山 行 記 録

【平成14年6月9日(日)/船形連峰 黒伏山(周回コース)】



黒伏山頂上手前の稜線から見る南壁



【メンバー】単独
【山行形態】夏山装備、日帰り
【山域】船形連峰
【山名と標高】黒伏山1227m、柴倉山1276m、福禄山1211m、銭山1237m、白森山1263m、
【天候】曇り時々晴れ
【温泉】河北町谷地 べに花温泉「ひなの湯」250円
【行程と参考コースタイム】
登山口940〜柴倉山分岐1050〜柴倉山直下1120〜分岐1140〜福禄山1150〜白森山1245〜1315黒伏山1325〜T字路1400〜登山口1510

【概要】
黒伏山は高さ300mの垂直の岩壁が600m以上にもわたって続いている山で、どちらかというと山登りよりも岩登りの山として昔からクライマーに親しまれている山である。登攀の歴史は古く、大正末期に注目されはじめてからいままで様々なルートが切り開かれてきた反面、登山道としてはあまり省みられることもなく久しく荒れ放題となっていたという。それがようやく1989年になって整備されたというのだからつい最近開かれたばかりの山といえるだろうか。なお、ガイドブックに載っている登山口の大平放牧場管理小屋は現在、黒伏高原スノーパークという近代的なスキー場として様変わりしていた。道路も国道並の舗装路に変わっているので予想と大分勝手が違うことから最初は登山口さえ見つけられず、私は貴重な時間を随分とロスしてしまった。

登山口から黒伏山へは、直接向かうコースであれば3時間程度で山頂に到達できる山である。しかし柴倉山を経由する周回コースだとこれは本格的な長い縦走路となり、標準コースタイムで8時間30分もかかるのである(東北百名山)。昨日の虎毛山の疲れもあって自宅を出るのが遅くなってしまったことから、ヘタをすると下山する頃は日が暮れてしまう恐れがあり、ガスコンロや食糧など余分なものはザックから省き、最低限必要なものと行動食だけの軽装で登り始めることにした。

舗装路から林道に下りて行くと村山野川の渡渉点にはパイプで組んだ仮橋が設置されていた。黒伏山に直接向かうにはこの橋は渡らずに川を渡渉しなければならないようだったが、私は逆回りコースの計画なので仮橋を渡り柴倉コースの尾根に取り付く。尾根は最初から急登なので重い足を引きずるように一歩一歩登る。ある程度汗が流れてしまうと体がようやく慣れてきたのかその後は比較的楽になった。付近は気持ちの良いブナ林が続く。今日は高気圧に覆われる天気予報だったが、あいにく雲が多く日差しも照ったり陰ったりのはっきりしない空模様だった。上空を吹く強い風のためにブナの枝が大きく揺れて、そのざわめきは山のうなり声にも聞こえる。ちょうど上空を気圧の谷が通過しているような感じだった。

汗を飛ばしながらさらに急坂を登り、小さなピークを3つ越して行くとだらだらとなだらかな道に変わる。道は大きく1209mのピークを巻きながら左に迂回するようになるとまもなく柴倉山と福禄山との鞍部に出た。ここでようやく行動食を口に入れて疲れた体を休める。この鞍部はまだ樹林帯の中だったが、1209mのピークに登ると一気に視界が広がった。目の前には柴倉山が聳えており、登ってきた方角を振り返れば福禄山から銭山、白森山、黒伏山と続く縦走路が見渡せ、黒伏山の右手には端正な白森山が鎮座していた。

1209mのピークからいったん鞍部まで下り柴倉山に向かう。しかし山頂への道がわからなく、怪訝な思いで先に進むと登山道はどんどんと柴倉山の東側を卷きはじめてしまった。地図上の登山道は柴倉山の山頂を通ってはいないのもちょっと気がかりだった。それでも直登する道が現れるだろうと思っていたが、そのうちに柴倉山の東の端まできてしまい、はたと考え込んでしまった。結局道はまだ整備されていないのだ判断するしかなく、道が崩れている箇所が現れたのを機に、柴倉山への登頂はあきらめて引き返すことにした。結果的にここでは時間の無駄遣いをした形になったが、それでも1209mのピークからの眺望はすばらしく、またこの柴倉山周辺にはシラネアオイの群落やサンカヨウ、イワカガミ、ハクサンイチゲといった花々がかなり咲いていたのがせめてもの慰めになった。

福禄山との鞍部まで戻りふたたび樹林帯に入ると風がようやくおさまった。福禄山までは思ったほどの登りではなく、鞍部からは約10分ほど。ここは小さな標識があるだけのピークだった。道はようやく平坦な尾根道となり快適な稜線歩きとなった。背丈を超す潅木帯のためなかなか展望がきかなかったが、銭山に向かう頃から両側の視界が開けて、陽射しも差し始めたことから快適な尾根歩きとなる。正面には白森山の端正な姿が望め、それはまるで朝日連峰の大朝日岳を眺めているような光景にも見えた。白森山の山頂からはいよいよ黒伏山が目前となり、左手遠方には柴倉山や福禄山が聳えていた。また背後には船形山が特徴ある姿を見せているのが印象的だった。

白森山の山頂から黒伏山へはいったん大きく下る。鞍部付近からは展望のない樹林帯となり、やがて登りに差し掛かると黒々とした樹皮の美しいブナ林となった。この少し薄暗いブナ林に木漏れ日が射し込むと周辺は一瞬で明るくなり、ブナの新緑はまぶしいほどに輝いた。ようやく到着した黒伏山の山頂は意外にも樹林帯に囲まれているために展望はなかった。すでに時間は午後1時を過ぎており、私は三角点に腰をかけて持ってきた行動食を食べながら小休止とした。山頂には午後の少し傾きかけた陽光が上空から降り注いでいた。

黒伏山から少し下り、鞍部から南黒伏山に登り返すとその先は行き止まりになっており、そこから登山道は西側に下りはじめる。ここは怒涛ともいえるほどの急坂で、膝が笑ってしまいそうな長い下り坂だ。やがてT字路に出ると道は左に折れてようやく平坦な道となった。周辺には苔むした大きな石がゴロゴロしており、まるで太古からの原生林のような雰囲気が漂っている。黒伏山の南壁の下部を通過しながら薄暗い道を縫うよう進んだ。ルートは結構曲がりくねっていて、ブナの太い幹には赤いペンキ印があるのでなんの問題もなく歩くことができたものの、印も何もなければちょっと迷いやすいところである。

長く平坦な道に辟易する頃になると、だんだんと沢音が大きくなってくる。ようやく登山口が近づいていた。そして下りきったところが今日の出発点である村山野川の渡渉点だった。ほとんど休憩らしい休憩もとらずにずっと歩き通しの一日だったため全身汗まみれである。沢水の中に頭から突っ込むとその冷たさにやっと生き返る思いがした。今日は体調も優れない中で歩き始めたこともあって、体力的につらい一日だったが、呼吸も落ちついてくると、念願だったコースを歩き通せた心地よい充実感に徐々に満たされ始めていた。



柴倉山付近から見る1209mのピーク
遮るものがない頂上からは360度の展望がある



銭山付近から望む白森山
白森山はすっきりとした三角錐のピークだ



白森山と黒伏山の鞍部付近から望む柴倉山(右)と船形山(左奥)


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