山 行 記 録

【平成14年11月2日(土)〜3日(日)/安達太良山(牛ノ背まで)】



早くも冬景色となったくろがね小屋



【メンバー】単独
【山行形態】
冬山装備、営業小屋泊(県営くろがね小屋)※自炊3,570円
【山域】奥羽山脈南部
【山名と標高】安達太良山 1,700m
【天候】2日(曇り)、3日(風雪)
【行程と参考コースタイム】
[2002.11.2]
     奥岳登山口10:30〜勢至平11:30〜くろがね小屋12:00(泊)
[2002.11.3]
     くろがね小屋7:20〜峰ノ辻8:00〜牛ノ背直下8:40〜峰ノ辻〜くろがね小屋9:10〜奥岳登山口10:30

【概要】
例年、この時期は初冬の朝日連峰を登っているのだが、10月下旬からの寒波により、標高800m付近での積雪はすでに1mを超えているとの情報もあって、朝日の計画は急遽取りやめにした。今日は平地でも降雪があるかもしれないという予報である。こんな時にはやはり安達太良山に限るなあと、くろがね小屋の温泉を楽しみにあっさりと予定を変更したのだった。こんな年は初めてだが、ほとんどの山々は晩秋や初冬を通り越して一気に真冬並みの状況になってしまったようである。1年ぶりに訪れた奥岳登山口付近では小雪が舞う中、紅葉狩りを楽しみに訪れた多くの観光客も余りの寒さに唖然としている様子であった。

久しぶりに重登山靴を履き、厚手のスパッツをつけると冬山の時期が今年も到来したことを感じさせた。登山道にはうっすらと雪が降り積もり、鮮やかな紅葉と雪景色が同居するという不思議な風景をみせている。雪が解けだしたのか山道に入るとぬかるみが目立った。やがて徐々に積雪が多くなり、勢至平付近からは完全な冬景色となった。樹林のない勢至平では寒風が正面からぶつかってくるので、さながら冬山の洗礼を早くも受けているような気分だ。薄曇りの中、時折青空も見えるものの、冬型の気圧配置のために安達太良山の山頂付近は全く見えない。やがて前方にくろがね小屋が見えてくるとようやく一安心である。小屋の背後に見えるはずの馬ノ背の稜線付近は、吹雪いているのかガスに隠れていて見えない。周りの山々はほとんど冠雪しており、白とグレーだけのモノトーンの世界はまるで12月下旬か1月の厳冬期の風景であった。

小屋ではすでに石炭ストーブが焚かれていた。小屋の中は大勢の登山者で身動きもできない程の混みようだった。これでは今日の小屋泊まりも超満員だろう思っていたら、ほとんどの人は日帰りで立ち寄った人達らしく、しばらくするとみんな小屋から下山していった。1時過ぎ、私は受付を済ませてから早速風呂に飛び込んだ。窓を開けると冷たい風と共に粉雪が浴室の中に流れ込む。その冷気は火照った体に心地よい。吹き荒れる景色を眺めながら温泉に浸たれるというのはなんと贅沢なことだろうと思った。しみじみとこの小屋のありがたさを感じるばかりである。一時閑散としていたくろがね小屋は3時頃から再び登山者で混みはじめて、結局この日の宿泊者は60人ほどにもなった。

風呂から上がると私は自炊のカウンター席でビールを飲みながら山の雑誌を読んでいた。窓の外は相変わらず雪が舞う天候が続いており、時々吹雪で外が見えなくなったりした。山頂から下ってきた人の話を聞くと、今日は悪天候のためにとても山頂までは行ける状況ではなかったらしく、膝上のラッセルに加え、吹き溜まりでは腰まで潜るほどの積雪だったという。私はその後、夕食前と就寝前にも風呂に入った。つまりこの日は3度入浴したわけで、全く温泉三昧の一日を楽しんだ。

翌日も天候はそれほど変わりがなかった。小雪が降り続き、時々吹雪いたりした。外に出てみても馬ノ背は相変わらずガスに覆われている。今日の稜線付近はかなり吹雪いているはずなので、ほとんどの人達は山頂はあきらめてスキー場に下るのだろうと思っていた。ところが朝食を終えた人達は、悪天候にもかかわらず軽アイゼンなどをつけるなどして次々と山頂にむかっていったのである。

私はいつでも引き返すことを念頭におきながらも、一応ゆけるところまで行くつもりで小屋を出た。小屋前の急坂を登るとさすがに激しい風が吹いている。積雪はたしかに多いが、幸いに今日はトレースもあるので問題はない。しかし峰ノ辻付近まで来ると風雪は激しさを増し、先人のトレースはすでに消えかかっていた。ここからは山頂付近も牛ノ背も全く見えなかった。小屋を早めに出た若い人達が何人か、牛ノ背付近から引き返してきたといいながら一休みもせずに下っていった。

牛ノ背に向かってさらに登ってゆくと正面から吹き付ける風雪は厳しさを増し、それは肌に突き刺さるようだった。矢筈森の大きな岩山を回り込み、牛ノ背がもうまもなくだろうという地点まで登ると、風雪が激しくて目も開けていられないほどの状況になってきていた。振り返ると歩いてきたばかりの自分の踏跡はもう見えなくなっている。この辺が今日の限界だろうと思った。何年か前、今日と同じ様な天候の時に山頂に向かったことがある。今日の安達太良山頂はその時と同じように猛烈な吹雪に見舞われていることだろう。私は例年よりも一足早い冬山を経験したことで、引き返すことに何のためらいもなかった。



遊歩道入口付近



風雪の峰ノ辻

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