山 行 記 録

【平成14年5月5日(日)〜6日(月)/飯豊連峰 大日杉から飯豊本山】



大日岳に朝日が差す(御秘所付近から)



【メンバー】単独
【山行形態】避難小屋泊、春山装備(ピッケル)
【山域】飯豊連峰
【山名と標高】地蔵岳1538.9m、飯豊本山2105.1m
【天候】5日(晴れのち風雨)、6日(晴れ)
【温泉】西置賜郡飯豊町「フォレストいいで」 300円
【行程と参考コースタイム】
(1日目)大日杉740〜ザンゲ坂800〜御田830〜地蔵岳1000〜御沢分岐1125〜切合小屋1200(泊)
(2日目)切合小屋440〜飯豊本山600〜本山小屋615-630〜735切合小屋(朝食)840〜地蔵岳1015-1035〜大日杉1150

【概要】
(1日目)
例年になく雪が少ないと嘆いているうちに早くも暦は5月である。周囲の山々は既に春山真っ盛りという雰囲気で、飯豊も朝日も気になりはじめていた。楽しみにしていた連休も明日で終わりなので、久しぶりに飯豊の空気に触れたくて自宅を出た。昨年は雪解けも遅く、大日杉小屋までも行けなかったが、今年は道路に全く雪がなくなっていた。

小屋前で準備をしていると、偶然にも小国山岳会の井上邦彦氏に出会った。井上氏はめずらしく一泊の予定で、今日は御西小屋までの予定だというから驚きだ。健脚の登山者でも本山小屋まででさえ大変なのである。私は井上氏から少し遅れて出発した。登りはじめるとすぐに汗が吹き出してきて、あわてて半袖一枚となる。雪はザンゲ坂手前の斜面に少し残っているだけで、尾根に上がるとしばらく夏道が続いた。登山道の周辺にはもう春の花が咲き競っている。マンサクにタムシバやムシカリ。そして鮮やかなムラサキヤシオが新緑に映えて美しい。足元を見ればイワカガミやショウジョウバカマが盛りだった。長之助清水から残雪が現れると、ここからはほとんど雪上の登りとなった。細い木々などがまだ雪に埋もれているので、周囲の山々がほとんど見渡せるから楽しい。汗は止めどなく流れたが、涼しい風が雪面を渡ってくるから爽やかだった。こうして登山靴で登っていると一昨日までテレマークスキーで楽しんでいたのに少しも違和感がないから不思議である。春山もまた冬に劣らずいい季節だなあとあらためて思う。

地蔵岳ではもう早くも下山してきた登山者が山頂で休んでいた。一昨日から入山したのだが2日間とも悪天候で良いところが無く、やっと今日になって晴れたのだが・・・とがっかりしている。三角点のある頂上からは飯豊本山が正面だ。雪が少ないとはいえ飯豊はまだまだ分厚い雪に覆われていて真っ白い山肌が美しい。しかし上空の青空はいつのまにか消え失せていて薄雲が広がっていた。そして風が強くなってきていた。

地蔵岳からはしばらく夏道と雪道が交互に現れた。風は冷たく、ますます強まってきたので長袖を再び着る。右に見える筈の本山はガスに隠れて見えなくなっていた。御坪までの夏道にはカタクリの群落があり、まるで雪解けを待って一気に咲き出したようだ。目洗い清水付近で日帰りの二人組が腰をおろして休んでいた。天候が悪化してきたのでこのあたりから引き返すらしかった。御沢別れまで来ても風は相変わらず。本山を隠していた雲は薄黒い雲に変わっており天候が急変してきていた。御沢別れから雪渓を見上げると先を行く井上氏の姿が小さく見えた。井上氏は御沢の雪渓を登り切り、小屋への急斜面を登っている所だった。私は昨年と同様に右への尾根を小屋まで直登することにした。トレースは別にないので雪面をキックステップで登る。雪が切れたところはヤブを漕ぎ、風に煽られながら急斜面を登り詰めると切合小屋だった。小屋に入る直前、本山の方角を見上げると、草履塚だけはかろうじて見えるものの、その背後に聳える本山や周りの山並みは濃いガスに隠れて全く見えなくなっていた。

小屋の2階に上がると井上氏の他に登山者が二人休憩している。井上氏は早くも食事を終えて出かけるところで、こんな天候でも予定どおり御西小屋までゆくつもりらしかった。私は本山への登頂は明日でも全然かまわないので、悪天候を突いてまで先に進む気持ちはあまりない。井上氏を見送ると予定していた本山小屋までの行程を急遽、切合小屋への宿泊に変更することにした。

先にきていた2人組は宮城からの人達で、昨日川入から入ったものの悪天候のため三国小屋で停滞。そして今日もまた天候に阻まれてこの切合小屋で停滞するとのことである。予報によると午後からは快晴に恵まれるはずだったのだが、山の天候はあてにならないものだなあと二人ともがっかりしている。私は水作りのための雪を探しに外に出た。

停滞するとなると時間はたっぷりとあり、昼食後は文庫本を読んだりコーヒー(ウイスキー入り)を飲んだりしながら時間をつぶした。天候は回復するどころかますます悪くなっていた。風の強さはハンパではなく、がっしりとした小屋も時々揺れ、薄い窓ガラスはガタガタと休みなしに震えている。また気温は低く文庫本を持つ手がかじかんで感覚がなくなりそうだった。夕方になり小屋の中が一瞬薄暗くなったと思ったら、やがて風とともに雨が降り出してきた。窓を開けてみると小屋の周囲にも濃いガスがたちこめて視界がなくなっていた。その後宮城の二人組と山の話をしながら夕食を始める。夕方遅くになり3名ほど小屋に入ってきて、結局この日の宿泊は6名となった。この夜は冷え込みが厳しくてスリーシーズンのシュラフではかなり寒かった。

(2日目)
翌日は4時に起床した。いつのまにか風はおさまっており、窓を開けてみると上空は晴れている。まもなく夜が明けそうだった。私は朝飯前に本山まで往復することにして、行動食などをザックに詰めた。同宿の二人も起き出して、好天の兆しに一安心している。彼らもまた本山を往復してくる予定らしかった。

外に出てみると小屋前の水たまりは全て凍っていた。そして雪面は夕べの雨で堅く締まり、朝方の冷え込みのためアイスバーンとなっている。確実にアイゼンが必要な雪面だったが、今回はアイゼンはなくピッケルだけである。気温が上がれば雪面は柔らかくなるのだろうが融け出すまでただ待っているわけにもゆかない。雪上の歩きは草履塚の頂上まででそこから先は雪は無いはずである。ピッケルで慎重に歩くしかなかった。

登りはじめるとすぐに強い風に晒された。風は冷たくて間違いなく気温は氷点下だろう。冬用の手袋をザックから取り出して二重にした。草履塚を登っている途中、雲間から朝の太陽が登ってきた。薄雲は山並みに少しかかっているだけで上空は快晴である。まもなく気温も上昇してくるだろうと期待しながら本山をめざした。草履塚から先は雪は全くなかった。

本山にはちょうど6時に着いた。御西の背後に聳える大日岳や牛首山は朝日を浴びてまぶしい。飯豊の主稜線はまだまだ豊富な残雪に覆われており、またダイグラ尾根も夏道が見えるとはいえ多くの雪庇に覆われていた。

山頂では風が強くて休むどころではなかった。そそくさと山頂から下り、途中で本山小屋に立ち寄る。誰もいないと思ったら川入から入山した登山者が3〜4人ほど2階に泊まっていた。その人達の他に登山者がいる様子はなく、井上氏はやはり昨日の悪天候の中を御西小屋までいったことを知った。私は行動食を少し腹にいれて冷え切った体が温まるのを待った。

本山から下山する途中、御秘所付近で同宿の二人組とすれ違う。切合小屋には往復約3時間で戻った。陽はだいぶ高くなってきたので朝食を食べているうちにだんだんと雪面も柔らかくなるだろうとのんびりと食事の準備をはじめた。草履塚の斜面はまだカチカチに堅く凍っており、御沢の雪渓の下りを少し心配しながらの朝食だった。

ザックをまとめて小屋を出ると陽射しがまぶしかった。気温は朝方とは比較にならないほど上昇してきている。雪の上に立ってみると雪面はかなり柔らかくなっており、下るにも問題はなさそうである。一応ピッケルを持ち急斜面をグリセードで滑りながら御沢の雪渓に下りた。登りではあえぎながら登らなければならないこの急勾配もグリセードならば数秒で下れるのだから春山は楽しい。御沢別れまでくれば後は夏道と雪上歩きだ。

すぐ近くではウグイスが鳴き、他には風の渡る音がかすかに聞こえるだけの静かな飯豊連峰だった。好天に恵まれればこんなに贅沢な春山はないだろうと思う。時々立ち止まって胸一杯に息を吸い込むと、飯豊のさわやかな空気が体の隅々まで滲みてゆき、つかの間の幸福感に浸った。長袖では蒸し暑いような陽射しが降り注いでいる。私は時間もあるので、ここからは花を愛でながらゆっくりと下ろうと思った。


早朝、本山に向けて切合小屋を出発する(午前4時40分)



飯豊本山から望む飯豊の主稜線



 御沢別れ付近からの飯豊本山



御田付近の残雪(遠方はダマシ地蔵)



ムラサキヤシオツツジと五段山の稜線


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