山 行 記 録

【平成14年5月19日(日)〜20日(月)/朝日連峰 針生平から大朝日岳】




やっと晴れだした大朝日岳(平岩山の肩から)
[2002.5.19日撮影]



【メンバー】単独
【山行形態】夏山装備、避難小屋泊
【山域】朝日連峰
【山名と標高】北大玉山1469m、平岩山1609.0m、大朝日岳1870.3m
【天候】(19日)曇り後晴れ(夜雨)、(20日)曇り時々晴れのち雨
【温泉】西置賜郡小国町五味沢 白い森交流センター「りふれ」500円
【行程と参考コースタイム】
(19日)大石橋800〜角楢小屋850〜大玉沢出合吊橋920〜森林限界1050〜大玉山分岐1115〜
     平岩の清水1155〜平岩山1215〜1320大朝日岳1340〜大朝日小屋1350(泊)

(20日)大朝日小屋610〜大朝日岳630〜平岩山〜745北大玉山755〜830蛇引の清水845〜
     大玉沢出合吊橋920〜950角楢小屋1010〜大石橋着1100

【概要】
針生平からのコースをちょうど1年ぶりに登る。今日は朝から薄曇りの空模様で、日差しもなく明日は雨模様の予報さえでているので気分は今ひとつ盛り上がらなかった。登山口である大石橋の標高は約420m。大朝日岳の山頂までは1450mの標高差を登らなければならず、いつもながらこのコースはきつそうである。

荒川に架かる二つ目の吊橋を渡り、しばらく平坦なブナの原生林を歩く。角楢小屋付近では早くも雨具を来た二人連れが下ってくる。大朝日の山頂から下ってきた人達かと思ったら、昨日は土砂降りのために角楢小屋までしか行くことができず、今日はそのまま下山するとのことである。誰もいない角楢小屋を通過し、最後の大玉沢出合に架かる一本吊橋を渡るとようやく尾根の取付で、すぐさま急登が始まった。ここからは登山道の両側にタムシバ、ムシカリ、ムラサキヤシオなどが咲いていて急登の疲れを慰めてくれた。登る度に汗がほとばしり、その汗の匂いにつられて大量のブヨがまとわりつく。防虫スプレーをかけても効果は薄く、このブヨの大群には稜線に出るまで悩まさせられた。

森林限界に飛び出すと涼しい風が吹いていてようやくブヨから逃れることができた。左斜面にはまだ残雪があり、そこでは二人の登山者が腰を下ろしていたので少し立ち話をする。聞いてみると二人とも地元の人達で、7月に行われる朝日の山開きのために登山道の偵察と山菜採りを兼ねて登ってきたらしかった。ここからは北大玉山が目前で右手には大玉山が大きく望めた。そして稜線の末端には残雪を抱いた祝瓶山が薄曇りの中、天を突くように聳えている。それはまさに孤高の名峰という風格を漂わせていた。

稜線に登るとカタクリやイワウチワが盛りで、大玉山分岐から先はミネザクラが満開だった。そのミネザクラを前景にして残雪の朝日連峰が美しくしばらく見とれていた。しかし大朝日岳の山々は厚い雲が覆っていて見えない。まるで先週の豪士山の時のような空模様である。北大玉山からは小さなアップダウンを繰り返して平岩山に登り返す。その平岩山直下に「平岩の清水」という新しい標識が立てられてあった。

この頃から少しずつ陽射しが差し始め、平岩山の肩まで登るとようやくガスが晴れて大朝日岳が姿を現した。風は強かったが初夏を感じさせる陽射しは気持ちが良く、今一つ盛り上がらないでいた気分も晴れてくるようだった。すでに正午を回っていたので大朝日岳への急坂直下で軽く行動食をとりながら小休止した。

大朝日岳への最後の急坂はあえぎながらの登りだった。ペースが早かったためだろうか。足は相当疲れていたらしく頂上直下では2歩3歩登っては一息を入れなければならなかった。そして登り始めてから5時間20分。花崗岩のガレ場を登り詰めようやく大朝日岳山頂に到着した。誰もいない山頂には新しい標注だけが立っていた。今までのものよりは一回りも太い標注で、旧い標注が傍らに置かれてある。大朝日岳の避難小屋はもう目前なので、疲れた体を休めながらしばらく周囲の山々を眺めていた。

山頂を後にすると途中の雪渓で水用の雪を確保してから小屋に向かった。今日は日曜日のためか小屋には当然ながら誰もいない。天気予報も芳しくないので日帰りの登山者もいないようだった。私はいつもの場所、2階の一角にザックをおろして遅い昼食をつくる。そして冷えたビールを飲むとたちまち酔いがまわり、シュラフの上に眠ってしまった。その後寒さのために目を覚まし、あわててシュラフに潜り込んだ。温度計をみると小屋の気温は8度しかない。どおりで寒いわけである。それからは熱いコーヒーを飲みながら文庫本を読んで午後の一時をすごす。窓の外を見ると青空はいつのまにか消え失せて、空全体が薄雲に覆われている。山頂付近はもう見えず、まだまだ不安定な天候を感じさせた。夜になると風が強まり、やがて大きな音を立てて雨が降り出してきた。一人きりの小屋の中では屋根を叩く雨音がなぜか心地よく、子守歌のように聞こえた。

(2日目)
夜半には雨は上がっていたものの、翌朝は雲が多くすっきりしない空模様だった。予報では午後にも雨が降り出しそうなので、早めに小屋を出ようと思いながら食事の準備をはじめた。外では寒いくらいの風が吹いており、ウインドブレーカーと冬用の手袋で身を固めて小屋を出た。大朝日岳の山頂で再び展望を楽しんだ後、ガレ場をジグザグにゆっくりと下る。平岩山の巻き道で笹ヤブを漕ぐと昨夜の雨のために膝上までズボンが濡れた。

平岩山を下り北大玉山へ登り返す頃には強風はもうおさまっていた。気温も徐々に上がり始めており、雲が幾分多いものの上空には青空も広がる予想外の好天である。午後から天候が崩れるというのも信じられないほどで、爽やかな微風と陽射しはすでに初夏を感じさせた。快適な縦走路も大玉山の分岐を過ぎ、蛇引尾根に入ると展望もまもなく見納めとなる。のんびりと写真を撮り、ムラサキヤシオやカタクリなどの花々を愛でながら下った。

樹林帯の途中では久しぶりに蛇引の清水に立ち寄ってみた。下りに4分、登り5分ぐらいの所要時間である。冷たい水が豊富に流れていて、5秒と手を入れていられない。顔を洗うと皮膚がピリッと引き締まった。そこからは標高差約700mの棒尾根のような急坂を一気に下る。大玉沢の沢音が徐々に大きくなり、それが轟音ともいえるほどにもなると大玉沢出合の一本吊橋に着いた。ここから登山口である大石橋まではゆっくり歩いても2時間弱である。

吊橋からは再び平坦な山道となり、誰もいないブナの原生林にはザックにつけた熊避けの鈴の音だけが響いた。休まずに歩き続けたせいか足はかなり疲れており、角楢小屋で少し休憩をすることにした。角楢小屋は10人も泊まればいっぱいになりそうなほどの小さな小屋だが、内部は驚くほどきれいで小屋の中央には薪ストーブがあり、素朴な山小屋の雰囲気に満ち溢れている。小屋の管理人の人柄が伺えそうな素敵な小屋で、腰を下ろしていると時間の経つのを忘れそうになるほどである。私はしばらく建築当時の記録写真などを読ませてもらいながら疲れた体をしばし休めた。

稜線を歩いている時には陽射しが照りつけるほどだった天候も、いつのまにか下り坂になっていた。大石橋を渡る頃はもう上空は一面の雨雲に覆われていて、いまにも泣き出しそうな空模様に変わっている。そして駐車場で後かたづけをしている途中からポツリポツリと雨が降りだし、温泉に向かう頃には本降りとなっていた。




蛇引尾根にかかる4本の吊橋の内でも
一番落差がある大玉沢出合の一本吊橋



標注が一回り大きく立て替えられていた大朝日岳山頂
右にあるのが旧い標注
[2002.5.19日撮影]



雲が湧く祝瓶山(平岩山の肩から)
[2002.5.20日撮影]



ミネザクラが満開の朝日連峰
(左から西朝日岳、中岳、大朝日岳)
[2002.5.20日撮影]


inserted by FC2 system