山 行 記 録

【平成13年10月7日(日)〜8日(月)/朝日連峰 大井沢〜出谷川〜以東岳〜二ツ石山】



紅葉が盛りの粟畑のピーク(雨量観測所付近)
[2001.10.7]



【メンバー】単独
【山行形態】夏山装備、避難小屋泊
【山域】朝日連峰
【山名と標高】天狗角力取山1,376m、明光山1,242m、以東岳1,771m、二ツ石山1,312m
【天候】(7日)晴れ、(8日)強風&濃霧
【温泉】西川町「水沢温泉館」(200円)
【行程と参考コースタイム】
(7日)自宅450=大井沢(南俣沢出合)630
    南俣沢出合645〜ウツボ峰分岐935〜1055出谷川1115〜明光山1235〜ウツボ峰1400〜
    以東岳1445〜以東小屋1500(泊)

(8日)以東小屋615〜745狐穴小屋800〜高松峰〜二ツ石山940〜湯沢峰1005〜ウツボ峰分岐1100〜
    南俣沢出合1345
【概要】
大井沢から天狗角力取山を経て出谷川に下り、対岸から以東岳へと登るコースは、朝日連峰の地図では唯一点線のルートである。出谷川までは釣り人にはよく利用されているらしいのだが、出谷川から以東岳へ登るルートは登山コースとしてはあまり知られていない。ひとつにはせっかく登り詰めた天狗角力取山から、出谷川の沢底まではいったん700mほども下らなければならず、そこからの以東岳への登り返しが1100mもあるので、体力的にきつすぎるためと思われる。つまり大井沢から天狗角力取山までの登りの850mを加えると、一日で登らなければならない標高差は、実に2000m近くにもなるのである。天狗小屋に前泊する行程ならばそれほどでもないが、一日で以東岳まで登ろうとすると非常に厳しいコースとなる。また大雨の後などの増水によっては出谷川の渡渉が困難になる場合があり、その詳しい情報が得られないために、今までなかなか予定をたてられなかったというのが正直なところだった。そんな折り、1週間前にこのルートを登った人があるという情報をたまたま得ることができて、それではということで私も早速登ってみることにしたものである。折しも今は稜線の紅葉のピークを迎えており、長いコースを歩くのにはもっともふさわしい時期である。

(1日目)
大井沢の南俣沢出合にある駐車場は既に多くの車で満杯だった。今日は全国的にも移動性高気圧に覆われるために朝から青空が広がっている。南俣沢出合付近は河川の工事を行っており、数年前に来たときとは登山口の風景も様変わりしている。バカ平を抜けてブナ林の急坂をしばらく登るとやがて竜ヶ岳が正面に見えてくる。その竜ヶ岳の北面を卷きながら山腹をトラバースすると何カ所かの小沢を渡り、向かい側の尾根に取り付く。見上げると色鮮やかなブナの黄葉が目に飛び込んできた。目の覚めるような青空を背景にして葉の一枚一枚が光り輝いているのである。渡ってくる風も涼しく、汗をかいた体に心地よかった。

気持ちの良い尾根道を登り続けるとやっと樹林帯から開放されて、見晴らしのよい場所に出た。ここは粟畑のピーク手前で、すぐ近くに雨量観測所があるところである。この付近の紅葉はまさに見事としか言い様のない光景が広がっていた。素晴らしい景色に思わず息を呑む思いである。また、すぐ右手には障子ガ岳がすっきりした山容をみせている。山肌にはやはり紅葉した木々が所々に散在していて、すっかり秋の装いに包まれている。ここでは6人ほどのグループが休憩中で、これから天狗小屋を経由し障子ガ岳への日帰りだという。みんな鮮やかな紅葉に見とれているところだった。ここから粟畑のピークを巻きながら進むと正面には天狗小屋が見えた。この小屋は昨年に改築されて新しくなっている。小屋の周りには何人か休んでいるようだった。

天狗角力取山の謂れとなった土俵のような天狗角力取場を過ぎると、ようやくウツボ峰の分岐に到着した。左に続く道は二ツ石山への縦走路で、明日はここを戻ってくる予定である。登り始めてからここまで約3時間かかっている。普通ならばここで半分は目的を達したようなものなのだが、今日の行程はまだまだ遠い。一息入れてから先に進んだ。ここからは出谷川に下るのだが、しばらく平坦な尾根道が続いた。この尾根道は潅木帯の中で見晴らしが良く、紅葉の中の快適な稜線歩きだった。左手には二ツ石山の長い稜線。その奥には日暮沢から竜門に至る稜線。さらに奥には鳥原山、小朝日岳から大朝日岳に連なる稜線が重畳として幾重にも重なっている。そして右手には、障子ガ岳が先ぼどまでの姿とは違って、今度は天を突くようなすっきりとした三角錐を見せている。もちろん正面には以東岳の大山塊だ。ここでは朝日連峰の素晴らしい展望がほしいままであった。

やがて樹林帯に入ると急坂を下るようになった。ウツボ峰の分岐からは誰にも会わないかも知れないと思っていたら、途中で10人ほどのグループが出谷川から登ってくるところに出会った。みんなは釣りの団体らしく、今年1年間、世話になった出谷川周辺の清掃のために昨日から入渓していたとのこと。みると全員ザックは背負っているものの、足は地下足袋スタイルで、山屋とは少し雰囲気が違っている。しかし山屋でもこのコースは敬遠したいほどなのに、いくら出谷川までとはいえ釣り人の根性には感心するばかりである。

沢音が徐々に大きくなり、出谷川の沢底が近づいてくる。近くには焚き火をした跡があって、釣り人はこの付近でテントを設営するようであった。まもなく出谷川に到着した。心配していた水量は今は大したことはないようだった。大きな石を渡って行けそうな場所を探す。それでも2ヶ所ほどジャンプをして石を飛びながら対岸に渡った。2本のストックはこういった場面でも非常に役に立った。出谷川を20メートルほど遡ると右手に赤い布きれの目印があり、そこから明光山に登って行くようだった。このあたりは標識が全然ないので山慣れしていない人だとわかりずらいだろう。登山口を確認したので一安心し、少し休憩をしてから出発することにした。体力はまだまだ必要なので、リンゴとおにぎりを1個ずつ食べる。出谷川は両側を深い断崖が迫る谷底となっていて、人の気配は全くなく、聞こえるのは沢の流れる音だけである。今日は青空が広がり時間もまだ早いので何の心配もないのだが、たった一人だけでは不安にかられてしまうような場所であった。

明光山に向かって登り始めると道は極端に不明瞭になった。草が生い茂っているので、道が続いているようにも見えないのだ。草ヤブを抜けて斜面に取り付くと、そこからはかなりの急登で、胸突き八丁ともいえる急斜面がずっと先まで続いていた。ここは足の置場所がないので踏ん張りが効かないのがつらい。靴が滑らないようにストックの効果を最大限に働かせながら登らなければならなかった。踏跡もかすかにわかる程度で、ここはほとんど歩かれていないコースだとわかる。このきつい登りはしばらく続き、途中では何回か休まなければならなかった。だんだんと尾根の形状がはっきりとしてくると、周辺の見晴らしも効くようになった。明光山までは斜度がきついだけ、ぐいぐいと高度を稼ぐことができた。振り返ると障子ガ岳が再び目の高さまで近づいてきていた。天狗角力取山から出谷川までの失った標高も、徐々に取り戻しつつあるのがうれしかった。

明光山の山頂には三角点はあるものの、樹林で遮られて展望はなかった。しかし、しばらく進むと紅葉した潅木が目立つようになり、付近は高山帯になってきた。正面にはウツボ峰と左奥に続く以東岳への稜線が望めたが、そこまではまだまだ登らなければならず、疲れているだけに気が遠くなりそうだった。左手にはエズラ峰が異様に大きく迫っていた。この場所からの展望は初めてだけに、登るほどに新鮮な感動があった。そこからはひたすら稜線をめざして登り続けた。足はいまにも痙攣しそうなほど疲れていた。

ウツボ峰には午後2時に着いた。ここまでくればもう以東小屋も近い。大鳥池は陽が陰っているせいか湖面の色が鈍く光っていた。三角峰を見れば大鳥小屋からの登山者が続々と登ってくるようだった。私はつらい急登をどうにか登り終えて、心底ホッとしていた。振り返れば紅葉の明光山と手前の草紅葉の草原が美しい。天狗角力取山や障子ガ岳はもうはるか向こうのかなただった。

以東岳山頂では朝日連峰の縦走路を久しぶりに眺めた。縦走路の最奥には大朝日岳が聳えている。大朝日岳には一週間前に登ったばかりなのに、こうしてみると全く別の山に登ったような気分になっているから不思議だ。以東小屋に着くと、早速管理人の藤井さんに受付をしてもらい、私はザックを置いて水場に向かった。ここの水場は少し遠い。しかし朝日の名水の銀玉水にもひけをとらない素晴らしく美味しい清水だ。そして手を切るほどの冷たさで2秒と手を付けていられないほどである。

藤井さんによれば今日の小屋はそんなに混まないだろうとのことだったが、予想に反して薄暗くなっても登山者は続々と到着してきて、その夜は小屋は満員になった。私は非常に疲れていたが、出谷川のコースを歩き通せた満ち足りた思いと、ビールの酔いも手伝ってその夜はぐっすりと眠った。

(2日目)
翌日は早朝から深い霧のために視界が全くなかった。時々霧が晴れて上空から青空が透けて見えるので、徐々に晴れるかも知れないと思いながら小屋を出た。途中では3人の登山者とすれ違う。狐穴小屋までは快適な稜線歩きが続くところだが、昨日の長い登りで筋肉がだいぶ疲れているのか、足かせをかけられたように足が重かった。

狐穴小屋は誰もいなくひっそりとしていた。狐穴には20数名の宿泊だったそうだが、天候も悪いためか早めに下ったものと思われた。狐穴小屋から二ツ石山の縦走路は久しぶりで数年前に三面から縦走したとき以来である。あいにくガスで視界は20mほどしかないがそれでも近くに見える紅葉は楽しめるだろう。そんなことを思いながら先を進んだ。

高山帯を過ぎ潅木が目立つようになるとまもなくオバラメキの岩稜帯だった。視界の悪さは相変わらずだったが、白っぽい花崗岩の岩肌に紅葉をまとっている姿ははっと息を呑む美しさがあった。また山腹の紅葉は今がまさに錦秋の盛りともいえるほどで、まるで絵の具をぶちまけたようである。私は言葉もなくただ眺めるばかりだった。

二ツ石山に向かっていると、靴底が剥がれるというアクシデントがあった。見るとビブラムのソールの接着部分が剥がれて、かろうじて踵部分だけでつながっている。考えてみればこの革製登山靴もずいぶん酷使している。すでに金具も何カ所か壊れており、2ヶ月前の北鎌尾根で一気に痛みが進んだのかもしれなかった。この先はまだまだ遠いので一瞬暗い気持ちになったが、幸いにまだ水は漏れそうもないのでビニールテープで応急処置をして歩き続けた。

そこからは靴の状態に不安を抱きながら歩いた。しかし天狗角力取山を過ぎ、粟畑を下ったところでは案の定、テープが切れてしまい、再びビニールテープを何重にも卷いた。残り少なかったテープも最後である。なんとか登山口まで持たせるために岩角にぶつけないように注意をしながら下った。

以東小屋を出てから、いつかはガスが晴れるだろうと思いながら歩き続けたが、結局最後まで晴れることはなかった。南俣沢出合の登山口が近づく頃には小雨も降りだし始めてしまった。登山口には疲労困憊という状態で降り立った。こんなに疲れたのは南アルプスの縦走や北鎌尾根以来のような気がした。今はなにをするのも大儀だった。しかし長くつらい出谷川コースを登り終えて気持ちは高揚している。朝日連峰のまばゆいばかりに輝く紅葉を眺めながらの、久しぶりに秋山を満喫した2日間が終わった。




色鮮やかなブナの黄葉(竜ケ池付近)
[2001.10.7]



オツボ峰の分岐付近から見る障子ガ岳
[2001.10.7]



出谷川
水量が少ないので石をジャンプして渡ることができた
[2001.10.7]




明光山付近からのエズラ峰
[2001.10.7]




明光山を振り返る(奥は障子ガ岳)
[2001.10.7]



朝日連峰の縦走路の最奥に大朝日岳が聳える
以東岳山頂近くから
[2001.10.7]



以東岳から狐穴に向かう縦走路
[2001.10.8]



オバラメキ付近の岩稜帯
[2001.10.8]



オバラメキ付近の紅葉(1)
[2001.10.8]



オバラメキ付近の紅葉(2)
[2001.10.8]


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