山 行 記 録

【平成14年3月18日(月)/桧枝岐から会津駒ヶ岳 テレマークスキー】



会津駒ヶ岳山頂からの燧ヶ岳
雨雲が急速に空を覆ってしまい青空がなくなってしまった



【メンバー】単独
【山行形態】テレマークスキーによる山行、冬山装備、日帰り
【山域】南会津
【山名と標高】会津駒ヶ岳2132.4m
【天候】晴れのち曇り
【温泉】桧枝岐温泉「駒ノ湯」500円
【行程と参考コースタイム】
自宅3.00=桧枝岐村700
滝沢橋730〜林道終点の階段830〜共同アンテナ920〜会津駒ヶ岳山頂1200〜駒の小屋軒下(昼食)1210-1225〜滝沢橋1415
桧枝岐村「駒ノ湯」1600=自宅2030

【概要】
会津駒にはちょうど1年ぶりに登る。滝沢橋付近は道路工事のために車は入れない状況で今年も路肩に駐車した。昨年は平日でも何人かの登山者がいたのだが、今日は付近には車が1台も見あたらなかった。

すぐにシールを貼って沢沿いの林道を歩き始める。雪解けが早いのか今年はいつもより沢の音が大きい。いくつかのカーブを曲がるとデブリで林道が埋まっている箇所があって立ち止まった。雪崩は林道を突き抜けて下の道路まで達していた。雪のブロックは堅く大きいのでこんなものに襲われたら人間などひとたまりもないだろうと思われた。右手の高みを見上げると雪庇が崩れかけた雪のブロックがいくつか見える。今日はこれではこの先たいへんかなと思いつつ、注意を払いながらデブリを通過した。

雪庇の崩落が恐いので林道の上を絶えず眺めながら進んでいた。すると何気なく見上げた時、林道の上からこちらをジッと見つめているカモシカと目が合った。カモシカはブナの木と似たような保護色のために一瞬それが何なのかはわからなかった。林道の上と下とはいえ至近距離である。この出会いはほとんど予想していなかったために非常に驚いた。幸いにカモシカはこちらには下りてくる気配はなく、私は平静を装いつつ先を急ぐ。時々振り返るとカモシカもまた私の行動を監視するかのように、山の上を少しづつ移動しながらつかず離れずこちらを眺めているのだった。

1時間程の林道歩きで木の階段のある夏道の登山口に到着した。ここからスキーを担ぎ、尾根に取り付く。階段付近の山肌にはほとんど雪が無かった。斜面には昨日の日曜日に下ったと思われるトレースが続いている。しかし今日はやはり自分一人だけのようだ。ここからは汗を飛ばしながらカラマツ林が密生する急勾配の尾根をジグザグに登った。延々と続くきつい登りはまさにスキー登山だなあと妙に納得する。体調はあまりよくないので当面、共同アンテナまでが目標である。所々で色褪せたテープが風に揺れている。巡礼、難行苦行、刻苦勉励、艱難辛苦といった言葉だけがやけに思い浮かんでくる。今日は少し弱気になっているようだ。山頂にたどり着くにはとにかく一歩一歩登るしかないのだと自らを励ましながら両足を踏ん張る。そして喘ぎながらも1370m付近にたつ共同アンテナまで登ると、ここでようやくホッとして一息をいれる心境になった。適当な木の枝に腰を下ろし小休止する。

共同アンテナからはカラマツ林からブナ林と変わる。快晴に近い青空を背景にして、芽吹き前のブナの樹林帯が美しい。ときどき息を整えながら立ち止まりその美しいブナ林に見とれていた。付近がオオシラビソの針葉樹林に変わる頃になると、右手の樹林の間からは大戸沢岳の白い稜線が見えてくる。そして1900mを越えるといよいよ木立もまばらになり無木立の大斜面が目に飛び込んできた。斜面には大勢のトレースが乱れ散っている。先ほどまではほとんど無風に近かったがさすがに稜線では風が冷たい。強風のために吹きさらしの状態である。ここからはアウターを羽織り、帽子をかぶった。なおもクラストしている斜面をジグザグに登ると正面にようやく会津駒が見えた。なだらかな会津駒に続く右手の大戸沢岳が特に大きく圧倒される思いだ。左手の山並みの奥に浮かぶ燧ヶ岳はうっすらと靄がかかっている。空も少し霞んでおりどうやら急速に雨雲が近づいているような気がした。雪に埋まった駒の小屋を過ぎると会津駒まではもうひと登りだった。

下山するまでは全く心配がないと思われた天候も、駒の小屋付近を通過する頃から上空に薄雲が広がり始め、いつのまにか陽射しは無くなっていた。低気圧が通過して午後には雷雨まであるだろうという天気予報はどうやら当たるのかも知れない。これでは天気との競争になるかもしれないなと不安が募った。体は疲れ切っていたが、時間が惜しくて会津駒の山頂まではほとんど休憩をとらずに登る。

ようやく到着した山頂では雨雲が空一面に広がっていてすでに青空はなくなっていた。そして風が強まっていた。山頂に立つ大きな標識は「会津駒ヶ岳」の「会」の字だけが雪面から覗いている。1200mの標高差の登りはさすがにつらく、足が今にも痙攣しそうである。天候さえよければこの山頂にしばらく休んでいたかったが、写真を撮っただけで駒の小屋まで下ることにした。小屋の軒下では急ぎ足でカップラーメンだけを食べた。軒下とはいえ冷たい風が容赦なく吹き付けてくるので、ザックもスキーも飛ばされそうになっている。予想より急速に天候が悪化しており、早めに樹林帯に下らなければならなかった。そして雨が降り出す前に斜面を下らなければならない。雪の状況を観察しながら登ってきたところでは、ただでさえ雪崩そうな柔らかい斜面が多かったのだ。こんな斜面に雨が降ればいとも簡単に雪崩れてしまうだろう、と思うと不安は増すばかりだった。

天候は気がかりだったものの小屋からは快適なテレマークスキーを楽しめた。午前中の苦しい登りはこの快適な滑降で吹き飛んだ。ザラメに近い斜面をほとんど休憩もとらずに共同アンテナまで下った。登るときはクラストしていた斜面も気温の上昇で雪面が柔らかくなっていた。堅いアイスバーンにつらい思いをしながら下った昨年とは大違いである。

幸いに雨がまだ降っていないので、共同アンテナからは登ってきた尾根を左に見ながら右の小尾根に向かい、途中から上ノ沢の支流に下った。急斜面は滑るどころではなく横滑りで下る。上ノ沢の支流はデブリで埋まっていた。デブリは比較的新しく昨日か一昨日のものである。見上げるとやはりブロックが崩落して雪崩を誘発したような状況である。こんな危険な場所に長居は無用だった。スキーを担いで急いで通過する。そこからは沢を絡めながら下り、スノーブリッジを何カ所か渡った。空を見上げると今にも雨が降り出しそうな気配が漂っている。そのうえここは谷間ということもあって周囲は薄暗く、少々薄着味悪くなっていた。

5時間近くかけて登った会津駒ヶ岳もスキーだとたちまちで、林道との合流点はもう目の前に迫っていた。結局、この日の会津駒ヶ岳は最後まで一人だけだった。そして下山後に入った「駒ノ湯」にも入浴客は一人もいなくて貸し切り状態だった。なんとも寂しい限りである。しかし久しぶりに山スキーの横綱級ともいえるような会津駒ヶ岳を登ることができて気分は高揚している。「駒ノ湯」を出ると外では静かに雨が降りはじめていた。早く下ってきて正解だったようだ。



林道をデブリが塞いでいる



林道の上からジッと見つめるカモシカ



夏道の登山口
雪がすっかり融けてしまっている



標高1900mぐらいまで登ると大戸沢岳の稜線が見えてくる



会津駒ヶ岳




山頂から望む燧ヶ岳と雪に埋まった駒の小屋(左)



デブリで埋まっていた上ノ沢の支流


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