山 行 記 録

【平成14年6月1日(土)〜2日(日)/飯豊連峰 胎内ヒュッテ〜杁差岳〜権内尾根〜大石ダム】



大石山から杁差岳をめざす
爽やかな風が吹く快適な稜線歩きだ



【メンバー】3名(伊藤、清水、蒲生)
【山行形態】夏山装備、避難小屋泊、
【山域】飯豊連峰
【山名と標高】大石山1567m、鉾立峰1573m、杁差岳1636.4m
【天候】(1日)晴れ、(2日)曇り後晴れ
【温泉】胎内温泉「胎内パークホテル」500円
【行程と参考コースタイム】
(1日)胎内ヒュッテ700〜750尾根取付800〜大石山1330〜鉾立峰1500〜杁差小屋1545(泊)
(2日)杁差小屋740〜前杁差岳815〜権内ノ峰940〜カモス頭1000〜1号橋1200〜大石ダム1440

【概要】
足の松尾根から杁差岳へは約4年ぶり。過去3回の山行はいずれも紅葉を目的にしており新緑のこの時期に登るのは初めてである。飯豊連峰の北端の名峰といわれる杁差岳は紅葉の美しさもさることながら高山植物が豊富なことでも知られている山でもある。今回は車2台を使い杁差小屋からは権内尾根を大石ダムまで縦走する計画を立ててみた。権内尾根は1400m近い標高差と長い林道歩きがあるのでこのコースはもう敬遠したいと考えていたのだが、親しい山の仲間と花を愛でながら縦走できると思うと胸踊るコースにも思えてくるから現金なものである。

(一日目)
心配した昨夜からの雨も朝方になるとようやく上がり、胎内ヒュッテに到着するころは青空も広がっていた。胎内ヒュッテから先にも道路は伸びているがゲートは施錠されているので一般車は進めない。午前7時。ヒュッテ前の水場で水筒を満タンにして林道を歩き出した。林道と言っても今は国道並の舗装路で、まだ朝早いのに望遠鏡を片手にバードウォッチングを楽しんでいる人達がたくさん歩いている。駐車されてあった多数の車はこの人達のものであったかと妙に納得する。

小1時間で足の松尾根の登山口に到着。ここからが本格的な山道で、尾根に取り付くとすぐに急坂の始まりだ。ここはこんなに急勾配だったのかと思うほどのきつい尾根だが、朝の涼しい風が清々しく快適な登りだ。このコース上には相変わらずロープが張られていて歩きずらい。姫子ノ峰に着くと三角錐の大石山が正面に見えるがまだまだはるか先だ。道はいったん緩やかになりこの先のヤセ尾根の途上の滝見場で小休止する。足ノ松沢を挟んで向かい側に見える大樽山とアゴク峰の山肌にはまだまだ残雪が多く、稜線の右手奥には鉾立峰が突き上げている。ここからもさらにきつい登りが続いた。胎内ヒュッテから伸びる長い胎内尾根を絶えず右手に眺めながらの登りである。登山道周辺にはタムシバやムラサキヤシオが咲き、足元にはカタクリが目立つ。特に色鮮やかなムラサキヤシオと残雪の胎内尾根のコントラストは美しく眺めていて飽きなかった。

尾根の途上にある水場にはまだ水が引かれていなかった。水場を過ぎ見晴らしの良いピーク付近で大勢の登山者が下ってくるところに出会った。聞いてみると総勢22名の団体で昨日は杁差小屋に泊まり、今日は頼母木山を往復してその下山の途中らしかった。みんな年輩の人達だったが、私達がよほど疲れているように見えたのか「がんばれよ!」と何人からも励まされた。ブナ林の急登が終わると付近は潅木帯となり一挙に視界が開けて飯豊の主稜線が目に飛び込んでくる。左手には鉾立峰を従えた杁差岳が大きい。大石山はもうまもなくだ。稜線は涼しい風が吹き、ここまでまとわりついていたブヨの大群からやっと開放された。

大石山から鉾立峰への鞍部に下る途中の斜面にはハクサンイチゲの群落が広がり、登山道の両側には色鮮やかなイワカガミやシラネアオイが途切れなく続いている。話には聞いていたもののこれほどのお花畑を目にするとやはり圧倒される。残雪と青い空を背景にして一面広がるお花畑はまさしく雲上の桃源郷ともいえるほどで、眺めているとこれまでの疲れを忘れさせてくれた。鉾立峰まで登れば杁差岳は指呼の間である。

のんびりと歩き続け、午後4時近くになりやっと杁差小屋に到着した。小屋では先客の夫婦者が二人1階で休んでいた。私達は2階にザックをおろした。どうやらガラ空きの小屋の様子にいささか拍子抜けである。小屋の東側の斜面にはまだ大量の残雪があり、水作りをするためにビニール袋とスコップを持って雪堀に出かけた。意外と長い時間を歩き続けて喉は乾ききっている。小屋に戻ると3人それぞれ持ち寄った食材をところ狭しと並べ、雪で冷やしたビールで早速乾杯すると体の底からしびれるようなうまさに3人とも感激する。冷たいビールはまるで乾いた砂地に水が染み込むように体内に吸収されてゆくようだった。

夕刻も迫り、ひとしきり宴会も一段落したところで山頂まで登ってみることにした。山頂では登山者が一人夕景の撮影のため三脚を据えて日没を待っている様子だった。私達も日本海に沈む夕陽を眺めたかったが、肝心の太陽は雲の中で佐渡や淡島なども薄雲と靄のために全く見えなかった。それでも山頂からは左に大熊尾根、そして明日下る予定の権内尾根が右手に見えている。どちらも小さなアップダウンの多い急峻な尾根が日本海に落ち込むように続き、後ろを振り返れば地神山の後方に飯豊本山がのぞいていた。もう少し待てば雲が晴れて美しい夕焼けが見えるかもしれないと思ったが夕方から広がりだした雲は一向に切れる様子がない。二王子岳の上空付近からは薄黒い雲が降り注ぐような形で下に伸びていてもう雨が降り出しているような気配さえ漂っている。今夜もまた一雨降るかも知れないと思いながら小屋に戻った。すでに小屋の中には宵闇が忍び寄っておりローソクの明かりのなかで夕食を始めた。その夜は強風と共に雷を伴った雨が降り止まず、小さな小屋は一晩中揺れ続けた。

(二日目)
早めに眠ったせいか4時前から目が覚めていた。雨は既に上がったのか風の音だけが響いている。窓を開けてみると小屋の周りは濃霧に包まれていて視界はなかった。がっかりして再びシュラフに潜り込み、朝食は6時を過ぎてからゆっくりと始めた。朝食後もいっこうにガスが晴れなかったが天気予報によると下界は晴れるようなので予定どおり権内尾根を下ることにして小屋を出る。濃いガスと共に冷たい風が吹き荒れておりウインドブレーカーで身を固めてから歩き出した。視界は10mほどしかない。杁差岳の山頂から右手に下るとまもなく雪原歩きとなった。この付近は長者原と呼ばれる湿原地帯で池塘も多いのだがまだ大量の雪に覆われている。道が少し不明瞭だったものの途中から夏道に戻るとそこからは問題なく歩くことができた。小さなアップダウンを繰り返すとやがて前杁差岳の登りだ。この急坂を登り始める頃から徐々にガスが晴れだしてきていた。

前杁差岳の登りで汗を搾り取られ、山頂でウインドブレーカーを脱いだ。杁差岳からの標高差は100mぐらいだが雲から抜け出してみると下界はやはり晴れている。後ろにそびえる杁差岳は分厚い雲に隠れて全く見えなかった。正面のはるかかなたには大石ダムらしきものが見えた。前杁差岳の山頂を後にすると雨量観測所の建つ千本峰、楓ノ峰、権内ノ峰などのピークを次々に踏みながらの下りが続いた。この登山道でもやはりシラネアオイやイワカガミなどの可憐な花々が咲き乱れ、それは群生しているともいえるほどで、距離は短いものの春のダイグラ尾根を思い起こさせるような尾根であった。

権内尾根の最後のピークである847mのカモス峰(カモス頭)まで来れば後は林道まで一気に下るだけである。「カモス頭」と書かれた標識のある太いブナの根本にザックを下ろして残っていた行動食を食べながらつかのまの休憩を楽しむ。ここからは急峻な岩場のような箇所もあって少しも気を抜けなく、ストックを頼りに慎重に一歩一歩下らなければならなかった。そして鉄製のりっぱな1号橋に降り立つとようやく急坂が終わった。小屋を出てから4時間20分。時間はちょうど正午になっていた。ここからは長い林道歩きが待っている。1号橋の駐車スペースに留まっている車を横目で眺めながらとぼとぼと林道を歩き始めた。1時間ほど歩くと腹が空いてどうにも動けなくなり、林道の途中で腰をおろしラーメンを作りながら疲れた体を休めた。

大石ダムまではまだ1時間ほど歩かなければならない。ゆるやかな下りだが2日間の疲れはやはり足にきていた。両足を引きずるように白く乾いた林道を再び歩きだす。大石ダムが近づくにつれて、陽気に誘われたのか林道の散策を楽しんでいる人達や、小さな子供を連れてピクニックを楽しんでいる家族連れも目立ち始めていた。いつのまにか気温はぐんぐん上昇しており林道には暑い日差しが照りつけている。見上げれば上空には真っ白い入道雲が湧き、新緑に包まれた飯豊連峰はすっかり初夏の装いを感じさせた。



足の松尾根から望む胎内尾根



大石山付近のお花畑と杁差岳



お花畑と二王子岳(大石山と鉾立峰のコル付近)



鉾立峰山頂での憩いのひととき
左手は杁差岳



杁差小屋が目前


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