山 行 記 録

【平成14年8月11日(日)/戸隠牧場から高妻山】



高妻山から眺める乙妻山と雨飾山(左奥)



【メンバー】単独
【山行形態】夏山装備、山行日帰り(前日、戸隠キャンプ場にてテント泊。下山後、群馬県嬬恋村にてテント泊)
【山域】戸隠山周辺
【山名と標高】高妻山(たかづまやま)2353m
【天候】晴れ時々曇り
【温泉】長野県真田町 真田温泉「ふれあいさなだ館」400円
【行程と参考コースタイム】
戸隠牧場4:30〜一杯清水5:50〜一不動避難小屋6:00〜五地蔵山6:45着/7:00発〜八丁ダルミ〜高妻山8:20着/9:10発〜五地蔵山10:20〜一不動10:55〜戸隠牧場12:00

【概要】
高妻山は戸隠山と共に信仰の山として昔から知られている山である。その山頂部は山奥にあるためになかなか臨むことはできないが、西岳や戸隠山などの稜線が続く戸隠連峰では最高峰の山であり、そのピラミダルな山容は登高意欲をそそられる山でもある。地元では戸隠山を表山、高妻山を裏山と呼び昔から修験者の修行の山として栄えてきたのだという。その名残だろう。一不動避難小屋を過ぎると登山道の傍らには、二釈迦、三文殊、四普賢とまるで二合目、三合目を示す標識のように石仏が続き、そして五地蔵山からは六弥勒、七観音、八薬師、九勢至と続いて十阿弥陀の祠が建つ高妻山の山頂に達するのである。昔は高妻山の山頂に阿弥陀如来が置かれていたらしいのだが、今は祠だけで如来像はなくなっている。

昨日、雨飾山を登り終えて戸隠キャンプ場に移動してきていた。お盆休みも重なったのかキャンプ場は多くのキャンパー達で溢れ、色とりどりのテントやタープで広い敷地も過密状態であった。その夜、キャンパー達は深夜遅くまで盛り上がっていた模様で、午前2時過ぎになってテントサイトにもようやく静けさが戻った。私は睡眠不足になりながらも朝の涼しい内に登りたいので午前3時には起床して4時過ぎにはテントを撤収した。立秋を過ぎたとはいえ、連日の猛暑のなかの山登りでは暑さ対策が重要な課題だった。

まだ暗い戸隠牧場の中を歩き出すと途中で朝焼けが始まった。薄明るくなったと思うもつかの間、牧場を抜けると再び暗い樹林の道となる。周りはブナの樹林が続き、しっとりとした道はまるで東北の山を歩いているようだった。沢伝いに歩いていると滑滝があらわれ、滑りやすいスラブに付けられたクサリを慎重につかみながら登る。その先では一枚岩のトラバースがありやはりクサリ場となっている。帯岩の岩壁と呼ばれる所だが、岩に掘られた足場があるので慎重にあるけば問題はない。その先、不動滝の落ち口のクサリ場を少し緊張しながら通過して難所は終わった。少し先に一杯清水があり、やや急な道をひと登りすると一不動避難小屋だった。

ここからは稜線歩きだが樹林の中の登りが続いた。歩いていると前方から話し声が聞こえ、まもなく二人の登山者を追い越した。二人とも避難小屋へ泊まった人達で軽装であった。やがてひと登りで一段高みの稜線に出た。ここからはヤセ尾根となっていて、樹林も少なく風も流れているので実に爽やかだ。右には戸隠牧場が見え、まるで箱庭を眺めているような感じがした。正面には五地蔵山、そして左手にはひときわ大きな高妻山が雲の中に見え隠れしている。高妻山のその威容ともいえる大きさにちょっと圧倒されるようだった。二釈迦、三文殊とアップダウンが続き、四普賢を過ぎるとまもなく五地蔵山に着いた。この五地蔵山ではシャリバテのためだろうか、どうにも力が入らなくなってしまい、テルモスのお湯でカップメンを作って食べた。食べ終わるとまだ7時前なのにもう暑い陽射しが降り注いでいた。

五地蔵山からはなだらかな稜線歩きだが、けっこうアップダウンがきつくて徐々にペースが落ちて行く。ようやく八丁ダルミと思われる鞍部を過ぎると前方にはピラミダルな山頂の高妻山が立ちはだかるように迫っていた。小休止後、最後の急登にかかる。ここからはつらい急登が続いた。頂上直下の猛烈な急斜面で、何度もニセピークにだまされる。木の根やシュリンゲ(捨て縄)などにつかまって体を引き上げたりした。周囲は草付きの斜面となっていて遮るものがない稜線である。暑い陽射しが背中に降り注ぎ、汗は止めどなく流れていた。ようやく登り詰めたと思ったところは山頂の肩で、頂上まではまだ15分ほどの距離がありがっかりさせられた。山頂付近は大きな岩がゴロゴロしていた。ようやくたどり着いた山頂には十阿弥陀の石祠があり、大きな鉄製の鏡のようなものが立っている。この山頂は南北に細長く続いていて三角点はすぐ先の北峰のほうにあった。私は間違いなく山頂への一番乗りだと思っていたら、北峰には意外なことに2名もいたので驚いてしまった。二人とも若い人で一人は避難小屋を早朝に発ち、もう一人は戸隠牧場を朝4時に出てヘッドランプで登山道を照らしながら登ってきたものらしかった。

私は早速アイスボックスに冷やしてきた缶ビールを飲む。キリッと冷えたビールが体の隅々まで滲みてゆくのがわかった。今日の行程はつらいものになるだろうと予想していたのでこっそりとザックに忍ばせていたものだが、これが最後の急登では励みになっていたのだった。山頂からは黒姫山や戸隠山が目前に聳え、妙高山や火打山、そして昨日登ったばかりの雨飾山が乙妻山の背後に見えている。また東側を見れば苗場山や遠く越後の山々が連なっており、この遮るものがない山頂からの眺めは素晴らしいばかりで見飽きることがなかった。目前の北アルプスの山並みは雲がかかっていて山頂部分は見えなかったものの、信州の山奥に来ていることを実感させられる光景が広がっていたのだった。

山頂を後にすると小さな缶ビール一本でも疲れた体にはいっぺんに酔いがまわっており、細心の注意を払いながら急な岩場を下った。高妻山の山頂から五地蔵山まではアップダウンが連続するので、全然下った気がしない予想外につらい下りである。気温は朝方とは比べものにならないくらい上昇しており、再び汗が全身から吹き出していた。ようやく山頂直下の急坂を下るとちらほらと登山者が登ってくるのが見えた。しかし昨日の雨飾山と比べると意外と登山者が少ないように見えた。高妻山はきつい登りを強いられるために少ないのか、みんな暑い夏場の山登りを避けているのかよくわからないが、日曜日なのに混雑とはほど遠い登山者の数である。五地蔵山を通過すると一人の登山者にも出会わなくなっていた。

一不動避難小屋を過ぎると下るにつれて薄雲が広がりだした空は時々日が陰ったりした。しかし沢沿いの道が終わり樹林帯を抜けると残暑ともいえるような日盛りの道が牧場へと続いていた。戸隠牧場には正午直前に戻った。私は今日の予想以上にきつかった高妻山を登り終えて全身疲れ果てていた。牧場内は多くの観光客で溢れており、家族連れなどが広い草原内でのんびりと散策を楽しんでいるのを眺めていると、もう一晩このキャンプ場で過ごすのも悪くはないかもしれないと考えていた。


戸隠牧場の夜明け(4:40頃)



ダケカンバと高妻山(八合目付近から)


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