山 行 記 録

【平成14年1月20日(日)/吾妻連峰 天元台〜西吾妻山〜白布温泉(若女平コース)】



若女平から西吾妻山を仰ぐ



【メンバー】単独
【山行形態】テレマークスキーによる山行、冬山装備、日帰り
【山域】吾妻連峰
【山名と標高】西吾妻山2035 m
【天候】晴れ
【温泉】白布温泉 「かんぽの湯」510円
【行程と参考コースタイム】
北望台(リフト終点)発1000〜カモシカ展望台1035〜天狗岩1125〜西吾妻山1145〜西吾妻小屋1230-1245〜若女平1415〜ヤセ尾根1430〜白布温泉(若女平登山口)1515〜駐車場1530

【概要】
吾妻連峰に登るのは3週間ぶりである。今日の東北地方は移動性高気圧に覆われて早朝から快晴の空が広がった。しかし外気温は平地でさえも氷点下10度と厳しい冷え込みで、標高1800mの北望台はキーンと張りつめたような寒気に包まれている。この厳寒の中でシールを貼るのはいつもながらつらい作業だった。目の前の斜面にはトレースがありすでに何人か登っていた。リフト終点の監視所で登山計画書を書きながら聞いてみると、今日は「米沢山の会」が大沢コースを下り、他に3名ほどが若女平を下る予定で登っていったという。

気温が低いせいだろうか。パウダースノーはシールが効きずらく、急斜面では何回もスリップするので最初から難儀して登らなければならなかった。立ち止まっているとツボ足で後ろをついてきていた若いスノーボーダー達にさっさと追い越されてしまった。そのスノーボーダー達がカモシカ展望台で一休みしていた。東京から来た彼らは地形図も持たずにトレースに誘われるまま、思わずここまで登ってきたようである。今日は天候の崩れる心配もないので彼らに中大巓か人形石まで行ってみることを勧めた。私はここでいったんシールを外してひと滑りだ。前回は体調不良でテレマークを楽しむどころではなかったのだが、今日は不安材料が何もなかった。快適なテレマークスキー日和である。しかし爽快な滑りもあっと言う間に梵天岩との鞍部に着く。再びシールを貼りなおして今度は梵天岩への登りだ。カモシカ展望台からは斜面を登っている3人の登山者が見えたのだが、もう登り切ったらしく周りには誰もいなくなっていた。

上空にはほとんど雲のない青空が広がり、暑い陽射しが燦々と降り注ぐ。私は梵天岩への中間地点でアウターを脱ぎ、ウールのシャツ1枚になった。登り切った梵天岩からはいったん下り西吾妻山に登り返す。今日はその前に天狗岩に立ち寄ることにした。天狗岩の一角に奉られてある吾妻神社も今は祠全体が雪に覆われて氷結している。かろうじて屋根の形が神社の姿を感じさせるだけである。その右手には冠雪した飯豊連峰が聳えていた。

夏の西吾妻山の山頂は鬱蒼とした樹林帯に囲まれて視界はないのだが、今の時期ならば遮るものが何もないから実にうれしい。最近の好天続きのせいでスキー場周辺の樹氷は見る影もないほどにヤセ細ってはいたのだが、西吾妻ぐらいの標高になるとさすがにその心配もなく、広大な樹氷原が広がっていた。ここは冬山登山者だけに許された別世界だ。いちばん高い地点を山頂と決めて小休止する。山頂からは飯豊連峰や朝日連峰、月山、鳥海山、そして蔵王連峰などの峰峰が一望だった。そして山頂の南側を見ればようやく晴れだしたガスの中から磐梯山が姿を現し始めていた。

休憩後はシールを外していったん東側の無木立の斜面をひと滑りしてから西吾妻小屋に向かった。周辺には多くのトレースが残っているものの、小屋に着いたときはすでに12時半になっており、小屋の中には人の気配もなくみんな去った後だった。私はここでいったん昼食をしてから若女平を下ることにした。小屋の前の雪面をならしてスキーを椅子にして腰を下ろす。きょうも簡単にお湯を注ぐだけのカップラーメンである。北望台からここまでは短いとはいえ結構な登りが続いていただけに、疲れた体には熱いラーメンがことのほかおいしかった。ラーメンを食べ終わる頃になると、いつのまにか西大巓の山頂付近からガスが湧いてきていた。それは見ている間に急速に広がりだして陽射しを遮るほどになった。視界が無くなりそうなのであわててザックをまとめて下山することにした。

小屋から少し北に向かうと今日は3人のトレースがあり何となく安心する。3つのトレースのうち、二人は山スキーで一人はスノーボードである。積雪期にこの若女平を下るのは4回目で私も大体のコースは覚えたつもりだが、このコースは途中でわかりづらい箇所があるのでいつも少し不安なのだ。コースの最初は樹林帯の急斜面を下る。樹林は密集しているのでターンをしながら下るのは結構難しく、むしろここはスキー向きのコースではないのかもしれなかった。その上、このところの雨降りや気温が高い日が続いたことから、斜面はほとんどアイスバーンとなっていて、その上に降雪があったものだから非常に滑りにくいのだ。いわばアイスバーンにうっすらと粉雪が乗っている状態であり、今日の雪質は今までで最悪ともいえた。樹木が密集しているだけに大きくターンもできない。私は急な斜面はほとんどボーゲンで下った。それでも制動がきかずに何回か横転しては雪まみれになった。

何回ぐらい転んだ時だろうか。全身雪だるまになってやっと起きあがり何気なく樹林帯を振り返ると、青空を背景にして雪をかぶった若いブナの木やダケカンバが輝いている。霧氷が冬の陽射しを浴びてキラキラと煌めいているのである。それはただ美しいとしかいいようがない風景だった。他に下ってくる人もなく聞こえるのは風の音だけで、私は雪の斜面に佇みながら静かな感動に浸った。これだけの風景なのに冬の景色は無性に美しい。それが容易に人の踏み入れない山奥であればなおさらのような気がした。雪国に生まれ育ったことに今日はわけもなく感謝していた。

若女平を過ぎると積雪量も増し雪質も良くなってきたので快適なテレマークスキーを楽しめた。若女平からヤセ尾根までの区間が今日のハイライトといえそうであった。ヤセ尾根は若女平コースの核心部ともいえる箇所。短い区間だがさすがにここはスキーを担ぐ。後はブナ林の中を快適に下るだけだった。ほとんど休まずに下り続けた今日の長い行程も、杉林の中を下る頃になると終着も近い。密集した杉林をジグザグに下ってゆき、最後の急斜面のトラバース箇所に出たところで再びスキーを担いだ。そして杉の植林地をツボ足で下るとまもなく林道に出る。ここから西吾妻スカイバレーの入口まではわずかだ。

いくら下りにスキーを使えるといってもこの若女平コースはいつもながら長くつらいコースだ。足腰から上半身に至るまで疲れ果ててしまい、有料道路の入口の車道に降り立つと目眩がした。今回は今までに無いほどの疲労感が全身を襲っている。それはまるで飯豊連峰を縦走した直後のような疲労感と久しぶりに味わう充実感だった。


氷結した吾妻神社と飯豊連峰(天狗岩から)



快晴の空が広がる西吾妻山山頂で


雲に浮かぶ磐梯山(西吾妻山から)


誰もいない静かな西吾妻小屋


キラキラと霧氷が光り輝いている
若女平の近くの樹林帯で


ようやく若女平にたどり着く
この先はダケカンバとブナの斜面をヤセ尾根へと下る



ヤセ尾根付近から見る天元台(望遠)



本コースの核心部、ヤセ尾根の通過



清流
若女平登山口の近くで



疲労困憊で有料道路入口に降り立った



すでに日暮が近い若女平登山口


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