山 行 記 録

【平成14年6月29日(土)/下郷町から流石山〜大倉山〜三倉山〜三本槍岳】



山間にひっそりと佇む鏡沼



【メンバー】単独
【山行形態】夏山装備、日帰り
【山域】那須連峰
【山名と標高】流石山(ながれいしやま)1815.5m、大倉山(おおくらやま)1885m、三倉山(みくらやま)1888m、三本槍岳(さんぼんやりだけ)1916.9m
【天候】晴れ
【温泉】芦ノ牧温泉ドライブ浴場 350円
【行程と参考コースタイム】
自宅3:00=(R121,林道大峠線)=林道駐車スペース5:30(片道129km)

林道駐車スペース5:40〜林道終点5:50〜鏡沼西側分岐5:55〜 大峠6:15〜流石山7:07〜五葉の泉7:34〜大倉山7:46〜三倉山8:11〜一ノ倉8:22〜三倉山8:35発〜大倉山9:00〜五葉の泉:10〜流石山9:40〜大峠10:15〜〜大峠分岐11:19〜三本槍岳11:28-45発〜大峠分岐11:52〜鏡沼東側分岐12:11〜鏡沼12:22-30発〜鏡沼西側分岐13:03〜林道終点13:10〜林道駐車スペース13:20

【概要】
三本槍岳は昨年の秋に那須連峰の茶臼岳と朝日岳を登ったとき、悪天候のため足をのばせなかった山である。今回は大峠をはさんで三本槍岳と対峙する流石山、そして大倉山、三倉山までの縦走路を併せて会津側から登ることにした。栃木県側からの那須連峰は観光地化されて登山者も多いが、会津下郷町からは静かな山歩きとすばらしい展望を楽しめるコースである。

流石山から三倉山への縦走路はそれだけで1日コースなので三本槍岳も併せて登るとなるとかなり時間がかかりそうなために朝まだ暗いうちから自宅を出た。会津鉄道養鱒公園駅で国道121号を離れ大峠林道に向かう。観音沼からしばらくゆくと林道は舗装路から砂利道となり、看板の立つ林道駐車スペースまで来たところで車を留めた。林道終点は少し先のようだったが、道はこの先荒れているようなので無理はせずにここから歩くことにした。ちょうど後ろを走っていた福島ナンバーの乗用車もここで止まった。車から出てきた3名の年輩の登山者達は三倉山まで行くとのこと。私が三本槍岳も登る予定だといったら驚いて、それは時間的に無理だろうといわれた。

歩き出すと荒れているのはごく一部分でこの先も車で行けそうな林道だった。10分ほどでりっぱな石碑の立つ林道終点に着く。4、5台ほどの駐車スペースには四駆が2台留まってあり、夫婦者が一組登る準備をしているところだった。林道終点からは道幅も広く歩きやすい道が続く。旧い街道の名残を残しているような道を歩いていると左手に鏡沼分岐が現れた。順調に三本槍岳まで登れればこの場所に飛び出してくる予定である。シラカバの目立つ林間の道は蒸れて鬱陶しくたちまち背中から汗が流れた。やっと昇り始めた朝日が樹林から洩れてきていた。小沢に少し下り涸れた沢を横切りながら徐々に登って行くとほどなく大峠に着いた。時間はまだ6時15分。栃木県側から朝の涼しい風が吹いている。人影も見あたらない静かな峠であった。ここは江戸時代、交通の要所だったところで、木の標識が何本か立ちすぐそばには石仏が奉られている。左手には三本槍岳への登山道が続き、右には巨大な流石山が聳えていた。

大峠から流石山に向かって登り始めると腰高まである笹薮や潅木の朝露でたちまちズボンが濡れてしまい、あわてて雨具のパンツとスパッツをつけた。しかしわずかな距離にもかかわらずびしょぬれともいえるほど濡らしてしまい、水は登山靴の中まで浸透してしまった。流石山は巨大な山塊で山頂にまっすぐに伸びる登山道は急坂でつらい登りだった。付近には花はほとんど見あたらずニッコウキスゲはまだ堅いつぼみだった。汗をかなり絞られながら登り切り、ようやく道がなだらかになると流石山の標識の立つ山頂に着いた。しかしすぐ目の前には少し高そうなピークがあるので少し違和感のある山頂である。流石山はいわば稜線上の単なる一角という感じだ。

流石山から先にはこれから向かう大倉山や三倉山の稜線がくっきりと見えている。そして後ろを振り返れば三本槍岳や朝日岳の表那須の山々がうっすらと靄の中に浮かび上がっていた。下界はまだ白い雲海に隠れたままである。この稜線歩きはまるで飯豊や朝日の縦走路を歩いているような快適さがあり、また朝の清々しい風が実に気持ちよく、この道がどこまでも続いてくれたらと願った。大倉山へ向かっていると三倉山を往復してきたという一人の登山者とすれ違った。時間はまだ9時30分である。下ってきたのがあまりに早いので話を聞いてみると、今日の午前4時前には登り始めたらしく、今日はこのあと近くの荒海山も登る予定だというから驚きである。若い人だったがこの調子では一日に山を3つも登りそうな勢いさえ感じさせる登山者だった。

ガイドブックには流石山から三倉山への縦走路は笹に覆われた稜線歩きとなるとあるが、道はよく刈り払われていて全く問題なく歩けた。やがて前方左手に池塘があらわれた。これが五葉の泉かと思っていたらその先にはもっと大きな池塘があって、実はこちらが本当の五葉の泉なのだった。ここから少しの急登で大倉山の山頂に着いた。鋭い三角錐の鋭鋒の三倉山が目の前に聳えている。この山頂には不思議なことに標高の違う標識が3本立っていた。一本は1831mで残りの2本は1885mである。ガイドブックには下郷町と黒磯市での大倉山と三倉山との位置関係の争いがあると書いてあったが、標高の争いもあるのだろうかと思われた。

道はいったん下った後で手前のピークを越すと三倉山への急な登りとなった。ここにはゴゼンタチバナ、ハクサンチドリ、マイヅルソウ、アカモノ、イワカガミなど色とりどりの花々が咲いている。汗を搾り取られながら登り切ったところは広い台地状の、標識だけがひっそりと立つ静かな三倉山の山頂だった。ここでは見渡す限りの360度の展望が広がっていた。那須連峰はもちろんのこと、甲子縦走路には小白森山や大白森山、鋭いピークを見せているのは旭岳のようである。そしてその左手にはつい1カ月前に登ったばかりの二岐山の丸みを帯びた二つのピークが見えている。その姿をみているうちに別名乳房山と呼ばれているという話を思い出して私は何となく微笑ましくなった。

一通り周囲の山を眺めた後で私はこの先に見える三倉山本峰と思われるピークまで足を伸ばすことにした。ザックを置きカメラだけを持った。ガイドブックでは三倉山本峰まで30分とあるところを10分ほどで着いてしまい、様子が少しおかしいことに気付いた。ここには標識はあるのだが「一ノ倉」と書かれたものが横たわっているだけである。そして三倉山本峰という割にはどう見たってそんな感じはしないピークであり、三倉山からの下山コースの単なる尾根上の通過点に過ぎないような場所なのである。しばらく考えてみて、ここは標識どおり「一ノ倉」というピークであって、先ほどの三倉山が本当の三倉山本峰ではないかと思われた。すると本当の三倉山はどこだろうと振り返ると三倉山と大倉山との間に少し低いピークが見えた。先ほどは山頂というほどではないと思われたのだがあれが三倉山だったのだろうかとふと考えてみた。この「一ノ倉」から眺めるとそれは特徴のある鋭鋒に見えるのである。

「一ノ倉」から三倉山へと戻り、山頂では写真を撮ったり行動食を口に入れながら小休止した。この頃になると、少しずつ陽射しが強くなりようやく気温が上昇し始めていた。潅木についた朝露も乾いてきたので三倉山から下る前に雨具とスパッツを外した。稜線は気持ちの良い微風が吹いていた。大倉山の下りの斜面には群落ともいえるシナノキンバイが咲いていた。登るときにはそれほど気付かなかったのはたぶん光線の具合だろうか。ちょうど登山者が3名登ってくるところで、お花畑を前景に写真を撮ってみた。ファインダーから覗く深緑とシナノキンバイの光景はもう夏山を感じさせた。大倉山と流石山の登り返しはけっこうつらく感じた。朝の駐車場で一緒だった年輩の3人組はいったいどうしたのだろう、と思っていたらようやく流石山の山頂近くで出会った。この時間になると登山者が結構目立ち始め、大峠からは多くのグループが登ってくるところだった。

10時15分。ようやく大峠に戻る。三倉山をちょうど4時間で往復してきたことになる。小休止のあとすぐに三本槍岳への登りにかかった。この斜面は結構きつい登りだった。登山道周辺にはいろんな高山植物が咲き乱れている。やがて甲子縦走路との分岐にでた。右手には三本槍岳が高く聳え立ち、山頂に登山者が数人いるのが遠めにも見えた。疲れていたがもう一踏ん張りと汗を流した。ようやく到着した三本槍岳では大勢の登山者で賑わっており、大勢で弁当を広げたり、ある登山者はガスコンロで煮炊きをしたりとみんな思い思いに昼食を楽しんでいる。三倉山への縦走路の静けさとは大違いである。ここは那須連峰の最高峰であり絶好の展望台なのだが、霞がかかっているために残念ながら遠方の山々はよくわからない。先ほど登ってきた流石山や三倉山にも雲がかかっていてよく見えなくなっていた。

山頂から大峠分岐まで戻り、そのまま甲子縦走路を直進する。急な登山道を下り、途中ザレた道を通過するとまもなく鏡沼分岐についた。標識には鏡沼入口とあり真下には鏡沼が見えている。ここからの下りも急で慎重に下らなければならなかった。深くえぐられた急坂には数カ所にわたってロープが設置されているので、そのロープにつかまったり場所によっては飛び降りたりしながら下った。なかなか沼が近づかなかったがようやく到着した鏡沼は予想外に広く大きな沼であった。誰もいない鏡沼は三本槍岳と須立山に挟まれるようにしてひっそりと佇んでいた。ここは喧噪の那須連峰には信じられないような静寂さの漂う別天地であった。沼の畔にザックを下ろしてしばらく疲れた体を休めた。湖面には柔らかい午後の陽射しが降り注いでいる。時間があればいつまでものんびりしていたいような沼で、眺めているだけで時間の経つのを忘れてしまいそうだった。

鏡沼の淵をたどり向こう岸から西へ続く登山道を進む。道は初め緩やかで里山を歩いている雰囲気だった。しばらくすると涸れた沢を下るようになり石伝いに降りてゆく。シラカバ林が続きまもなくカラマツ林に変わると再び歩きやすい道になった。どんどん下って行くと早朝通った鏡沼への分岐点に飛び出した。そこからはほどなく林道終点である。そして10分ほどの歩きで車を駐車している場所に戻り今日の山行が終了した。ほとんど休みなしに歩き続けてきて私の体は汗まみれになっていた。



大倉山から望む三倉山



五葉の池
遠方は雲に隠れる三本槍岳



ミヤマキンバイと朝日岳(右奥)
大倉山からの下りで



流石山付近から大倉山を振り返る



三本槍岳直下からの鏡沼
奥に見える鋭鋒は旭岳



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