【平成14年10月5日(土)/朝日連峰 古寺鉱泉から小朝日岳、鳥原山】
小朝日岳から大朝日岳に向かう登山者
古寺鉱泉の裏手から急登を登り始める。古寺川の瀬音が遠ざかり尾根に登ると急登は一段落する。いつのまにか背中は汗でびっしょりとなっていた。緩やかな登りが続く尾根道では色付き始めたブナの葉や潅木類が朝の日差しを受けて輝いている。単調な登りが続くところだが紅葉が始まった登山道は気持ちがいいばかりだった。
カミさんと二人の時は比較的ゆったりとした速度で歩くのだが、それでも前方を行く登山者に追いついてしまい、何回も多くの登山者を追い越さなければならなかった。小屋泊りの人達が多く、重いザックにみんな休み休み登っているようであった。日暮沢からのコースと合流するハナヌキ分岐では太いブナの倒木が道を塞いでいるのでびっくりした。先日の大型台風で倒れたものらしかった。三沢清水を過ぎると紅葉はますます鮮やかさを増した。周囲の木々は赤や黄色などの色に染まり、まさに秋色真っ盛りである。
古寺山では団体と思われる人達が休憩中だった。足の踏み場もないほど混雑を極めており、ザックをおろせる場所もないので私たちは少し先のピークで小休止した。古寺山からは小朝日岳が目前だが、右手奥に聳える筈の大朝日岳は雲に隠れて見えなかった。古寺山から小朝日岳の区間は見晴らしもよく気持ちの良い稜線歩きが続くところで、秋の日差しが降り注ぐ中、何回も立ち止まっては写真を撮りながら登った。
小朝日岳を巻く分岐の標識から急坂をひと登りするとようやく小朝日岳に到着した。山頂では5、6人ほどの登山者が早くも昼食中で、私達も早速昼食の準備を始めた。団体が登ってくる前に眺めのいい場所を確保してみたものの、依然として稜線付近には薄雲が居座っており、肝心の大朝日岳は見えなかった。食事をしていると鳥原山のルートから登ってくる者も多く、ほどなくして小朝日岳の山頂は大勢の登山者たちで騒然となった。
少人数の日帰りのグループを除けば、ほとんどの人達は大朝日岳をめざして熊越に下って行く。私達は山頂でのんびりと昼食を楽しみ、食後はザックを枕にして昼寝の時間とした。大朝日岳は雲に隠れていて見えなかったが、小春日和のようなおだやかな日差しのなかでの休憩は時間が過ぎるのを忘れるほどだ。こんなにのんびりと楽しんだのは先日の大白森以来だった。
小朝日岳からは鳥原山に向かった。眼下には紅葉の尾根路が続いている。大陸からの風や気温のためだろうが、ちょうど登山道を境にして、鮮やかな紅葉に染まった南側斜面と、さほど色付いてはいない北側斜面の対照的な光景が見渡せた。鳥原山までは意外と時間を要するので、時々一休みしながらのんびりと歩いた。振り返れば紅葉の斜面に覆われた小朝日岳が大きく聳えていた。小さな湿地帯のような鞍部からはひと登りで鳥原山の山頂に着いた。ここも小朝日岳や大朝日岳の好展望台となっており一休みするには絶好の場所である。いつのまにか薄雲が晴れて、大朝日岳や山頂の肩に建つ避難小屋も見えるまでになっていた。
鳥原湿原は長井葉山の湿原と並んで朝日連峰随一の湿原地帯である。鳥原山から少し下り、木道が現れればそこは既に湿地帯の一角で、畑場峰コースとの合流点になっている。この草紅葉が広がる池塘と周辺の紅葉とのコントラストは美しく、言葉もなくただ立ちすくむばかりだった。特に今日は登山者が少ないだけに、湿原一帯は人里離れた桃源郷という雰囲気に包まれていた。湿原の奥には鳥原小屋があり、この周辺も錦秋の装いに包まれて、時間があればのんびりと休憩を楽しみたくなるところであった。
鳥原小屋からは分岐まで戻り畑場峰コースを下った。ここは余り歩かれないコースだけに静かな山歩きができるところだ。午後のこんな時間に登ってくる人など誰もいないだろうと思っていたら、畑場峰付近で鳥原小屋泊りの予定だという夫婦者に出会った。鳥原小屋には誰もいなかったことを話すと、二人とも「寂しいねえ」とがっかりしていた。
畑場峰の分岐まで来れば長かった今日の行程も終わりに近い。残すところ1時間程度の下りだけである。日没にはまだ早かったが、すでに3時半を過ぎており日が傾きかけていた。小休止後、重い足を引きずるように先を急いだ。のんびりと歩いてきたとはいえ、登り始めてからすでに9時間になろうとしていた。カミさんは予想外の長いコースにさすがに疲れている様子で、半分足下がふらついているように見えた。やがて古寺川の瀬音が大きく聞こえるようになり、最後の急坂を下る頃にはもう夕暮れが目前に迫っていた。
古寺山から小朝日に向かう登山者の行列
鳥原湿原
白滝(左)と鳥原小屋(右)への分岐点
鳥原小屋前の水場で休憩をとる