山 行 記 録

【平成13年10月27日(土)/武尊牧場から武尊山】



武尊山山頂から中ノ岳



【メンバー】単独
【山行形態】夏山装備、日帰り
【山域】尾瀬周辺
【山名と標高】武尊山 2,158m
【天候】晴れ
【温泉】群馬県片品村 花咲温泉「しんめいの湯」500円
【行程と参考コースタイム】
武尊田代ケ原(東俣)駐車場850〜避難小屋950〜中ノ岳(分岐)1100〜武尊山1120〜(途中昼食休憩)〜武尊田代ケ原駐車場1410

【概要】
今日の予定は本来は皇海山に登るはずであった。ところが登山口に至る林道の入口で、全面通行止めの看板が何枚も立ててあって先には進めなくなっていた。携帯電話で利根村役場に問い合わせてみると、先月の台風による大雨のため、この先の林道で土砂崩れがあって、それ以来通れなくなっているとのことだった。そんなことから今回予定していた皇海山はあきらめて、急遽近くの武尊山に登ることにしたものである。今日は昨日の男体山とは違ってまさに秋晴れの天候が朝から広がっている。見上げる空には雲一つなかった。また武尊牧場に向かう周辺の山々は紅葉が盛りで、錦絵を思わせるような鮮やかさには、ただただ目を見張るばかりだった。

武尊牧場コースにはスキー場からリフトを利用して登るものと、スキー場へ向かう林道の手前から右の東俣沢沿いを遡り、その先の東俣駐車場から登るコースの二つがある。私はリフトなどの人工物のないと思われる東俣コースを登ることにした。東俣駐車場の標高はおよそ1370mほど。ガイドブックに紹介されている武尊山の西側から登る武尊神社コースに比べれば、こちらの登山道は割合なだからかで少し楽なコースのようである。ただなだらかな分だけ距離は8kmと結構長い。時間が少し遅かったこともあって広い駐車場には既に多くの車が留めてあった。登山口のすぐそばにはログハウスづくりの休憩施設兼トイレもある。登り始めるとしばらくなだらかな道が続いた。ほとんど葉を落ち尽くしたブナや白樺が林立する林の中を歩いて行くと、やがて武尊避難小屋に着く。ここは高山平と呼ばれる所らしかった。ここからは道もだんだんと勾配がきつくなった。そして付近の樹木もブナにかわってオオシラビソの木が多くなった。歩いているとオオシラビソ特有の香りがぷんぷんと匂ってくる。また霜柱が融けだしたのか、足元にはぬかるみが目立つようになり、また木の根っこが縦横にはびこっているので少し歩きづらかった。

だんだんと樹林帯から離れて見通しがきくようになると前方に大きな山が迫ってきた。どうやら中ノ岳のようである。見上げると急な斜面をへつるようにして何人か登っているのが見えた。手前にはクサリ場もあるので通過するのに時間がかかっているのかもしれなかった。そのクサリ場はそれほど急ではないものの、凍った地表が融けだし、岩が泥だらけになっていてちょっと滑りやすくなっているので慎重に登った。登り切るともうあたりは高山帯で、気持ちの良い稜線歩きとなった。右手には中ノ岳のピークがあり、左斜面をトラバースしながら進むとやがて前武尊との分岐に出た。右に進めば武尊山山頂である。笹とハイマツの多い道はいったん下るように続いていた。途中、「笹清水」と表示のある水場がある。飲んでみるととても冷たく美味しい水だった。このあたりから山頂から下ってくる人も目立ち始め、前方の武尊山の斜面には山頂を目指しているたくさんの登山者が見えた。山頂の直下には左へと下る道があり、それは剣ガ峰山に続く登山道のようであった。

ほどなく祠や石碑の立つ武尊山の最高峰、沖武尊の山頂に到着した。山頂は驚くほどたくさんの人達で賑わっていた。ほとんどザックを下ろせる場所もないという状況で、まさに芋の子を洗うような混雑さである。狭い山頂ではお互いに写真を取り合ったり、腰を下ろして昼食をしている人などでごったがえしており、とても休める状況ではない。方位盤もあるので山の同定などゆっくりと楽しみたかったのだが、次々と押し寄せる登山者には閉口するばかりで、少し写真を撮っただけでそそくさと山頂を後にした。

前武尊の分岐から少し下った地点でザックを下ろし休憩をすることにした。お湯を沸かしていると山頂から下ってきた登山者が大勢目の前を通り過ぎて行く。登山者は結構切れ目なく続く。どうやら30名に近い団体のようだ。その一団も通り過ぎるとようやく静けさが戻ってきた。先ほどから遠方の稜線に聳えるすこしいびつな感じのする山が気になっていた。地図で確認すると今日登るはずだった皇海山である。ここは武尊山山頂のような360度の展望はないが、こんな場所からもこの皇海山や前武尊などが正面に眺められ、それはそれでなかなか見飽きない風景だった。ここは風もなく柔らかい陽射しが降り注いでいる。小春日和を思わせる穏やかさに思わず眠ってしまいそうになった。

クサリ場まで来てみると先ほどの団体はまだ岩場の上にいた。やれやれ、だから団体のツアーなど山にはきてほしくないのだと、うんざりしながら上で待っていると「ああっ」という突然の男の声。そして鈍い音と同時に「あぶない!」と女の人の叫び声に周りは一時騒然となった。どうやら途中で一人、滑落したようである。しかし滑落したひとは「足を少し捻ったようだが大丈夫だ」と軽傷の様子である。どうやらその登山者はクサリに頼らずに下ろうとして滑ったらしかった。

そんなアクシデントもあったが、クサリ場を過ぎ、その団体を追い越して先に進むとまた静かな山道に戻った。そして避難小屋も通り過ぎるとブナ林の道が先へと続いていた。その広い道には落ち葉が幾重にも降り積もり、まるでふかふかの絨毯を歩いているような心地よさがある。見上げれば澄み切った青空に、葉を落としたブナの梢が白く輝いていて、そのコントラストが実に鮮やかで美しい。登山道には午後の陽射しが惜しげもなく降り注ぎ、秋の気配は朝方よりもずっと深まっている感じだ。私はこの優しい木漏れ日の中の山道を、それこそ慈しむように惜しみながら下っていった。


武尊牧場スキー場からはなだらかな山道に入る



武尊山山頂が間近



武尊山山頂から燧ヶ岳と至仏山(左)


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