【平成13年9月29日(土)〜30日(日)/朝日鉱泉〜鳥原山〜大朝日岳〜長井葉山縦走】
鳥原小屋と湿原[2001.9.29]
(1日目)
「朝日鉱泉ナチュラリストの家」に登山計画書を提出して早速出発する。登山者カードを見ても私達の他には今日の登山者はまだないようだった。駐車場の3〜4台ほどの車と、道路の片側に留めてあった何台かは釣り人の車なのかもしれなかった。吊橋を渡り登山道に入ってゆく。ナカツル尾根への分岐からは右に進み、急坂をジグザグに登りながら鳥原山をめざす。ブナ林の中は結構肌寒いのだが、急坂を登るうちに汗が流れはじめたため、途中で長袖シャツを脱いだ。尾根に出るとようやく勾配も緩くなり、付近には紅葉が目立つようになってきた。日が昇り始め、色づき始めたブナ林が朝日を浴びて輝いている。
金山沢までいったん下り、対岸に続く登山道を登り返すとしばらく急な山道が続いた。今日は朝から伊藤さんのペースがだいぶ早い。体調は万全のようである。登り切ったところからは視界が開け、木道が現れると左手にはやがて鳥原小屋が見えてくる。このあたりは鳥原湿原が広がっているところで、周囲はこれまで以上に紅葉が進んでいた。潅木の紅葉と併せて草紅葉と池塘とのコントラストが美しい。ここから銀玉水までは水場が全くなくなるのでこの鳥原小屋で水を十分に汲んで再出発した。鳥原小屋からは湿原の中を進み、階段状になった登山道をひと登りすると鳥原山である。三角点のある山頂は大朝日岳と小朝日岳の大展望台ともいえるところだ。ところが肝心の紅葉は色がくすんでいて例年の鮮やかさが見られない。真っ赤に紅葉した木々が見当たらないのである。くすんだ葉っぱに触れてみるとドライフラワーのようにシャリシャリと脆くつぶれてしまう。先週末の急激な寒気のためにすでに枯れているのだった。
ここから小朝日岳まではいったん下った後の登りが結構つらい。急な岩場には2ヶ所ほどロープがぶら下がっている。前方を見上げれば古寺コースから登ってくる人達が何人か見えた。小朝日岳山頂に着くと6人ほどのグループと3人のグループも少し遅れて登ってきたところだった。古寺山を見下ろせばさらに登山者が何人か休んでいるのが見えた。これからも登山者はまだまだ登ってくるようである。この小朝日岳までくれば今宵の宿の大朝日小屋はもうまもなくなので、ザックを下ろしてしばらく大休止した。この小朝日岳の山頂からは朝日の主稜線を一望することができる。しかし大朝日岳と以東岳の山頂付近はガスに隠れてはっきりとは見えなかった。
熊越を越えてからは見晴らしの良い稜線を歩く。ここは春から夏にかけてヒメサユリが咲き乱れるところだが、今は何も見あたらない。やがて朝日連峰随一といわれる名水、銀玉水に着いた。久しぶりに口にした銀玉水の水はさすがに冷たくてうまい。水を詰めたペットボトルで重くなったザックを背負い、銀玉水からは急坂を登った。このあたりから薄雲が広がりだしていた。気が付くといつのまにか陽射しがなくなっている。登っていると日帰りだという登山者が結構下ってきた。みんな古寺鉱泉から往復している人たちだった。
大朝日小屋には昼過ぎに着いた。先客はまだ一人だけだったが、管理人によれば、今日の宿泊者は地元の団体26名も含めると満員になるらしく、すぐに場所を指定された。私達は2階の一角にザックを下ろして場所を確保した。すぐに山頂を踏む予定でいたのだが、視界が少し悪くなってきたことから、ひとまず昼食をすることにした。酒の肴を作りながら早速ビールで乾杯する。あとは時間があるのでのんびりである。その後、ガスが晴れた頃を見計らって、二人で山頂に向かった。しかし雲が多くてすっきりとした展望は得られず、いったん小屋に戻ってから、夕方再び山頂に出かけてみた。雲の流れが速くなっていた。やがてガスが晴れると、前方には平岩山や大玉山、さらに奥には朝日連峰南端の名峰の祝瓶山、そして遠方には飯豊連峰が望めた。飯豊連峰には一つも雲がなく、杁差岳から飯豊本山までのスカイラインがはっきりと見える。今日の飯豊は快晴に恵まれているらしかった。
山頂から戻ってみると、次々と小屋に到着してきた人達で喧噪を極めている。既に夕食の準備にとりかかっている人達も多かった。早めに宴会を始めた人達は早くも酔いつぶれてシュラフに潜り込んでいた。山頂の寒風に晒された私達は、ウイスキーのお湯割りを作って冷えた体を温めた。日没後は小屋の中がすっかり暗くなってしまい、ローソクを灯した。この夜の宿泊者は2階の屋根裏部屋にも詰め込まされるほどで予定通り満員となった。小屋前のテン場にはテントも3張り設営されている。就寝前に外に出てみると、山形市や寒河江市の夜景が美しかった。見上げれば月が大きい。月が明るすぎて星を見つけるのが難しいくらいである。誰かが今日は十三夜だと話していたが、明日はかなり好天が期待できそうだった。
(2日目)
早めに起き出した人たちの食事を作る物音で目が覚めた。時間はまだ4時。真っ暗である。私達は朝食を途中でとることにして5時過ぎには小屋を出た。予想に違わず、早朝から天気が良さそうで朝日がまぶしい。小屋前ではたくさんの人たちがご来光を眺めていた。大朝日岳山頂からは朝日に輝く山々と斜面の草紅葉が美しかった。朝の澄んだ空気の中で月山や祝瓶山などが昨日よりずっと間近に見えた。小国町や遠くの街並みは雲海に隠れて見えなかった。
大朝日小屋を出てから1時間ほど歩き続けて、だんだんと力が入らなくなってきた。シャリバテのようである。平岩山で朝食をとることにした。右手には祝瓶山の鋭鋒、そして左手には紅葉した潅木と大朝日岳を眺めながらの朝食は、山に登ってきた者だけが味わうことの出来る最高の贅沢のような気がした。風もなく穏やかな山頂は、展望台付きの快適なスカイレストランであり、野菜をたっぷり入れたヘルシーラーメンを食べると何とも言えぬ心持ちになった。
平岩山を下りはじめてまもなく、この先の御影森山から長井葉山に下ってみようか、と伊藤さんが歩きながら唐突につぶやいた。予想もしていなかった言葉だったが、私は紅葉を眺めながら歩けるのはうれしいばかりである。ただ、このルートは朝日鉱泉までの下りと比べれば比較にならないほどの長い距離とアップダウンが続く難路なので簡単に実行できるコースではない。また水は二人とも500ccぐらいしか残っていないのが少し心配なところだが、地図を見ると中沢峰を下ったところに水場もあり、最も気がかりな体調については二人とも特に問題はないようなので結局予定を変更することにした。。
そこからは体力をあまり消耗しないように気を配りながら登り下りを繰り返した。御影森山までは何回かニセピークに騙された。御影森山の山頂に着くとお互い携帯電話を取り出し、自宅にコース変更の連絡をした。御影森山から眺めれば、前御影森山、中沢峰、焼野平、八形峰と縦走路は連綿として続いており、長井葉山はまだはるかかなたである。葉山山荘のある稜線は手前の1264m峰の奥に隠れていてまだ見えなかった。
御影森山からの下りはこれまでの登山道とは一変して笹藪が生い茂るヤブ道が現れた。しかし前御影森山付近までくると、刈り払われた道に変わり、急に歩きやすくなり胸をなで下ろした。前御影森山からは中沢峰との最低鞍部までは300m以上下る。そして目の前に立ちはだかる中沢峰まではつらい登りが続いた。中沢峰は大朝日岳から長井までのちょうど中間くらいだろうか。まだまだ行程は長いのだが、中沢峰の山頂ではなんとなくホッとしながら休憩をとった。
中沢峰から焼野平に向かうと、一段と低くなった所があって、そこはちょっとした広場になっていた。周りは鬱蒼とした太いブナ林で、太古からの原生林という雰囲気が漂っている。付近には焚き火の跡もある。ここから20mほど下ったところが水場だった。水量は少しだが飲んでみると冷たくておいしい。これで底をついていた水筒も心配がなくなったので一安心だった。
この先もアップダウンを繰り返しながら先を進む。この辺は5月に歩いたときには灌木がみな雪の下に埋まっていたので、展望を楽しみながらの雪上歩きを楽しんだのだが、今は草木が伸び放題でほとんど視界がなかった。ようやく葉山の手前の1264m峰に登り詰め、樹林帯を少し下るとやがて前方には葉山湿原が見えてきた。葉山山荘はもうまもなくだった。
日曜日なのに葉山山荘はシーンとして静まりかえっている。小屋は施錠されていて誰も登ってきた形跡はなかった。大朝日小屋を出発してからちょうど7時間が経っていた。まだ草岡までは2時間ほど下らなければならない。しかし大朝日岳からの縦走路の核心部はすでに終わった。二人とも長いコースを無事に歩き通せた達成感でいっぱいだった。伊藤さんはまだまだ登れるほど元気である。ここでザックに忍ばせていた果物の缶詰を開けて最後の行動食とした。上空を見上げれば今にも雨が降り出しそうな空模様に変わっていた。どうやら天候は下り坂に向かっているようだった。
葉山の登山口に着いたのは3時近かった。長井に下ることなど全く予定していなかったので、車の回収のために少し時間を要した。伊藤さんの車で朝日鉱泉まで戻ったときには、日はとっくに暮れていて、薄暗くなった駐車場には私の車だけが残されていた。
大朝日小屋前からご来光を仰ぐ
[2001.9.30]
朝日に輝く草紅葉と大朝日小屋(大朝日岳山頂から)
[2001.9.30]
祝瓶山(大朝日岳山頂から)
[2001.9.30]
平岩山山頂から仰ぐ大朝日岳
[2001.9.30]
御影森山から前御影森山に下る
[2001.9.30]