山 行 記 録

【平成13年10月20日(土)/泥湯温泉から高松岳】



小安岳分岐付近から見る高松岳



【メンバー】2名(妻)
【山行形態】夏山装備、日帰り
【山域】神室山地
【山名と標高】小安岳1,292m、高松岳1,348m、山伏岳1,315m
【天候】晴れ時々曇り
【温泉】秋田県皆瀬村 「泥湯温泉」500円
【行程と参考コースタイム】
自宅515=泥湯温泉845
泥湯温泉900〜小安岳分岐1100〜1150高松岳避難小屋(昼食)1235〜高松岳往復〜山伏岳1315〜山伏岳登山口1530〜(車道歩き)〜泥湯温泉1610

【概要】
高松岳は栗駒山の西方約15kmに位置する秋田県の南東端の山である。標高は1348mとさほどではないものの、その峻険な尾根と渓谷により標高からは伺い知れないほどのアルペン的な景観を誇っている山である。登山口は泥湯、湯ノ又、そして秋ノ宮温泉郷と、そのいずれも秘湯といわれる温泉場となっているのがうれしい。私達はその中でも要ともいえる泥湯温泉から登ることにした。泥湯温泉を基点にすると、小安岳、高松岳、山伏岳の三山を周回できるようになっている。マイカーの場合はどちらから回るにしても30分ほどの車道歩きは必要で、またガイドブックによれば一周するのに7時間ほどかかりそうである。今回はカミさんにとって、ちょっとハードな縦走コースとなった。

泥湯温泉のすぐ先にある駐車場は意外と広く、新しいトイレも併設されていた。宿泊者のものなのか乗用車が何台も駐車中である。車道はこの先で高松川を対岸に渡ると急な斜面をジグザグに登って行くように続いており、山の向こう側には名所、川原毛地獄がある。山の斜面は今が紅葉の盛りで、まるで錦絵を眺めているような華やかさである。この辺の標高は700m前後で、日に日に高度を下げてきた紅葉はもうすぐ里まで下りて来ようとしていた。

駐車場から少し車道をゆくと小安岳の登山口だった。山道を登り始めると日が当たらなくなり、少し肌寒いほどである。道は山腹を巻くように続いており、ブナが鬱蒼と茂る中の緩急の登りに、気持ちの良い汗が少しずつ背中から流れ出した。初めは紅葉が目立っていた登山道も、高度が上がるに従ってだんだんと葉を落ち尽くした樹林帯になった。やがてコース中最後の水場を過ぎると、道は急に開けてきて見通しがよくなり、稜線に飛び出した。右手には高松岳や山伏岳の大きな山容が見えてくる。山頂には避難小屋も小さく望める。まもなく小安岳への分岐で、山頂へは約10分ほどの距離だが、カミさんはここまでの急登でだいぶ疲れているために、まっすぐ高松岳に向かうことにした。ここからはしばらく起伏のない道が続いた。前方には高松岳が立ちふさがるように聳えている。しかし周りの展望を楽しみながらの歩きは実に快適だった。

登山口から3時間かかってようやく高松岳避難小屋に到着した。予想よりは速いペースだった。高松岳山頂へはここから約300mとあり、私達は昼飯を食べてから往復することにした。小屋では先客が二人昼食中で、少しするとさらに2名小屋に入ってきた。いずれも夫婦者である。一組は岩手の人達でもう一組はなんと横浜からの登山者だった。天気予報に反してそれほど日射しがなかったせいか、冷たいビールと冷めた弁当を食べると、たちまち体が冷えてしまう。食後は熱いお茶を湧かして冷えた体を温めなければならなかった。

食後、ザックを小屋に置いて高松岳に向かった。山頂までははじめカミさんは尻込みをしていたのだが、小屋から5分の距離しかないとわかると行ってみる気になったようだった。実際、小屋からはちょうど5分しかかからなかった。山頂のすぐ手前には虎毛山への縦走路を示す標識が立っていた。標識には虎毛山まで12.9kmとあり、南に続くその稜線を追うと遥か先に虎毛山の大きな山頂が望めた。しかしこの高松岳から道は鋭く切れ落ちており、その急峻な尾根道はかなり難路のようである。見晴らしの良い山頂からは周辺の山々のほとんどを見渡すことができ、特に鳥海山の大きくすっきりした山塊が印象的であった。

高松岳避難小屋から山伏岳へはいったん大きく下らなければならなかった。およそ200m近くも下るのでカミさんは少しうんざり気味の様子である。そのうえ登山道は湿地性のためかぬかるみが多いので滑りやすく、決して歩きやすい道とはいえなかった。上空には薄雲が広がり、時々雲の間から陽射しが差すと穏やかで爽やかな秋の山という風景が広がる。しかしいったん陽が陰ってしまうと、葉を落ち尽くした山肌は寂しいばかりで、一転して晩秋の雰囲気に包まれた。

山伏岳の山頂からは高松岳とはまた違った展望が開けていた。山頂の南西側がすっぱりと切れ落ちており、そのすごい高度感に驚く。そして足元に続いている峻険な稜線は秋ノ宮温泉郷へと続いているようであった。山伏岳の山頂で最後の展望を楽しむと後は泥湯温泉まで下るだけである。緩やかに続いている尾根道はそれほど急坂というわけでもないので、のんびりと下ることができた。潅木帯の歩きやすい道は、高度を下げるに従ってブナの樹林帯に変わり、さらにしばらく下るとやがて車道に出た。そこには山伏岳の登山口を示す標識が立ち、そこから車道を泥湯温泉に向かって歩くと川原毛地獄だった。この川原毛地獄は昔の硫黄鉱山の跡地で、草木が一本もない荒涼とした雰囲気はたしかに地獄ともいえそうな様相を呈している。私達はせっかく来たのだからと、ザックを背負ったままこの川原毛地獄を一周した。辺りはすでに日が暮れようとしていたが、川原毛地獄にはまだ観光客がひっきりなしに訪れていた。

泥湯温泉は今も湯治場の雰囲気を漂わせる、旅館が3軒、民宿が1軒だけのこじんまりとした温泉場である。そのモノクロームの色調に包まれた風景は、訪れる人を思わず郷愁に誘うものがある。下山後に私達も早速泥湯温泉に入り汗を流すことにした。入るまでは当然、赤く濁った温泉を想像していたのだが、それは意外にも白い乳白色のお湯であった。内湯の外には屋根だけで覆われた露天風呂があり、柱にはすでに裸電球が灯されていた。その佇まいはまるで昨年訪れた乳頭温泉郷の黒湯温泉を彷彿とさせた。誰もいない露天風呂に入り、たちのぼる湯気に包まれていると、ここだけ時間が止まってしまったような錯覚にとらわれる。そして、その熱いくらいのお湯に浸っていると今日の疲れはたちまち心地よい疲れに変わっていった。風呂から上がると外はとっぷりと日が暮れていた。旅館の看板には電球が灯され、浴衣姿の宿泊客が入れ替わり立ち替わり、温泉の暖簾を潜っていく。そんな光景を眺めていると、私達もこのまま泥湯温泉に泊まってしまいたい誘惑に駆られてしまった。


高松沢沿いの登山道を登る



高松沢対岸の紅葉
この峰の奥には川原毛地獄がある



小安岳付近から見る高松岳
右奥の山頂には避難小屋が建つ



小安岳分岐を過ぎて、なだらかな稜線を歩く



高松岳山頂
後ろには高松岳避難小屋が見える



車道歩きに疲れた頃、眼下に泥湯温泉が見えてくる


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