山 行 記 録

【平成13年11月23日(金)〜24日(土)/朝日連峰 古寺鉱泉から大朝日岳】



大朝日岳と避難小屋
銀玉水から小朝日に下る途中で
[2001.11.24]



【メンバー】単独
【山行形態】冬山装備、避難小屋泊
【山域】朝日連峰
【山名と標高】古寺山1,501m、小朝日岳1647m、大朝日岳1870.3mm
【天候】(23日)曇りのち風雪(24日)晴れ
【温泉】西川町「水沢温泉館」(200円)
【行程と参考コースタイム】
(23日)古寺鉱泉850〜古寺山1115〜小朝日岳1215〜大朝日小屋1420(泊)
(24日)大朝日小屋発950〜小朝日岳1130〜古寺鉱泉1330

【概要】
3週間前に続いて、今月2度目の朝日連峰である。前回は初冠雪を抱いたばかりの初冬の山だったが、暦はすでに11月下旬。あれから積雪はかなり増しているはずで、朝日連峰は完全な冬山に変わっていることだろう。この時期になると、小朝日岳でさえ日帰りする人はまれで、大朝日岳までとなると登山者はほとんどいなくなる。人のいない静かな山を楽しめると思う反面、一方では不安と緊張感が少しつきまとう時期でもある。

(1日目)
国道112号線を古寺鉱泉に向かっていると、寒河江ダム付近から小雨が降り始めてきた。気分は重くなるばかりだが、天気予報によれば午後からは快復するだろうとのこと。明日は高気圧に覆われる予報もでている。幸いに古寺鉱泉の駐車場に着いたときは曇り空ながらも雨は降っていなかった。

付近の雑木林はすべて葉を落ち尽くしており、とっくに登山シーズンを終えた古寺鉱泉はこれからの長く厳しい冬を待つのみで、ひっそりとして寂しい雰囲気が漂っていた。今日の小屋泊まりはせいぜい一人か二人だろうと考えていたら、宮城からの男女の二人連れと、やはり宮城の学生の6人グループが先に登っていった。学生達の大きいザックはスコップやピッケル、ワカン、銀マットなど結構重装備で、古寺鉱泉裏の急坂を重そうな足どりで登っている。私は尾根に上がるところでその人達を追い抜いた。

雪は一服清水あたりからちらほらと目立ち始め、ハナヌキ峰分岐を過ぎる頃からだんだんと積雪が増した。雪道を良く見ると2人分の新しい踏跡が続いている。古寺山が近づくにつれて上空は黒い雲に覆われ始めていた。天候は良くなるどころかますます悪くなる気配である。積雪は膝が隠れる程度はあるのでだいたい40cmぐらいだろうか。坪足の登りはかなり足にこたえ、古寺山にはいつになく疲れて到着した。山頂からの展望はあまりよくない。正面の小朝日岳は何とか見えるものの、右奥に聳える大朝日岳の主稜線はガスに隠れて見えなかった。この頃から冷たい風と共に雨も降り始めた。

古寺山を下り始めると前方から登山者が一人戻ってきた。聞いてみると、積雪が多くて小朝日岳までもゆけず、天候も悪くなってきたことからずっと手前で引き返してきたという。先を歩いていたもう一人は途中からワカンを装着したらしかった。その後も雨は止みそうもなく、小朝日岳との鞍部付近からは雨具を着た。途中からワカン氏のトレースを踏みながら進む。しかしワカンの踏跡があるからといって決して楽なわけではなく、無いより増しといった程度のものである。薄氷を踏むようにそろりそろりと歩くのだが、坪足の私はむなしくもズボズボと膝まで潜った。ワカンはそれだけ効果があるということで、私はワカンを持ってこなかったことを後悔した。

小朝日岳まで登るとすでに雨は横殴りの風雪へと変わり始めていた。山頂には雪もかなり積もっている。当然大朝日岳まで続いているだろうと期待していたワカンの踏跡は、山頂からは左折して鳥原山へと下っていた。急遽、鳥原小屋にエスケープしたのかも知れなかった。もちろんほかには踏跡はないので大朝日岳へ向かっている人は誰もいない。これから先は一人でラッセルを覚悟しなければならいと考えると少し心細くなった。天気予報とは裏腹に天候はますます悪化の兆しを見せていた。ホワイトアウトになるまえに少しでも先に進まなければならない。行動食だけあわただしく口に放り込み大朝日岳に向かうことにした。熊越までの急斜面はさすがに積雪量が増した。

熊越から稜線までも予想以上の積雪に足をとられる。筋肉が痙攣しそうになり何度も足を休めなければならなかった。風雪はだんだん厳しくなっている。前回もそうだったが、予想とは全く正反対の天候になっていた。視界は10m前後しかなかった。これだから山の天候は当てにならないのだ。とりあえず銀玉水までゆけばなんとかなるだろう、そんな気持ちで自分を奮い立たせる。雪はビシビシと頬に当たって痛いほどだが、目出帽をザックから出すのが億劫で、顔を風から背けるようにして登った。周囲はほとんどみえないものの、それでも尾根道は割合はっきりしているのでとにかく上へ上へと目指す。岩場を登り詰めるとようやく銀玉水だった。重い雪のために足に対する抵抗感は予想以上に大きく、両足の太股はつりそうになっていた。

銀玉水の目の前には最後の急斜面が立ちはだかるかのように続いているのだが、今は風雪のためにほとんど見えない。この急斜面は固い雪面のため、登山靴があまり潜らないので意外と登りやすかった。それだけ風が強いということだろう。またこの付近は広い急斜面のためにガスられると方角がわかりずらくなるところで、登りだからいいようなものの、下りでは左右どちらかの沢に誤って下る危険があるから要注意箇所である。稜線に飛び出すとますます風が強まった。さらに登ると見覚えのある岩場を通過。ほとんど周りは見えなかったが、ここまでくれば大朝日小屋ももうまもなくだ。それでも直前まで近づかないと小屋はわからなかった。

大朝日小屋の入口は雪で少し埋まっていた。それは最近登って来た人は誰もいないことを示していた。ドアは凍り付いているのかと心配したが押してみると難なく開いた。もちろん中には誰もいなく、小屋は冷え冷えとしていた。私は前回と同様、2階にザックを下ろした。シュラフを出し寝床を確保したところで、早速雪を溶かして水を作る。それから遅い昼食を食べ、食後はコーヒーにウイスキーを入れた。冷えた体を温めるとようやく気持ちが落ちついてきた。その後はシュラフに潜り文庫本を読む。疲れた体にアルコールも入って、シュラフの温もりに体もだんだんと温まってきたのか、いつのまにかうとうとと眠ってしまった。

だいぶ経ってから、頭上からの物音で目が覚めた。それは3階部分の冬期入口から人が入ってきた音だった。入口のドアが凍り付いて開かないのでハシゴを登ってきたようだ。入ってきたのは古寺鉱泉で出会った男女の二人連れであった。時計を見るともう4時半を過ぎている。外は相変わらず吹雪模様が続いていて、すでに薄暗くなっている。私は悪天候の中をこんな時刻に誰か来るとは思っても見なかったので驚いてしまった。学生パーティの様子も聞いてみると、彼らは古寺山付近でもかなりばてている人がいて、その時の様子では途中でビバークしたかもしれないということだった。

夕食時、その二人からは一人でラッセルしてくれたお礼にと、鍋物を一皿頂いた。なんとそれはアンコウ鍋である。寒い冬山にはもったいないほどの料理で、私は遠慮無くご馳走になることにした。それを機会に3人でしばらく酒を一緒に楽しむ。その夜、猛り狂ったような風の音は鳴りやまず、一晩中小屋を揺るがした。


大朝日避難小屋
入口は雪で埋まっている
[2001.11.23]


(2日目)
翌朝になっても風雪はやまなかった。視界もほとんどない。天気予報によると庄内地方は午後からは晴れそうなので、天候が回復するまでしばらく待ってみることにした。しかし明日には東北地方に強い寒気が入ってくるというから、昼まで待っても悪天候が治まらない時は無理してでも下山するしかなさそうである。宮城の二人も同じ考えの様子で、ゆっくりと遅い朝食を作っている。私は朝食後、しばらく文庫本を読んで時間をつぶしていた。

9時半を過ぎた頃、小屋の入口付近が急に騒々しくなった。急いで階下に下りてみると、昨日の学生パーティ6人組が目出帽を被りながら、どやどやと小屋の中に入ってきたところだった。まだ外は悪天候が続いているので、よく登ってきたものだなあと感心する。6人は昨夜、古寺山と小朝日岳の鞍部に幕営したらしかった。

皮肉なことに彼らが小屋に到着した頃からガスが晴れだしてきた。瞬く間にガスが晴れてゆく光景は、ちょうど映画のワンシーンをみているようで感動的であった。窓の外を見ると中岳が真っ白い山肌を現し、雲の切れ間からは眩しいほどの陽射しが降り注いでいる。そして今までの薄暗かった小屋の中は一瞬にして明るくなった。天候の快復はもう間違いない状況である。私はザックをまとめ小屋の外に出た。すでに大朝日岳の山頂を踏んできた6人組は、はやくも下山を始めるところだった。今日はまた幕営地まで戻って一泊するのだという。私も晴れ渡った朝日連峰の写真を楽しみに下ることにして、大朝日小屋を後にした。昨日は写真を撮る状況ではなかったので、その反動もあり、立ち止まっては周囲の山々を眺めながら手当たり次第にシャッターを切った。

銀玉水の急斜面から見下ろすと新たな登山者が登ってくるところだった。その人達は昨日の悪天候で鳥原小屋に宿泊した人達である。いつのまにか空には雲がほとんど無くなり、いつにも増して真っ青な空が一面に広がっていた。つい先ほどまでの悪天候が信じられないほどの快晴状態になっている。昨日のあの風雪による悪天候と、今日のこの雲ひとつ無い好天とは紙一重なのだ。まさに冬山の恐さと魅力を一度に味わったようなもので、心はすでに十分満たされている。しかしこの朝日連峰の展望も今日は今年の見納めなのだと思うと、簡単には去りがたくなっていた。




大朝日岳を往復し幕営地に戻る学生パーティ
10時近くになり、ようやくガスが晴れだした頃
(小屋の入口から撮影)
[2001.11.24]



銀玉水から急斜面を登ってくる登山者達
[2001.11.24]



銀玉水の急斜面を登る
この人達は鳥原小屋を早朝発ってきた
ここまで登れば避難小屋も近い
[2001.11.24]



左から大朝日岳、中岳、西朝日岳
[2001.11.24]


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