山 行 記 録

【平成13年12月8日(土)〜9日(日)/安達太良山(峰ノ辻まで)】



くろがね小屋からの急坂を登る
[2001.12.9]



【メンバー】5名(伊藤(孝)、清水、渡辺、東海林、蒲生)
【山行形態】冬山装備、営業小屋泊(県営くろがね小屋)※自炊3,570円
【山域】奥羽山脈南部
【山名と標高】安達太良山 1700m
【天候】(8日)曇り時々晴れ、(9日)雪
【温泉】岳温泉(300円)
【行程と参考コースタイム】
[2001.12.8]
長井830〜あだたら高原スキー場駐車場着1100
奥岳登山口1130〜勢至平〜くろがね小屋1400(泊)
[2001.12.9]
くろがね小屋800〜峰ノ辻〜勢至平〜あだたら高原スキー場駐車場1100

【概要】
今回はめずらしく冬の安達太良山を山の会のメンバー5人で行くことになった。12月上旬ではまだ積雪は少なく気持ちは今一つなのだが、私以外は皆冬山は初めてであり、あくまで冬山の体験が目的である。

12月3日に電話でくろがね小屋付近の雪の状況を確認したときは、積雪はわずかに5cm程度と聞いていた。この5日間の間にそれほど雪が降った様子もなく、あだたら高原スキー場の駐車場には案の定、雪は全くなかった。しかしゲレンデにだけは結構な積雪があり、ゴンドラや休憩施設などはまだ営業前だったが、スキー場では早くも初滑りを楽しむ若い人が大勢いて、リフト前では行列もできている。スキー場には音楽も流れ、いかにもウインタースポーツの到来という雰囲気である。

今日は朝から初冬のからっとした日射しが照りつけていた。岳温泉に向かう車の中は暑いくらいだったが、駐車場に着いてみるとさすがに風は冷たく、最初からアウターを着て登らなければならなかった。登山道にはまだほとんど雪がないので、今日は革の重登山靴を履いた。雪のない道をプラスチックブーツで歩くほどつらいものはないのだ。

冬山の装備等で結構重くなったザックを背負い、先に登っていた6人ほどのグループを途中で追い越したりしながら、樹林帯の登山道を登る。何回か林道を横切り、積雪が目立つようになるとようやく冬山らしくなった。勢至平からはなだらかな道になるが、見晴らしが良い分だけ吹きさらしの風が強くなるところだ。先ほどまですっきりと晴れていた上空には薄雲が広がりだしていて、篭山付近はなんとか見えるものの安達太良山はもうガスに覆われている。もしかしたら山頂付近は風雪になっているのかも知れなかった。峰ノ辻経由で山頂を往復してきた人たちが途中で何人かが下山してきた。

雪道の歩きにも慣れ、背中に少し汗が滲む頃になるとようやく前方に今宵の宿、くろがね小屋が見えてくる。小屋ではすでに大勢の人たちがストーブを囲んでいた。中にはもう宴会を始めている人たちもいる。宿泊の受付を済ませ、管理人の佐藤さんから小屋の状況を聞くと、今日は50人ほどの予約であまり混んでいないが、次の週末からはすでに80名以上の予約が入っているとのことである。

我々の部屋は2階の12号室の大部屋である。ザックを下ろすとさっそく風呂に飛び込んだ。事前の情報で知ってはいたものの、小屋の風呂が改装されていて新しくなっていた。先月の20日頃に完成したばかりの真新しい風呂で、浴室に入ると桧の香りが漂った。新しい湯船に身を沈めて乳白色のお湯に浸っていると、山の疲れや寒さなど忘れるようである。冬の山小屋で温泉に入ることのできる幸せをしみじみと味わった。

風呂から上がると、キムチ鍋やステーキなどを作りながら早めの夕食が始まった。めずらしく豪華な夕食に、持参したお酒も足りなくなって売店から購入しなければならないほどだった。夕食後はすっかり酔いもまわり、ストーブを囲みながら就寝までのひとときの団らんを楽しむ。最初は管理人の佐藤さんや宿泊者がケーナを吹き始め、その演奏をしばらく聴いていた。その後は誰からともなく歌が飛び出すと食堂はにわか歌声喫茶と変わり、ついにはダンスを踊りだす人も出るほど盛り上がった(もっとも男同士だったが)。

くろがね小屋の消灯は9時である。私は寝る前にもう一度温泉に入り冷えた体を温めた。外では雪が降り続いている様子だったが、温泉のおかげでその夜は2枚の毛布だけでも十分暖かすぎるほどだった。


安達太良山高原スキー場の駐車場で[2001.12.8]



くろがね小屋がもう間近



最近新しくなったばかりの温泉
乳白色のお湯は疲れや寒さを忘れさせてくれる




食堂での風景(1)
キムチ鍋にステーキと、豪華な夕食に持参したお酒も足りなくなった



食堂での風景(2)
夕食後、ストーブの周りでは歌声喫茶に
盛り上がりダンスまで飛び出した


翌日は西高東低の冬型の気圧配置のために朝から風雪模様だった。のんびりと朝食を作りながら、今日は山頂を踏むのは無理かもしれないな、と漠然と考えていた。食後の一服では伊藤さんから甘酒をごちそうになる。この甘酒が何となくお正月が近いことを感じさせた。早めに小屋の食事を終えた人達は、見ているとほとんどスキー場に下っていった。

朝の外気温は氷点下5度だった。厳冬期には氷点下10度以下まで下がるので今日は割合に暖かいほうだろう。くろがね小屋から山頂までは風が強いこともあり、雪面はガリガリに凍るのでアイゼンは必携である。今日は降雪があったばかりで雪は柔らかいのだが、スリップ防止のためにアイゼンを途中から装着した。装着する間も冷たい風が吹き付けた。一度手袋をはずすとかじかんだ手はなかなか温まらず、指先はしばらく感覚がなくなっていた。

視界はやっと10m先が見えるくらいしかない。おまけに風がめっぽう強いので牛ノ背や馬ノ背は強烈な風が吹いているかも知れなかった。前後して小屋を出た4人組が我々の先を歩いていたのだが、アイゼンを装着しているうちにその踏み跡はほとんど消えてしまっていた。登るに従って風雪は厳しくなるばかりである。烏川の対岸を見ると峰ノ辻から勢至平に向かう登山者が見えた。山頂を踏んできたにしては早すぎるので、峰ノ辻から引き返したらしかった。

私たちは悪天の中を歩きながらもようやく峰ノ辻に到着した。吹き荒れる風のために、歩いてきたばかりの我々の踏み跡はもう分からなくなっている。私達はここで様子を見ながら、とりあえずツェルトを張って休憩をすることにした。峰ノ辻も一つのピークのような場所なので風は一段と強い。広げたツェルトは強風に吹き飛ばされそうなほどだったが、いったんツェルトの中に入ってしまうと別世界だった。落ちついたところでザックから温かい飲み物を出し、みんなで回し飲みをした。薄い布きれ一枚でもあると無いのとでは天国と地獄ほどの差があるのだ。

ツェルトの中で晴れるのを期待して待ってみたものの、風雪はますます激しさを増すばかりで、予定通りここから下ることにした。悪天候のため最初は下る方向さえわからず、時折ルートも見失いがちになるほどだ。しかし峰ノ辻コースをしばらく下ると、だんだんガスから抜け出し視界がはっきりしてきた。

あと20分も下ればあだたら高原スキー場駐車場という付近で最後の休憩をしていると、下界の好天に誘われたのか、次々と日帰りらしい登山者が登ってくる。また、峰ノ辻から山頂を目指していた4人組が、結局山頂までは行くことができずに早くも下りてきたところだった。どうやら牛ノ背の稜線は立って進めないほどの猛烈な風が吹いているらしかった。

今回は安達太良山の山頂は踏めなかったけれど、冬山の厳しさを少しだけ触れることができた2日間だったようである。たいした山でなくとも、ピークを踏むことが冬山では容易ではないことをあらためて感じた山行でもあった。私達は先ほどまでの悪天候が信じられないほどの温かい陽射しを浴びながら、雪の上の休憩をしばらく楽しんでいた。あとは下山後の岳温泉を楽しみに下るだけである。



くろがね小屋を出発する[2001.12.9]
(左から清水、渡辺、伊藤、東海林の各氏の勇姿)




風雪の峰ノ辻で[2001.12.9]
ツェルトを張り晴れるのを期待して休憩していたが
風雪はますます激しさを増すばかりで、ここから下ることにした




峰ノ辻コースを下る[2001.12.9]
この辺りはまだ風雪が厳しく、ルートも見失いがちになる


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