山 行 記 録

【平成14年3月21日(木)/升沢から船形山 テレマークスキー】



升沢小屋に向かう途中から望む船形山本峰
その神々しい光景には言葉を失うほどである
山頂に避難小屋が見える



【メンバー】単独
【山行形態】テレマークスキーによる山行、冬山装備、日帰り
【山域】船形連峰
【山名と標高】船形山 1500m
【天候】晴れ
【行程と参考コースタイム】
自宅330=山形宮城IC=(東北道)=大和IC=升沢=宮城県内水面水産試験場630

宮城県内水面水産試験場700〜三光ノ宮925〜升沢小屋1025〜船形山1120(昼食)1220発〜三光ノ宮1330〜宮城県内水面水産試験場1430

【概要】
船形山は山形県では御所山とも呼ばれている大きな山塊で、前船形山、蛇ケ岳、三峰山などと共に連峰を形成している。今回、宮城県側から登るのは初めてであり、升沢は特に山スキーの登山口としても知られている。升沢からは標高差1000mを登らなければならずコースも意外と長いので、ある山スキーのガイドブックでは行程が8〜9時間を要するとある。以前、山形側から無雪期に1泊で登ったときもつらい山登りだったことを思い出し、なかなかこの山は手強いぞという雰囲気である。

升沢集落からしばらく林道を進むと宮城県内水面水産試験場があり、マイカーはここで行き止まりだ。車が1台駐車してあり早くも登っている人がいる模様である。除雪はされていないものの林道はこの先も続いており、ここから歩かなければならないようである。ザックのパッキングをしながら準備をしていると、宮城ナンバーのワゴン車がやってきた。男女二人ずつの4人グループで、一人は山スキーだが他の3人はワカンである。一声掛けてみると、4人とも宮城労山朋友会という山岳会に所属しており、この船形山についてもかなり詳しい人達だった。私はこの4人組と同時に出発する形になり、結局この先もコースの状況などを教えてもらいながら、前後して登ることになった。

しばらく進むと夏道の登山口を示す標識があり、また近くには「30」と書かれた赤い番号の標識も立っていた。この番号は船形山の山頂を1番として登山口まで順番に振られているらしかった。そこからは樹林帯の登りが始まる。急坂に汗を流しているとやがて一群平(ひとむれだいら)に出た。一群平はほとんど平坦ともいえる緩斜面で、ガスられれば方向感覚を失いそうな場所である。付近は気分のよいブナ林が広がっており、春の陽射しが燦々とブナの木を通して降り注いでいる。この美しいブナ林はこの先、鳴清水、三光ノ宮へと続くのでまさに桃源郷に遊んでいる気分である。

私達よりかなり早く出たと思われる人達は二人組で、ワカンのトレースが先へと続いていた。スキーではそれほど苦にならないほどの雪道だが、今日の重く湿った雪は坪足ではかなりきついようである。それでも先行者のトレースがある分、ワカン組はずんぶんと楽をさせてもらっていた。

急斜面に気持ちの良い汗を流しながら小高い尾根を登るとやがて石碑などが建つ三光ノ宮に着いた。ここからは真っ白い雪を抱いた船形山が正面に現れる。ブナ林の奥に浮かぶその姿は神々しいほどでしばし言葉を失った。雲一つない好天で、山頂に建つ避難小屋もはっきりと見えるほどだった。私達が休んでいると登山者がまた登ってきた。これも4人組でみな坪足である。私と一緒の4人組とは顔見知りらしく、お互い顔を見合わせては偶然の再会に驚いている。三光ノ宮はひとしきり賑やかになった。

三光ノ宮からはいったん緩やかな斜面をくだってから登り返す。そして蛇ケ岳の裾野を卷くようにしながらトラバース気味に登るとやがて雪に埋まった升沢避難小屋の赤い屋根が見えてきた。ここまでくれば船形山まではひと登りである。避難小屋の屋根の上に腰を下ろしてしばし休憩。急登の前に行動食を少し腹にいれてエネルギーの補給をする。

升沢小屋からは雪に閉ざされた沢を登ってゆく。右の大きな斜面に取り付いた後はひとしきり汗を流しながら急坂を登った。登り切るとそこはもう無木立の大斜面で船形山の避難小屋はもうまもなくだった。

小屋に入る前に大きな標識のある山頂に立つ。遠方は霞がかかっていたが山形側の山々が一望のもとに眺めることができた。白と黒だけの墨絵のような山々の背後には白く横たわる朝日連峰が見えた。そして右手にはひときわ白い月山が青い空に浮かんでいる。いつまでも眺めていたい光景だったが、山頂はさすがに風が冷たくて長居はできない。小屋に入って早速昼食だった。この船形山の避難小屋は最近建て替えられたばかりで、一見コンクリートの住宅を思わせるほどの立派な小屋であった。

小屋に入ってみると驚くほど多くの登山者がいるのでまずびっくりした。それも若い男女ばかりで、聞いてみると早稲田大学のワンゲル部の合宿らしく全部で10人程もいるのだった。彼らは山スキーで山形の銀山温泉から入山し、昨日からこの小屋に宿泊しているらしかった。明日は宮城県の定義温泉に下る予定で、今晩もこの小屋に泊まるのだという。幕営道具も背負いながら深雪と長いコースを困難な山形側からよく登ってきたものだと呆気にとられるばかりだったが、一方では彼らの話を聞いていると、地元の岳人でさえなかなか実行できそうもないその渋いコース設定と、余裕のある行程にまったくうらやましくなってしまった。

食事の後は果物やコーヒーを飲んだりしながらのんびりと1時間あまり休んだ。4時間以上の登りでパンパンに張っていた足の筋肉も十分に休んだので大分疲れが取れているようだ。スキー組は船形山の避難小屋をでるとここからはいよいよダウンヒルである。一緒に登ってきた4人組の内、山スキーの出野さんと私は前後して小屋から滑降を開始した。雪質はザラメかベタ雪のため決して快適とはいいがたかったが、考えようによってはアイスバーンよりは滑りやすいのだと思うことにした。升沢小屋までは表面が柔らかくなった無木立の大斜面をのんびりと下った。ワカン組の3人はかなり遅れるのではないかと心配したのだが、彼らの歩くスピードは予想以上に早い上に、こちらのスキーはほとんど滑らないので、下る時間はそれほど違わなかった。

升沢小屋から三光ノ宮までは緩やかな登りがあるので再度シールを貼る。ここまでは3月とは思えないような暑かった陽射しも、升沢小屋を後にするといつのまにか薄雲が広がりだし、気付いたときにはすでに膚寒い風が吹いている。陽も陰りはじめて天候は下り坂に向かっているようだった。私は三光ノ宮で大休止すると、ここまで行動を共にしてくれた4人組(笠原さん、出野さんご夫婦)と別れた。後はシールをはずして升沢の登山口まで一気に滑って行くだけである。

三光ノ宮からも雪質は悪くほとんど滑らなくなっていた。固形ワックスを塗っても効果は薄く、まるでシールを貼っているようなブレーキがかかり閉口するばかりだった。それでもこの船形山は登り応えも十分で、山頂からは豪快で快適な山スキーを楽しめるので、この山はこれからも病みつきになりそうである。途中のブナ林も美しく、ツアーの楽しさを十分に味わうことができる状況を確認しただけでも今日は大収穫だった。ただ残念ながら今回は雪が悪すぎた。もっと雪質のいい時期にまた訪れたいと思いながら升沢を後にした。


船形山の登山口(30番の標識がある)



美しいブナ林を登る4人組の奥様達



急斜面だが春の陽射しを浴びながら快適な登りが続く



三光ノ宮で小休止
ここではまぶしいくらいの春の陽射しが降り注いでいる



まだ雪に埋まっている升沢小屋



沢を登り詰めると山頂直下の広大な雪原に出る
小屋はもうまもなくだ



山頂、目前!



山頂から山形県側を望む
遠方の白い山並みは朝日連峰と月山(右奥)


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