山 行 記 録

【平成14年2月2日(土)〜4日(月)/北八甲田 テレマークスキー】



田茂萢岳、北斜面のパウダーを滑る
この人達は一般のスキーヤーではもちろんない
みんなツアースキーのメンバー達だ
奥は赤倉岳[2002.2.3]



【メンバー】単独
【山行形態】テレマークスキーによる山行、冬山装備、酸ヶ湯温泉(自炊)泊、
      ※山岳ガイドによる山岳スキーツアーに参加
【山域】北八甲田
【山名】田茂萢岳、八甲田大岳、赤倉岳、井戸岳周辺
【天候】(3日)晴れ、(4日)曇り
【温泉】酸ヶ湯温泉
【行程】
(2月2日)自宅発10:00−(東北道経由)−酸ヶ湯温泉17:30着
(2月3日)八甲田ロープウェイ山頂駅〜田茂萢岳〜(八甲田温泉ルート)〜田代平
(2月3日)八甲田ロープウェイ山頂駅〜田茂萢岳北西斜面〜(フォレストコース)〜八甲田ロープウェイ山麓駅
(2月4日)八甲田ロープウェイ山頂駅〜田茂萢岳〜大岳ヒュッテ(昼食)〜赤倉岳東斜面〜(箒場岱ルート)〜箒場岱
      酸ヶ湯温泉発16:30−(東北道経由)−自宅23:30着

【概要】
厳冬期の八甲田には2年前に一度訪れたことがある。平地でさえも猛吹雪が吹き荒れる中、とてもテレマークを楽しむような状況ではなく、そのときは酸ヶ湯温泉に泊まっただけですごすごと引き返してきたのだった。再び厳冬期の八甲田にチャレンジとなった今回は、予想もしなかったほどの好天に恵まれ、まるで春山のようなツアースキーとなった。そして夜は酸ヶ湯温泉でのんびりと温泉三昧。ここの自炊部屋はまるで山小屋のような素朴さと気ままさがあり、この快適さはもう病みつきになりそうである。

ところでこの時期の八甲田山は麓を周回するシャトルバスもタクシーもないので、単独ではどうしても限られたコースになってしまう。そのため今回は初めてガイドを伴ったツアーに参加してみた。これだとコースの終点にはツアー用のバスが待機していてくれるので帰りの足の心配がいらないのだ。またこの時期では深雪のパウダーを楽しめる反面、雪崩が最も心配なところなので、コースを熟知しているガイドがいればこれほど心強いものはないともいえる。なお当初は3日間の予定をたてていたが、車のトラブルのために初日は酸ヶ湯温泉への移動日だけとなったものである。

(2月3日)
朝9時。酸ヶ湯温泉前からバスで八甲田ロープウェイに向かう。時間は少し遅い気がするがロープウェイの始発が朝9時なので、それに合わせての出発のようだった。日曜日ということもありロープウェイ乗り場はたくさんのスキーヤーやスノーボーダー達で溢れていた。今日のツアースキーの参加者は12名前後。昨日に続いて2日目という人も何人かいた。それに対してガイドは4名である。技量に応じて班分けでもするのかと思ったらみんな一緒の行動だった。テレマークスキーは私を含めて3名で他にスノーボーダーが1名、他はみな山スキーである。今日は午前の部が八甲田温泉ルートで、午後はフォレストコースの予定。ロープウェイ山頂駅前でガイドが点呼をとり終えるとさっそく出発した。正面には赤倉岳、井戸岳、八甲田大岳がどっしりとした山容を見せている。山肌には無数の樹氷が張り付いていて、白く輝く山々の美しさには圧倒されるばかりだ。田茂萢岳山頂から緩い斜面をひと滑りすると赤倉岳の麓まではしばらくゆるやかな登りになる。天候がよいので途中何回も休んでは写真を撮りながらの登りだった。赤倉岳の北西に広がる急斜面の肩に立つと、遥か向こうに小さく八甲田温泉らしい集落が見えた。ここからは深雪の滑降のスタートだ。最初は表面がパックされた雪のために足をとられて、思わず深雪に顔を突っ込んだりした。しかしこのパウダーともいえる深雪は楽しい。快晴の中で歓声をあげながらシュプールを刻む。みんなが滑り終わるとガイドが最後を飾るかのように、ここが見せ場と華麗なターンで下ってくる。ガイド達の滑りはさすがにうまいものだ。八甲田温泉ルートは2・3ヶ所の急斜面を過ぎると後はなだらかな樹林帯の緩斜面となり終点まで気持ちよく滑って行くことができる。ずっとこのブナ林が続いてくれたらと思いながら滑っていると、以外に早く八甲田温泉へとたどり着いてしまった。

酸ヶ湯温泉のバスで八甲田ロープウェイに戻ると午後のツアーが始まるまでの1時間、私は田茂萢岳の山頂で昼食をすることにした。ザックからテルモスを取り出しカップラーメンを作り、そしていつものように食後はコーヒーを淹れる。これだけですごく贅沢な気分になった。厳冬期の八甲田山頂でのんびりと食事をできるとは思っても見なかったのですごく満ち足りた思いだ。午後、といってもすでに2時半なのだが、参加者達は午前と同じように八甲田ロープウェイ山頂駅に集合した。午前中のツアーで帰った者もいてメンバーが少し入れ替わっていた。このガイドによるツアーはコース上の注意点を時々示されるだけで、細かい説明もないかわりに、よけいな指導といったものもなく、結構自由な雰囲気である。

田茂萢岳の山頂からはすぐに北西斜面に回り込んで深雪を滑ってゆく。ガイド達は八甲田の地形やルートを知り尽くしているのだろう。斜面をトラバースしながらも、雪質が良く、それでいてまだ誰も滑っていない深雪の斜面を探しては徐々に下っていった。午後は田茂萢ルートで途中からフォレストコースに別れて八甲田ロープウェイに戻るルートである。その名の通りここはブナ林の中を気持ちよく滑って行くことができるコースだった。急斜面やアイスバーンと違ってこういった斜面はテレマークスキーには得意分野である。私は滑降を楽しみながらも途中で何回か立ち止まっては小休止した。樹林帯には午後の柔らかい陽射しが降り注いでいる。私は溢れるほどの木漏れ日を全身に浴びながら、しばらくブナ林の美しさに見とれていた。

(2月4日)
朝方、ガイドから「今日は天候が良いので山越えをするから昼食とシールを準備するように」といわれる。コースは大岳ヒュッテを経由しての箒場岱ルートらしかった。いよいよテレマークスキーらしいツアーを楽しめるというのでわくわくした。バスを待つ間、酸ヶ湯温泉から見上げると白く輝く八甲田大岳が見えた。今日も快晴の空が朝から広がっていた。田茂萢岳山頂からはいったん井戸岳との鞍部まで下ってからシールを貼った。ところが大岳ヒュッテを目指し登っている途中から薄雲が広がりだして雲行きが怪しくなってきていた。それは急変とも言えるほどでたちまち視界は10m前後しかなくなってしまった。昨日の天候があまりに良すぎたのだろうか。やはり山は天気予報通りとはゆかないようだ。それでも大岳ヒュッテまでのルートははっきりしているのでそんなに不安になるほどではなかったが、やはり展望がないと思うと落胆した。

登り詰めると氷詰めにされたような大岳ヒュッテが濃いガスの中から現れた。ヒュッテの入口は完全に雪に埋もれている。良く見ると入口が風上側に設けられており、どうもこの小屋は方角を全然考えずに建築されたような感じだった。急激に気温も下がりはじめており、どうしても小屋に入りたいという思いで、スコップで2階の冬期入口を掘り出した。凍り付いていた窓が中から開けられると、私達はようやく小屋の中に入ることができた。ここでしばらく昼食休憩となった。外は思いがけない悪天候だったが小屋はしっかりとしており快適な山小屋である。しかしストーブが焚かれても小屋の中はほとんど温まらなかった。

小屋から出ても視界の悪さはあい変わらず。ガスと強風が吹き荒れる中でシールをはずし、ガイドを先頭に一列になってガスの中を歩き出した。単独であれば小屋から一歩も出られないようなホワイトアウトでもガイドがいるというのはなんとありがたいことだろう。井戸岳をトラバースしながら赤倉岳の東斜面に回り込み、ほどよい雪質を確認したところでこの大斜面の滑降が始まった。しかし雪質はアイスバーンとモナカ状態が不規則にあらわれるいわゆる悪雪で、私のテレマークでは悪戦苦闘しなければならなかった。

大斜面を下っている途中からようやく視界がはっきりしてくる。どうやら分厚い雲の中から抜け出たようであった。斜度が緩やかになったところで立ち止まって振り返ると八甲田大岳や井戸岳、赤倉岳の山頂付近はまだ薄黒く厚い雲に覆われていた。下界は晴れているようだがどうやら天候は下り坂に向かっているようだった。そこからはなだらかで柔らかくなった雪面を快適に下って行くことができた。雛岳の裾野を縫うように緩斜面の樹林帯を下っていると、見覚えのあるブナ林や斜面が次々に現れてくる。ここは5月に何回か滑っているコースなので実に懐かしい思いをいだきながら滑る。前方に箒場岱の茶屋やレストハウスが見えてくる頃になると、いつのまにか強い陽射しが戻っていた。


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