山 行 記 録

【平成13年10月21日(日)/越後山脈 霧来沢から御神楽岳】



紅葉に彩られた「熊打ち場」のクサリ場を見下ろす



【メンバー】単独
【山行形態】夏山装備、日帰り
【山域】越後山脈
【山名と標高】本名御神楽(ほんなみかぐら)1,266m、御神楽岳(みかぐらだけ)1,386m
【天候】晴れ
【温泉】福島県金山町 湯倉温泉「鶴亀荘」500円
【行程と参考コースタイム】
自宅500=霧来沢駐車場745(自宅から126 km)
霧来沢橋800〜杉山ケ崎940〜避難小屋1020〜本名御神楽1030〜1100御神楽岳1140〜1210本名御神楽1245〜霧来沢橋1445

【概要】
会越国境の名峰として名高い御神楽岳はその山頂付近に急峻なスラブが形成されていることから別名「会越の谷川岳」ともいわれている山である。戦後、まだ一般登山道が開かれる前に、東京や地元の山岳会によってここの岩場にいくつかのバリエーションルートが切り開かれたという。いつかは訪れたい山だったが、その前衛峰である本名御神楽までは4時間ほど要するとあり、その先の御神楽岳まではさらに1時間が必要というので、体調が良いときに登りたいものだと考えていた。なお本名御神楽は福島県、御神楽岳は新潟県の山である。

霧来沢橋手前の駐車場はすでに多くのマイカーで塞がっていた。幸いに1台分のスペースをみつけて駐車する。早速準備を終えて林道を歩きはじめると、なんと狭い路上にはマイクロバスと中型バスが駐車中である。これにはさすがに唖然としてしまった。1台は春日部ナンバーでもう1台は大宮ナンバーである。2台あわせるとこのバスだけで登山者はおよそ50名〜60名にもなるのだろうか。今日は随分多くの人が登っているものだとあらためて驚くばかりである。林道の途中にも4〜5台ずつ留められそうな駐車スペースが何カ所かあったが、どこも満車である。この御神楽岳の人気の程が伺えるようだった。

約10分の林道歩きで、大きな看板と登山計画書を投函するポストのある御神楽岳の登山口に着いた。そこからは霧来沢沿いの平坦な登山道をしばらく進む。杉の植林地が続き、やがて若いブナ林に変わっていった。この辺りの標高は約460mほど。ようやく黄色く色づき始めたブナ林には、朝の陽射しが差し込んでいてキラキラと輝いている。途中、八乙女ノ滝を高巻く。太いクサリが設置されているところでここは慎重に下らなければならなかった。その先も岩場をへつりながら進むので、濡れているときなどは少し危険な場所でもある。鞍掛沢の浅瀬を渡渉すると道はだんだん沢から遠ざかり、次第に登りにさしかかった。

尾根の取り付きからは胸突き八丁とも思える急登が続いた。ここは杉山ケ崎尾根といわれる所で、久しぶりに顔や背中から汗がほとばしる。たちまち汗だくになったものの、尾根を渡ってくる風は涼しくて心地よいばかりだ。登山道の両側にはブナの大木が目立ち、落ち葉が絶え間なく風に舞っていた。やがて杉山ケ崎の標識が立つピークに着いた。ここからは割合に平坦な道が続き、徐々に高度を上げてゆくようだ。登るにしたがって周辺の紅葉はだんだんと色鮮やかさを増し、熊打ち場付近までくると赤く色づいた潅木で一色となった。熊打ち場からはクサリ場の大きな岩場が前方に立ち塞がっていた。見上げると登山者が4人、ちょうど上から一人ずつクサリに頼りながら下りてくるところである。ほとんど垂直に近い岩場のためにすれ違うのは不可能で、全員が下りてくるまで下で待たなければならなかった。

そこからはほどなく本名御神楽の避難小屋に到着した。小屋では4・5人が休憩している。ここまでくれば本名御神楽の山頂はもうまもなくで、私は行動食を少し腹に納めてから山頂に向かった。身も心も真っ赤に染まってしまうのではないかと思えた紅葉も、小屋から上ではほとんど目立たなくなった。背丈ほどの高さの潅木はすでに葉を落として褐色にくすんでいた。本名御神楽までの緩やかな道をたどると、ようやく左手に御神楽岳が見えてくる。それは途中の鞍部をはさんで一段と高く左手に聳えていた。狭い山頂ではバスで来たと思われる団体がちょうど休憩を始めたところで、とても他に休憩できるスペースがない。私はそのまま御神楽岳に向かうことにした。

本名御神楽の山頂を下りると少しヤブ道になった。伸び放題の笹が道をふさぎ、足元をよく見ないと狭い登山道から踏み外しかねないので慎重に歩いた。ガイドブックによれば御神楽岳の山頂までは1時間となっていたが、思ったほどの距離はなく約30分しかかからなかった。御神楽岳山頂はヤセ尾根の稜線上の一角にあった。右手の急峻なスラブの迫力がすごい。地図をみるとそれは水晶尾根とあり、広谷川にそのまま落ちているようだ。御神楽岳の山頂もまた本名御神楽と同じくらいの広さしかなく、その狭い山頂はすでに大勢の登山者でいっぱいだった。とても休める場所がなさそうだったが、山頂の端の方でなんとか腰をおろせる場所を探して昼食にすることにした。この山頂からの見晴らしはまさに360度の展望が広がっていた。東側を見れば吾妻連峰や磐梯山が聳えており、北には飯豊連峰の山塊が大きい。また振り返れば日光や尾瀬の山々、そして越後の名山までほとんどを見渡すことができた。

食事をしながら見るともなく眺めていると、新潟側から大勢の登山者が登ってくるのが見えた。それはやはり団体の登山者らしく、40〜50人ほども列をなして登ってくるところだった。ただでさえ混み合う山頂に、あんなに大勢押し寄せてきたらと考えると恐ろしくなり、私は食事もそこそこに済ませ、本名御神楽まで戻ることにした。

再び訪れた本名御神楽山頂は誰もいなくてシーンと静まり返っていた。幸いに先ほどまで山頂を占領していた団体はすでに下山したようである。ようやく本来の静かな山頂に戻ったようだった。私は再びザックからガスコンロを出してコーヒーを沸かした。空は澄んだ青空が広がり、白い雲は高いところをゆっくりと流れていた。時間が経つにつれて空気がますます透明になってゆく気がした。私はこのまま下ってしまうのがもったいなくて、コーヒーを何回もドリップした。そして秋晴れの柔らかい日差しのもとで山頂からの展望を眺めていると飽きることがなかった。


御神楽岳登山口



霧来沢沿いの登山道



熊打ち場付近から見るスラブの紅葉






避難小屋
本名御神楽まではもう500mだ



御神楽岳山頂から見る水晶尾根
この急峻なスラブ状岩壁は「会越の谷川岳」とも呼ばれている


inserted by FC2 system