山 行 記 録

【平成14年6月16日(日)/丁山地 観音森〜萱森〜丁岳(縦走コース)】



萱森を下る登山者(右は丁岳)



【メンバー】単独
【山行形態】夏山装備、日帰り
【山域】丁(ひのと)山地
【山名と標高】丁岳(ひのとだけ)1146m、観音森1058m、庄屋森1110m、萱森(かやもり)1070m
【天候】晴れ時々曇り
【温泉】秋田県鳥海町野宅 「平兵湯」400円
【行程と参考コースタイム】
自宅400=登山口700(自宅から158km)

登山口715〜ブナ平800〜観音森850〜庄屋森930〜萱森950〜風のコル1055〜丁岳1130-1200〜観音岩(水場)1220〜登山口1310

【概要】
鳥海山の東側には秋田、山形の県境稜線を形成する丁山地とよばれる険しい山並みがある。その主峰である丁岳は海抜1000m余りの剣峰の中でもとくに山容が厳しいことで知られている山である。丁岳の山腹には地蔵岩、観音岩などの奇岩があり、また貴重な高山植物も数多いという。ガイドブックによると以前は丁岳への登山道は直登コースの1本のみであったが、地元鳥海町の山岳会の手によっていまは萱森から庄屋森、観音森と続く周回コースが整備されている。

直登往復コースは山頂まで約2時間で登れるのだが何となく物足りなさを感じ、今日は丁岳を眺めながら歩けるのが魅力的な観音森から丁岳に至る縦走コースを歩くことにした。とはいえ観音森、庄屋森、萱森といった鋸刃のような急峻な稜線は距離も長く楽なコースではない。健脚向きのそれも体調が万全の時に登るコースである。コースは他にも萱森と丁岳の鞍部に登る中道コースがあるが、これはどちらかというと縦走の際のエスケープルートのようである。なお、どのガイドブックでも触れられていなかったが、山形県の真室川町から丁岳に登るコースもあることを縦走中に知った。

国道13号線を北上し秋田県雄勝町院内から国道108号線に入る。鳥海町笹子の交差点から左折して町道に入り、何カ所かの分岐を標識に従って南下を続けると大平キャンプ場だ。キャンプ場の草原にはツェルトと一人用のテントがそれぞれ一貼りずつ設営中であった。さらに林道を10分ほど進むとやっと登山口に着く。案内板のすぐ先の駐車スペースには山形ナンバーの車が1台だけ駐車中であった。

雲が多い空模様だったが昨日の雨は既に上がっていた。しかし草木はまだ濡れておりスパッツを付けて歩き出す。案内板から右下に下るコースは丁岳への直登コースで、観音森縦走コースのスタート地点は駐車場の少し先である。草は伸び放題に繁茂していて登山口を覆っていた。一瞬ヤブ道なのだろうかと訝しみながら山道に入ってゆくと、登るに連れて道はしっかりとした登山道となりホッとする。しかしスパッツをしていても丈の長い草露のために徐々にズボンが濡れていった。

やがてはっきりとした尾根道になると右手には大きな山容が樹幹越しに見えてきた。特異な岩場が目立つ丁岳である。この先はしばらく平坦なブナ平を通過すると、登りはだんだんと急になり汗が噴き出してきた。雨上がりのため湿度もかなり高い。予想外の急登に汗を流しているとまもなく観音森に着いた。標識も何もない山頂だったが、右手には丁岳やこの先の萱森の急峻な三角錐が目に入った。本来ならばこのあたりからでも鳥海山を望むことが出来るはずなのだがあいにく雲に隠れていて見えない。これから晴れるのを期待するしかないようだ。ここからはヤセ尾根の上り下りがしばらく続き、まもなく急峻な岩場の下りが現れた。ほとんど垂直の岩場で木の根っこをつかみながら慎重に下る。クサリもハシゴもないのでなかなか厳しい箇所だ。鞍部からはまた視界のないブナ林に入った。登山道には日も射さず地面が濡れているので何度かスリップする。ブナ林の周囲は笹薮になっているので時々タケノコ(ネマガリタケ)を採りながら歩いた。

さらに登り続けるとまもなく庄屋森に着いた。三角点が設置されてあり、さきほどの観音森よりもはるかに見晴らしのよいピークだった。ここは東西に細長い草原状の山頂である。爽やかな風が山頂を流れていて汗をかいた体が生き返るようだ。小休止の後、萱森をめざして急坂を下る。およそ100mの下りである。鞍部まで下る途中で萱森を見上げると山頂には何人かの人の姿が見えた。ほとんど垂直にみえた萱森への登りはたしかに急だったが笹薮や木の枝をつかみながら体を持ち上げ一気に登った。

萱森も抜群の展望が広がるピークだった。ここからは丁岳が目前である。東斜面のゴツゴツした岩肌が荒々しくその景観に圧倒される。しかし丁岳の右奥に見える筈の鳥海山はやはり雲に隠れたままである。梅雨の真っ直中の山では雨が降らない分だけ、良しとしなければならないのかも知れなかった。山頂では庄屋森からの下りで見かけた登山者が3人休憩中だった。聞いてみると駐車場に留めてあった山形ナンバーの人達である。萱森まできたのだから私は間違いなく縦走してきた人達なのだろうと思ったら、案に相違して今日は縦走せずにここから中道コースのエスケープルートを下り登山口に戻るとのこと。彼らは私がザックを下ろして休んでいるうちに、お先にといいながら早々と山頂を後にして下っていった。

観音森、庄屋森、萱森とそれぞれのピークを踏みながら歩き続けて体は非常に疲れていた。しかし主峰の丁岳まではもうまもなくである。萱森からの下りはしばらく展望のない山道が続いた。途中で中道コースの分岐がある。しかし分岐とはいっても標識もないので初心者にはなかなかわかりずらいところだ。総じてこの縦走路には標識は全くなく注意が必要だった。萱森から丁岳への途中では時々ザックをおろしてタケノコを採りながら登る。小さなアップダウンを繰り返しているとヤセ尾根の途中で小さな窪みのような地点に出た。ここは両側が鋭く切れ落ちていて涼しい風が吹き渡る「風のコル」と呼ばれるところだった。ニガナ、オニアザミなどの花が咲いているちょっとした別天地のような場所である。私はザックをおろし、行動食を食べながらしばらく疲れた体を休めた。

「風のコル」からはいよいよ丁岳を目指しての登りである。するとコルから少し登った地点で左に降りる道があった。見上げるとブナの木には「真室川町側」とかかれた標識がある。標識はまだ真新しく最近取り付けられたものらしかった。どうやらガイドブックには記載されていない山形側への登山道のようで、これは予想もしていなかっただけに嬉しい発見だった。少し下ってみると道はいたってしっかりとしていて、山形県人としてはここはいつか歩いてみたいコースだと思いながら分岐に戻った。

岩稜帯をなおも登るといつしか潅木帯の道となった。徐々に見晴らしがよくなり平坦な山道を少し進むと丁岳山頂だった。登山口を出発してから4時間15分かかっている。予想よりも早く着いたのだがかなり疲れておりここでは大休止することにした。山頂には一等三角点があり、すぐそばでは年輩の夫婦者が二人、採ってきたタケノコの皮を剥く作業中だった。潅木に囲まれた広場のような山頂は残念ながら展望はなかったが、梅雨の合間の貴重な陽射しが降り注いでいて、休憩するには気持ちの良い場所だった。ここまでは、まるで1年分の汗が流れてTシャツは濡れ雑巾のように汚れている。濡れたバンダナを木々の上に広げて乾かした。陽射しは強いので休んでいるうちにシャツも乾いてきていた。

30分ほどの休憩で山頂を後にした。山頂からは直登コースを下るだけである。下るとすぐにお花畑や地蔵岩に通じている分岐がある。最初は緩やかな登山道も徐々に傾斜がきつくなり一気に下るようになった。急坂には丸太で作られた階段がいくつか整備されていたが今はだいぶ古くなっている。途中でこのコース唯一の水場という沢を一ヶ所渡る。盛夏には枯れるという水場だが今は沢水が音をたてて豊富に流れていた。水場からひと登りすると観音岩で、岩場のヤセ尾根の様な道がしばらく続き、やがてまた急坂を下るようになった。この周辺は美しいブナ林に囲まれた枯れ葉の積もる快適な登山道だ。そのブナ林を通して洩れてくる陽の光がキラキラときらめいている。今日は丁岳のすぐ近くに聳える鳥海山の雄姿を眺めることはできなかったが、それでも長い縦走路を歩き続けてきて心地よい疲労感と共に充足感に包まれていた。それにザックの中には登山道の傍らで採ったタケノコが結構詰まっている。私は帰宅後の山の幸が楽しみでいつしか足早に下っていた。


庄屋森(中央)とするどい三角錐の萱森(観音森から)




庄屋森の山頂
萱森のピーク(中央左)と丁岳
かなり歩いてきたものの、丁岳はまだ遥かかなただ



萱森
ピークに人が立つ
中央に垂直の登山道が見える


風のコル
名前の通り、涼しい風が流れる気持ちの良い場所だ


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