山 行 記 録

【平成13年11月4日(日)〜5日(月)/朝日連峰 古寺鉱泉から大朝日岳】



祝瓶山と飯豊連峰(中岳付近から)[2001.11.5]



【メンバー】単独
【山行形態】冬山装備、避難小屋泊
【山域】朝日連峰
【山名と標高】古寺山1,501m、小朝日岳1647m、大朝日岳1870.3mm
【天候】(4日)曇り後雪(5日)晴れ
【温泉】西川町「水沢温泉館」(200円)
【行程と参考コースタイム】
(4日)古寺鉱泉840〜古寺山1050〜小朝日岳1125〜大朝日小屋1300(泊)
(5日)(起床後、山頂と中岳を往復)大朝日小屋発820〜小朝日岳930〜古寺鉱泉1130

【概要】
古寺鉱泉から登ったのが昨年の11月だからちょうど1年ぶりになる。ここは大朝日岳までは短時間で登れるので、この時期の朝日のコースとして定着した感じだ。今日の天気予報によれば午前中は雨、午後からは高気圧に覆われて晴れる予想である。しかし現実には全く正反対となった。つまり昼前までは何とか雨も降らずに天候が持っていたものの、大朝日小屋に着く頃から風雪状態となり、それは夜になってますます大荒れの天候と変わって一晩中吹雪が止まなかったのである。山の天候は当てにならないという見本のような一日だった。

今冬一番の寒気が入り込んでおり、山岳部は雪が予想されるというので、今回は久しぶりに冬用シュラフなど冬山装備をザックに詰め込んで出発した。肩にずしっとくる重さだ。古寺鉱泉駐車場には登山者の車らしいのが3台ほどで意外と少ない。やはりこの週末の天候の悪さのためだろうか。古寺鉱泉の登山者名簿に記入を済ませ、すっかり葉を落としたブナの樹林帯を登る。所々に色鮮やかなカエデなどがぽつんと残っているものの、ほとんどの樹木は葉を落としており、紅葉の時期は既に終わりを告げていた。尾根に上がると、普段は見えない以東岳が右手にちらちらとのぞく。その以東岳は冠雪して真っ白だった。見上げると、時々青空が顔をのぞかせたりするものの西側には黒々とした雲が大きく上空を覆っていた。ハナヌキ峰分岐ではテントが一張り幕営中だった。このコース上でテントをみるのは初めてである。中からは人の話し声が聞こえた。昨日の悪天候で幕営を余儀なくされたのだろうか。まもなくして高度が1200mを過ぎる頃から雪が現れるようになった。それでもこの辺では積雪というほどではなく、うっすらと潅木に雪が降り懸かっている程度である。

古寺山への急坂を登っている途中、昨夜は大朝日の小屋泊りだったという登山者が二人下ってきた。管理人を含めて8名の泊まりだったというから、小屋もこの時期にすれば結構賑わったことだろう。三沢清水付近で休んでいると、今度は管理人が二人そろって下りてきた。二人とも冬山装備に身を固めている。私の様子を見て「これから登って行くのか?たぶん小屋は一人きりだぞ」と呆れ顔をされた。昨日から今日にかけてそれほど天候が良くなかったためだろう。みんななんとなく表情が冴えなかった。

小朝日岳山頂は積雪というほどではないが、一面雪に覆われていた。曇り空ということもあって、山頂は薄ら寒く荒涼とした雰囲気だ。見渡せば朝日連峰の峰峰はほとんど冠雪して真っ白である。山はもうすっかり冬の世界に包まれていた。ここでは朝日連峰の主稜線がほとんど見渡せるのだが、大朝日岳の山頂付近や避難小屋は雲に隠れて見えない。暗雲が垂れ込めている感じである。昨日の登山者達はみんな下ったらしく、ここからは誰にも会わなかった。銀玉水は幸い雪に埋もれてはいなかったが、凍結する寸前で水量はかなり細くなっていた。もう1週間もすればこの水場は当てにならないかもしれない。私は時間をかけて銀玉水の水を汲んだ。全部で2.5リットル。ザックがますます重くなった。

銀玉水の急坂からは積雪が少しずつ増した。吹き溜まりでは10〜20cmぐらいか。稜線から吹き下ろしてくる風はだんだん強くなってくる。小屋が見える地点まで登り切ると、そこは吹き晒しの稜線。膚を突き刺すような冷たい風がビシビシと全身に当たってきた。強風に乗って雪も舞い始め、それは見る間に風雪という様相を呈し、小屋が目の前なのにほとんど見えなくなっていた。

小屋には当然だが誰もいなかった。防寒着を着ても寒くて震えがとまらない。まるで冷凍庫の中に入ったような寒さである。冬用の下着も着ているのだがまだまだ本格的な寒さには体が慣れていないのかも知れなかった。小屋の毛布の上にシュラフを広げ、今夜の寝床をこしらえる。それからお湯を沸かして暖をとった。晴れていれば山頂を往復するつもりだったのだが、この分では無理だなあとあきらめて、遅い昼食の準備を始めた。荒れ模様は少しも治まる気配がなく視界はほとんどなくなっていた。

食後は熱いコーヒーをいっぱい作り、シュラフに潜り込んだ。夕食まではまだだいぶ時間があるので、コーヒーを飲みながら暗くなるまで文庫本を読んで過ごす。手は寒さに感覚がなくなるほどで、フリースの手袋をしながら読まなければならなかった。暗くなったところでローソクに火を灯す。そのローソクの優しい灯りを見つめていると、不安感が少し薄れ気がまぎれた。それから熱いホットウィスキーを呑みながら夕食の準備に取りかかった。

翌日、寒さを我慢しながらシュラフから抜けだすと、窓の外は青白く輝いている。それは日の出を前にして、新雪の山々が異様に青白く浮かび上がっているのだった。蔵王連峰付近はうっすらと空が赤く染まっている。もうすぐご来光を迎えるところだった。私は急いで準備をして山頂に登ってみることにした。晴れてはいるが風はかなり強いので、完全武装して出かけた。山頂までの登山道は深くえぐられているためか、雪が吹き溜まりとなっている。その新雪には小さな動物達の足跡が続いていた。カモシカか野ウサギだろうか。動物達も登山道を忠実にたどっているのがなんとなく可笑しい。周囲の色合いが、刻一刻と変化をしてゆくのが美しく、時々立ち止まってはカメラのシャッターを押した。

山頂からのご来光にはなんとか間に合った。冬山で迎える朝の光はいつにも増して神々しい感じだ。昨日の午後からの悪天候が嘘のように今は晴れ渡っていた。山形市や寒河江市、米沢市、そして小国町などの平野部はみな雲海の下に隠れている。祝瓶山の奥に鎮座する飯豊連峰は朝日連峰と同じく新雪に輝いていた。この冠雪直後の山々の美しさはちょっと言葉にはできない気がする。それは残雪期や紅葉の山とはまた全然違った山の別の魅力である。朝日が昇るにつれて西朝日岳や袖朝日岳、そして中岳の山肌が徐々にオレンジ色に輝きだしていた。私は神聖な儀式とも言えるようなこの朝のドラマをしばらく眺めていた。

昨夜は飲み過ぎたのか食べ過ぎたのかほとんど腹が空いていない。こんな天候に恵まれるのもめったにないので、小屋に戻ってから、久しぶりに中岳まで往復してみることにした。しかし快晴の空が広がると思われたものの、中岳から小屋に戻る頃には薄雲が広がりだし、まだまだ不安定な空を感じさせた。

山小屋で遅い朝食をとった後、ゆっくりと後かたづけを済ませてから小屋を出た。薄雲に日射しが遮られてからは、なかなか青空が見えなかったが、小朝日岳を登り返す頃には気温もだいぶ上がりはじめて、背中からはうっすらと汗が滲みだしていた。今回はまだ本格的な雪山にはほど遠かったものの、久しぶりに厳しい冬山の一端に触れたせいか、気分はいつにもなく昂揚としている。私は雪がもう少し降り積もった頃、また同じコースを来てみようと考えながら誰もいない小朝日岳を後にした。



晩秋の古寺鉱泉
[2001.11.4]


小朝日岳山頂
[2001.11.4 AM11:25]


熊越付近から小朝日岳を振り返る
一時、青空も見えた時
[2001.11.4 AM11:58]


大朝日岳(銀玉水手前)
[2001.11.4 PM12:19]


日の出直前の大朝日岳から
奥は初冠雪した月山
[2001.11.5 AM5:55]



ナカツル尾根とご来光(大朝日岳山頂から)
[2001.11.5 AM6:06]


大朝日岳山頂
[2001.11.5 AM6:13]


祝瓶山と飯豊連峰(大朝日岳山頂から)
[2001.11.5 AM6:16]


中岳付近から見る大朝日岳
[2001.11.5 AM6:40]


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