【平成14年7月5日(金)〜6日(土)/三股〜蝶ケ岳〜常念岳〜前常念岳〜三股】
常念岳山頂から槍が岳を望む
手前は西岳
早朝テントを撤収し、簡単に朝食を済ませてから三股の駐車場を出発した。登山ポストや休憩所のある三股登山口から山道に入ってゆくとすぐに分岐点があり、その常念岳への直登コースを右に見て本沢沿いに登り始めた。途中、直登コースへの迂回路の標識や力水の標識を通過する。やがてゴロゴロした石伝いの道は徐々にしっかりした山道に変わった。三股から稜線までは3ヶ所ほどの急斜面はあるものの登山道はいたって歩きやすく、また「まめうちだいら」の緩やかな台地があったりしてそれほどのきついコースには感じられなかった。50分歩いて10分程度休むといったペースで、汗をかきながらも結構のんびりしながら登った。
最近、梅雨らしく鬱陶しいような日々が続いていた。今回の計画も梅雨の真っただ中であり、また台風も近づいているので天気はほとんど期待できそうにない状態だった。ところが意外にも蝶ケ岳ヒュッテが近づく頃から青空も広がる予想外の好天に恵まれて、やはり山は登ってみないとわからないものだなあとあらためて思ったりした。蝶沢の水場を過ぎるとまもなく森林限界となった。付近にはハクサンコザクラやイブキトラノオ、そしてサンカヨウの白い花が今を盛りと咲いている。蝶ケ岳の山頂直下に残る雪渓を登り詰めると稜線はまもなくだった。急に視界が開けると目の前に槍・穂高連峰が飛び込んできた。私以外は蝶ケ岳も常念岳も初めてでこの槍・穂高連峰の大パノラマにはみんな歓声を上げた。私も久しぶりに眺めるこの大展望にはあらためて魅入ってしまい手当たり次第に写真を撮りまくった。孤高の槍ヶ岳はひとり天を突くようにそそり立ち、大喰岳、中岳、南岳の3000m峰は大キレットを挟んで北穂高岳、涸沢岳、奥穂高岳、前穂高岳のビック4へと連なっている。この雄大ともいえる景色は眺めていていつまでも飽きることがなかった。
蝶ケ岳に着いたのはまだ昼前だったので時間はたっぷりとあり、小屋への宿泊手続きを済ませた後、長塀尾根の妖精ノ池まで足を延ばしてみた。妖精ノ池はまだ雪に埋まっていてがっかりだったが、すぐ近くでライチョウの番(つがい)が遊んでいるのをしばらく眺めていた。その後も長すぎるような午後の時間を蝶ケ岳ヒュッテの周辺を散策したりしながら時間をつぶした。夕方になると雷雲のような黒い雲が上空を覆いはじめ、まもなくするとポツリポツリと雨が降り出してきた。この日、蝶ケ岳ヒュッテの宿泊は我々も含めてわずかに7名だけで、250名定員の大きな小屋を貸し切りのような状態で一夜を過ごした。私はこの夜体調がすぐれず早めに眠った。
翌日は昨夜のうちに作ってもらった弁当をザックに入れ5時前には小屋を出た。心配した雨は朝方にはすっかり上がっていた。厚い雲が上空を覆っていて日の出の時間を過ぎてもまわりはまだ薄暗かったが、それでも展望は昨日よりも良いくらいで、前日には霞んで見えなかった富士山や八ヶ岳、南アルプスも今朝ははっきりと見えている。それらの山々を右手に見ながら、そして左手には槍・穂高連峰を眺めながらの贅沢な展望がしばらく続いた。その雲上の稜線歩きは昨日までの疲れを忘れさせてくれるようだった。稜線はかなり強い風が吹いていた。蝶槍を過ぎ、樹林帯ではしばらくシナノキンバイの群落を愛でながら歩く。最低鞍部から尾根に取り付くと道は岩稜帯の急登になった。途中の岩陰では温かい味噌汁を作り小屋の弁当を食べながら小休止した。蝶ケ岳から眺めたときははるか遠くに見えていた常念岳の山頂も少しずつだが徐々に近づいていた。山頂直下で常念小屋を早朝出発してきたと思われる登山者と何人かすれ違ったりした。そして小屋を出て4時間30分。ようやく常念岳に到着した。大小の岩が積み重なる狭い山頂には小さな祠と方向指示盤があった。ここは文字どおり全方位、見渡す限りの大展望台で、私は横通岳から大天井岳、燕岳と続くなだらかな縦走路が懐かしかった。
昨日から楽しんできた槍・穂高連峰の大パノラマもこの常念岳の山頂で見納めだった。ここからは縦走路を離れ、前常念岳を経由して三股登山口まで下らなければならない。この常念岳への直登コースは約1500m以上の標高差を一気に下るので膝を壊しかねないところだ。延々と続くこの急斜面をとても登りたくないなと思いながら下っていると何人もの登山者がこのコースを登ってくるので驚いた。私達は常念岳への登りで疲れた足をかばいながら途中何回も休みながら下る。やがて本沢の沢音が徐々に大きくなり迂回路の標識が現れると三股の登山口まではまもなくだった。
蝶ケ岳ヒュッテ前にようやく到着
後ろは槍穂高連峰
常念岳山頂直下
常念小屋と前常念岳への分岐点で