅にいくつも置かれていた。

30分近くの休憩を終えて小屋を出ると午前中よりも幾分空が明るくなっている。降り続いていた雪は休んでいる間にもう止んでいた。雪道の下りは快適だった。堅雪とはいってもアイスバーンというほどではなく、キックステップで下れるのでアイゼンはなくとも滑落の心配はなかった。小屋から少し下ったところから下界を見下ろすと、登ってきた白兎尾根が広々とした雪原の向こうにはっきりと見えた。今日は終日青空が見られず天候は今ひとつだったものの、この風景を眺めることができただけでよしとしようか。私は厚い雲の下に広がる田園風景を見下ろしながら、充実した冬山に触れることが出来た満足感と心地よい疲労感に浸っていた。


うっすらと雪が降り積もった白兎登山口
今日はかなり厳しい冷え込みだ



標高800m付近から葉山の稜線を仰ぐ
葉山山頂は中央奥



標高1100m付近
登ってきた登山道を振り返る
ここから幾分左に折れて最後の急坂を登る



ひっそりと佇む葉山山荘と葉山神社




山頂を少し下った地点から長井市内を見下ろす
少し薄日が差しはじめた頃



下山の途中、標高800m付近で小休止する
ここはなだらかな尾根状のピークになっている


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