山 行 記 録

【平成14年9月22日(日)〜23日(月)/飯豊連峰 オオインの尾根から北股岳】



改築されたばかりの湯ノ平山荘(2002.9.22)



【メンバー】単独
【山行形態】夏山装備、避難小屋泊(梅花皮小屋)
【山域】飯豊連峰
【山名と標高】北股岳2,025m
【天候】22日(雲り後雨)、23日(雨)
【温泉】湯ノ平温泉
【行程と参考コースタイム】
自宅 4:30−−−加治川ダム林道終点駐車場 7:15

(22日)加治川ダム林道終点 7:30(450m)〜湯ノ平山荘 8:25着/8:35発(500m)〜鳥居峰 9:15(884m)
     〜滝見場10:25〜中峰 11:20(1320m)〜北股岳13:00(2025m)〜梅花皮小屋13:20(泊)
(23日)梅花皮小屋6:00〜北股岳6:20〜 二股640〜中峰 7:15〜滝見場7:50〜鳥居峰8:50〜湯ノ平山荘(入浴)
      9:20着/9:50発〜加治川ダム林道終点 10:45着

【概要】
約2年ぶりにオウインの尾根を登る。この尾根は飯豊川と北股川の深い峡谷に挟まれた長い尾根で、1500m以上の標高差に加えて、鳥居峰から北股岳までは多くのアップダウンが続く結構きついコースである。2年前はこのせっかく長いコースを登りながら日帰りしかできなかったことで、悔しい思いをしながら下山したことを思い出す。昨日の泉ガ岳、北泉ガ岳の疲れが残っているものの、今回は梅花皮小屋泊まりなので前回よりもゆとりのある行程である。また今年、改築されたばかりという湯ノ平山荘と下山後の温泉入浴も楽しみであった。

(1日目)
今日は3連休の中日ということもあって掛留沢の駐車場はおよそ50台前後のマイカーで満杯であった。今日の天候は曇りのち雨という予報だが日差しもあって気温は高い。まあなんとか今日一日くらいは持つだろうと思って歩き始めた。途中で少し前に歩き出した20人くらいの人達を追い抜くと前後には誰もいなくなった。吊橋を二つ渡っているうちに以前の記憶がよみがえり、懐かしさを感じながら約1時間程度で湯ノ平山荘についた。玄関前ではお経のようなものが流れており、山荘の管理人が一人神妙に聞いている。管理人によれば15、6人の登山者が今朝早く小屋を出発していったという。

湯ノ平山荘までの渓谷沿いの山道は標高差がほとんどないが、私はまるでひとつの山を登り終えたような疲れを感じていた。やはり昨日の疲れが残っているのかも知れなかった。汗もびっしょりで私は山荘の裏口で行動食を食べながら登山届を書いて少し休憩をとった。少し急ぎすぎたのかも知れないと反省した。湯ノ平山荘は前回のカマボコ形の屋根から、小屋を半分切り取ったような変な形に変わっていた。以前は小屋の中を通り抜けて行ったところも、今度は小屋の両外側を歩くようになっていた。

北股岳への取付は山荘の裏手から始まる。最初から岩場の急登で、断崖には鉄バシゴが2ヶ所、さらにクサリ場もありなかなか気を抜けないところだ。途中、早くも山頂から下ってきた単独の登山者に出会った。その人によると昨夜の梅花皮小屋は11名の宿泊者だったというから連休にしては随分と少ないものだと思った。さらに休みなしの急登に汗を飛ばしているとやがて見晴らしの良い鳥居峰に着いた。この急登にはまったく無駄がないというほどの爽快さであった。

鳥居峰から見上げるといくつもの峰峰がはるか先まで続いていた。小さなアップダウンを繰り返しながらだんだん標高を上げて行くようだった。登り詰めたところは北股岳なのだろうが、すでにガスがかかり始めていて飯豊の主稜線は見えなくなっている。何とか一日持ちそうだと思っていた好天は、もう崩れそうな天候に変わってきていた。しかし日差しはまだまだ強く、Tシャツは汗が絞れるくらいに濡れており、両方の袖からは汗が滴り落ちた。

鳥居峰から緩い上り下りを終えると正面のピークを左に卷くトラバース道に入った。道は急斜面をへつるように切られていて足場も狭く慎重に歩く。巻道を終えると再びアップダウンを繰り返す。下りきった所には「中峰・北股岳」と書かれた標識が横たわり、テープで右へと導かれながら尾根から逸れて行く。深くえぐられた登山道は雨が降れば沢となって流れるだろうと思われるところだ。ひと登りで平らな湿地帯にでた。ここは尾根道から少しはずれた谷地状の窪地のような場所になっている。道沿いの左手には潅木が上から覆い被さっている縦長の池があり、その様子からモリアオガエルが多く生息していそうな場所のように見えた。小山を半周するような形で左に回り込むと「湯ノ平温泉」の標識がありここでようやく尾根道に戻る。ここからはまもなく滝見場がありさらに登ると寅清水に着いた。以前にあった菱形の標識はなくなっている。水場まで下りて行くとほとんど水は涸れていて雫程度しか流れていなかったが、それでも100ccほどをペットボトルに溜めた。

さらに尾根を登ると右手に少し大きめの池があり、やがて前方にはアンテナの立つ雨量観測所が見えた。足元には中峰の標識があり、この辺は平坦地となっているので幕営に最適な場所でもある。逆戻りするような右手への踏跡は水場へと続く道のようである。この付近の標高は1340mで登り始めてから900mほどを稼いだことになる。しかし残りの700m近い登りを考えると気が遠くなった。だんだんと疲れが溜まってきたようだった。ここまで登ってくるとほとんど森林限界となり尾根の両側の見晴らしがよくなった。

沢の音だけが聞こえる静かな尾根道を歩いていると途中で見覚えのある人に出会った。この連休に梅花皮小屋の管理人として登ってきていた小国山岳会の吉田さんである。吉田さんとは数年前、地蔵岳付近で落としたピッケルを拾ってもらって以来の邂逅になる。吉田さんはてっきり湯ノ平温泉まで入浴をするために下ってきたのかと思ったらさすがにそれはなく、オウインの尾根の偵察のために少し下ってきたところであった。吉田さんとは少し立ち話をしただけで、梅花皮小屋で再会することにして別れた。

登り詰めるとさらに視界が広がった。北股岳はガスに覆われているが、その両側には主稜線が見えているのでおおよその山頂までの距離がつかめた。まだピークを3つほど越えなければならないものの、先が見えないような不安感は無くなっていた。北股岳付近の草紅葉は驚くほど赤みが増してすっかり秋の様相を呈している。周辺の潅木もかなり色づき始めており、ガマズミやナナカマドの赤い実が鮮やかだった。

北股岳を前方に大きく見上げる付近まで来ると二股に着く。「直登北股岳」という標識が据えられていて、右手は洗濯平経由で梅花皮小屋に続く道だが今は廃道となっていて踏跡もわからないぐらいだ。長かったオウインノ逆峰もいよいよ最後の急坂を残すのみになった。ガスがときどき切れると紅葉が始まったばかりの美しい山肌が見えた。途中で一休みしている新潟の4人組を追い越すとようやく北股岳山頂に到着した。濃霧に包まれた山頂は目の前の鳥居や祠もやっと見えるほどの視界しかなかったが、やっとこの長い尾根を登り切ったのだという達成感にしばし浸った。しかしガスはいつのまにか霧雨に変わってきていた。いったんザックを下ろしたものの、まもなく雨が降り出す気配を感じて、休憩もそこそこに山頂を後にした。

梅花皮小屋に着いたとたんに大粒の雨が降りだした。小屋の一階には東京からという10人組が入っており、私は二階の一角に場所を確保してから水汲みに出かけた。二階にはまだ3人しか入っていなかったが、焼きソバを作り、遅い昼食を食べているうちにだんだんと登山者が小屋にやってくる。二階には結局12人が入り、今日の宿泊は全部で22名となった。昨日の倍の宿泊者といっても連休としては随分と少ないほうだろう。

オウインの尾根から戻ってきた吉田さんとは夕方、管理棟で一緒に酒を飲み夕食を共にした。吉田さんは外国の山にも出かけている人で話題が豊富で話は尽きない。私は疲れも重なったのか、一本の缶ビールにしたたか酔ってしまい、結局暗くなるまで管理棟に長居をしてしまった。外に出てみると雨はそれほど強くはないものの、休みなしに降り続けていた。

(2日目)
雨は朝になっても止まなかった。時々小降りになり梅花皮岳付近が見えたりしたものの、北股岳や梶川尾根は全く見えなかった。がっかりだったが、今日は湯ノ平温泉を楽しみに下るしかないようである。1階の10人組や2階のほとんどの登山者達は3時半頃には起床し、食事を済ませると5時には早々と小屋を出ていった。私はみんなとは1時間遅れで起きた。どうせ外は雨だと思うとまだシュラフに潜り込んでいたかったが周りが騒々しくてもう眠ってはいられなかった。朝食後、私は近くに寝ていた昨日の新潟の4人組に続いて小屋を出た。小屋を出るとき管理棟の吉田さんに挨拶をしてから北股岳に向かった。

せっかくの紅葉の稜線も雨とガスでは楽しみはない。おまけに下るにつれて雨足はますます激しくなっていた。梅花皮小屋の1階に陣取っていた10人グループはまだ二股を少し下った付近を歩いているところであった。赤土のような道は雨で滑りやすくなっており、みんな恐る恐る下っているので時間がかかっている様子であった。その後も深くえぐられた登山道などは半分水路状態になっていて、転ばないように慎重に下った。

湯ノ平山荘には小屋を出てから3時間20分で到着した。小屋には釣り人が数人いるだけでまだ登山者は誰も下ってきてはいなかった。管理人からは、女性客がいないから女湯に入ってもかまわないと言われ、そんな機会はめったに無いので、遠慮無く入ってみることにした。雨具を着ていても上半身は汗のためにかなり濡れていた。汗と雨でびっしょりと濡れた被服を脱ぎ捨てて、早速風呂に飛び込んだ。この女湯は飯豊川の崖地のような場所に建てられており、目の前を流れる美しい渓流を眺めながらの入浴は、2日間の山の疲れを忘れさせてくれた。渓流をせき止めただけの野趣に富んだ男湯の露天風呂とは、またひと味違った風情のあるいい風呂であった。今回も雨の山行になってしまったものの、締めくくりに一人で秘湯の温泉に浸かるこんな山旅もまたいいものである。私は熱い湯に浸りながら奥深いオウインの尾根の行程を思い返していた。



飯豊川と湯ノ平温泉、女湯(左上)(2002.9.22)



登山道取付から湯ノ平山荘を見下ろす(2002.9.22)



北股岳山頂直下からの洗濯平
ここからは谷越しに大日岳が大きく望めるのだが・・・(2002.9.22)



翌朝の雨の梅花皮岳(2002.9.23)



雨の中、北股岳をめざす
新潟の4人パーティ(2002.9.23)


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