山 行 記 録

【平成13年9月23日(日)〜25日(火)/飯豊連峰 丸森尾根〜杁差岳〜飯豊本山〜ダイグラ尾根】



大石山(右)と頼母木小屋(頼母木山から)[2001.9.23撮影]



【メンバー】単独
【山行形態】夏山装備、避難小屋2泊(杁差小屋、梅花皮小屋)
【山域】飯豊連峰
【山名と標高】頼母木山1720m、大石山1567m、鉾立峰1573m、杁差岳1636.4m、地神山1849.6m、門内岳1887m、
       北股岳2024.9m、梅花皮岳2000m、烏帽子岳2017.8m、御西岳2012.5m、飯豊本山2105.1m
【天候】(23日)快晴、(24日)快晴、(25日)晴れ
【行程と参考コースタイム】
(23日)飯豊山荘630〜水場800〜915丸森峰925〜1000地神北峰1010〜頼母木小屋1100〜大石山1140〜
     鉾立峰1210〜杁差小屋1240(泊)

(24日)杁差小屋630〜鉾立峰〜大石山〜745頼母木小屋800〜地神北峰835〜地神山850〜扇ノ地紙915〜
     935門内岳1025〜1115北股岳1150〜梅花皮小屋1200(泊)

(25日)梅花皮小屋520〜梅花皮岳535〜烏帽子岳550〜740御西小屋750〜840飯豊本山910〜宝珠山1015〜
     千本峰1105〜1140休場ノ峰1150〜吊橋1255〜飯豊山荘1345

【概要】
丸森尾根から杁差岳へは5年ぶりだ。前回は翌日に梶川尾根を下ったが、今回は当初、2日目に本山小屋まで縦走し、3日目にダイグラ尾根を下る計画である。しかし2日目はどうしても体調がすぐれず、その日は途中の梅花皮小屋に途中下車し、のんびりと1日を過ごしながら体力の回復をはかった。そして3日目に梅花皮小屋から飯豊本山まで歩き、山頂からはダイグラ尾根を下ったものである。杁差岳もダイグラ尾根も紅葉の時期に歩きたいのだが、最近、飯豊や朝日を離れていたことに加えて、天候にも恵まれない山行が続いていたので、快晴が約束されたような天気予報を聞いて結局根負けした。約2カ月ぶりに飯豊連峰の稜線に立ってみると、久しぶりに我が家に戻ってきたような懐かしさでいっぱいになる。そしてこの連休は、ここ何年も経験したこともない目のさめるような晴天が続き、いわゆる「日本晴れ」の中での素晴らしい展望に恵まれた山行となった。

(1日目)
山形は今日も朝から雲一つない快晴の空が広がっている。3連休のため昨日の土曜日から入山している人達が多いのだろう。飯豊山荘前の駐車場は入る隙間がないほどで、車を留める場所を探すのに苦労した。準備を終えて登山者カードに記入し早速登り始める。丸森尾根は飯豊山荘のすぐ目の前から急登が始まる。

紅葉はまだ2週間ほど早いのだがブナ林や潅木帯が少しずつ色づき始めており、この初秋の雰囲気の中を歩くのもなかなか良かった。途中の水場を過ぎると30人近いグループが賑やかに下ってきた。昨夜は頼母木小屋に泊まったらしかったが、こんな団体が一度にきては小屋は超満員だっただろうと思われた。丸森峰で梨を1個食べながら一息を入れる。地神北峰まではもうひと登りだ。

樹林帯から抜け出たために降り注ぐ陽射しがまぶしい。しかしもう真夏のような暑さはなく空気が爽やかだった。秋晴れの中の快適な山歩きだ。頼母木山を登っていると笛の音が聞こえてきた。なんだろうと思いながらも、その演奏は結構上手で、何となく心地よい気分を抱きながら登る。山頂に着いてみると登山者が一人、下界を見下ろしながらオカリナを吹いているのだった。

頼母木小屋前ではテントが3張り設営中で、3人ほどテントの前で車座になってご馳走を広げ、もう宴会を始めている。私は杁差小屋の水場はあてにならないと思い、頼母木小屋で水を汲んでから大石山に向かった。水は全部で3リットルでザックがずっしりと重くなった。特に鉾立峰の急な登りはつらくてあえぎながら登った。汗が全身から噴き出していた。登山道にはエゾリンドウとハクサントリカブトが咲いている。他には枯れかかったマツムシソウや取り残しのようなハクサンイチゲが目立つ程度でほとんど高山植物は見あたらなかった。

杁差小屋には昼過ぎに到着した。軽い昼食の後、エアーマットを持って杁差岳の山頂に登ってみた。山頂からはかつてないほどの展望が広がっていた。日本海はすぐ指呼の間にあり、淡島や佐渡島などもはっきりと望める。朝日連峰の山肌さえはっきりと見えるほどだ。全方位どこを見渡しても視界良好で、いくら眺めても飽きることがなかった。私はしばらく眺めた後で、山頂にマットを敷きしばらく昼寝をした。

今日は連休の中日で、大熊尾根や足の松尾根からも次々と登山者が小屋にやってきた。登ってくる人は夕方になっても衰えず、この日の小屋はさすがに満員となった。天気がいいので小屋の外で夕食をしている人も多い。日が暮れる頃になると、小屋の中で夕食をしていた人達もみんな外に出て日没の風景に見入っていた。この日は二王子岳の左手に陽が沈んだ。

(2日目)
ご来光を眺めるために5時前に起床した。山頂にはもう何人かが登っていた。東の空が赤々と染まり、やがて太陽は蔵王連峰付近から登ってきた。日の出は5時26分である。朝のドラマを眺めた後、ほとんどの人達が6時前には小屋を発っていった。私は小屋を6時半に出た。鉾立峰から大石山へと、目映いほどの朝日を正面に受けながらながら歩く。日本海側からは涼しい風が吹き、笹原が絶え間なく風に揺れていた。

地神北峰までは快適だった。しかし一方では、上天気にもかかわらずなんとなく気分がいまひとつだった。体がやけに重いのである。こんなことは最近めずらしかったのでしばらくゆっくりと歩いたが、だんだんと先に進む気力がなくなっていた。疲れのためかもしれなかった。門内岳と北股岳の山頂で銀マットを敷いてそれぞれ1時間近く横になった。地面に横たわると穏やかな風が体を撫でてゆく。そして見上げれば雲一つない真っ青な空があった。私はまぶしいくらいの空を見上げながら、そんなに先を急ぐこともないのではないかとも思い始めていた。

梅花皮小屋はほとんどの人が出払った後で静まり返っている。聞こえるのは小鳥のさえずりと遠くを流れ落ちる沢の音だけだった。小屋の前に頼母木からピストンしてきた人が一人いて、しばらく立ち話をする。その人は今日も頼母木小屋に泊まって明日、足の松尾根を下る予定らしかった。私は時間を考えるとまだ本山小屋か御西小屋までも行ける時間帯だったが、今日は無理をしないことにしてこの梅花皮小屋に泊まることにした。そう決めてしまうと時間がだいぶあるので外に出てシュラフを乾かしたりしながら、エアーマットを敷いて文庫本を読むことにした。しかし心地よい疲れと穏やかな陽射しを浴びているとたちまち瞼が重くなってしまい、いつのまにか眠ってしまった。

その後、御西からピストンしてきた登山者が数人、小屋に立ち寄っていった。私は風が冷たくなってきたのを機会に、小屋に入りコーヒーを淹れる。陽はあくまで高く、快晴の空が広がっていた。こんなにのんびりした山は久しぶりだった。先へ先へと急ぐ山旅とは対極の山のような気がした。私は久しぶりにゆったりとした山の午後のひとときを過ごしていた。

時間が経つにつれて窓から眺めると北股岳の山襞の陰がだんだんと濃くなってきていた。4時頃には持ってきた文庫本を読み終え、その後は梅花皮岳の中腹の岩の上でぼんやりと山並みなどを眺めて時間をつぶした。陽が傾くにつれて北股岳が徐々に黒々とした陰となり、色彩がなくなってゆく。強い西陽が当たっていた小屋の周辺も、すでに陽が当たらなくなっていた。結局この日の宿泊は、小屋にザックをデポして本山をピストンしてきたという新潟の一人と私の二人だけだった。

(3日目)
午前5時前後から東の空がだんだんと赤く染まってきていた。小屋の窓から眺めると、昨日に比べ今日は遠くの山が霞んで見える。靄がかかっているのだろうか。しかし上空を見れば今日も快晴の空だ。下界はほとんど雲海に隠れていた。朝食はスープだけにして、5時過ぎには小屋を出た。歩き出してまもなくすると日の出を迎えた。昨日、ゆっくりと小屋で休んだおかげで体はいつもの調子に戻っている。清々しい朝の空気の中を歩くのは気持ちが良かった。梅花皮岳、烏帽子岳、天狗岳と結構登り下りを繰り返す区間が続いたが、今日は全然苦にならない。どこまでも歩いて行けそうな気分になっている。こうしてみると、やはり昨日の体調不良は疲れのためだったのだろう。2時間ちょっとで御西小屋に到着した。連休は昨日で終わったこともあって、ここまで全然登山者に出会っていない。山を独り占めにしている気分だ。やはり山は静かな方が断然いいと、しみじみと思う。御西から飯豊本山に向かう途中で二人ほど登山者に出会ったがみな単独だった。

空きっ腹で歩き続けてもう3時間以上が経っていた。お腹も空いてきており、飯豊本山の山頂ではラーメンを作った。食事を終えると後はここからダイグラ尾根を下るだけである。宝珠山を眺めればいつのまにか白い雲が湧いてきていた。雲海となっていた雲が気温の上昇につれて、どんどんと上がってきているようだ。4日も続いた好天もそろそろ変わり目に来ているのかも知れなかった。

山頂から一気に300mほど下ると宝珠山が大きく立ちはだかる。そしてそこからは宝珠山から千本峰とダイグラ尾根特有の険しい尾根歩きが続く。次々とピークが前方に現れて、下りなのに全然下っているという気がしないので少々うんざりするところだ。しかし延々と続くかのように思われた上り下りも、休場の峰までくればあとは棒尾根をひたすら下るだけである。急斜面を転がるように下りて行き、やがて沢音が大きくなると吊橋はもうまもなくだった。結局、飯豊山山頂からは3時間45分で吊橋まで下った。昨日、ゆっくりと休養をとったおかげでそれほど疲れていないのがうれしい。

このダイグラ尾根の上部付近は、杁差岳よりも標高が高いせいだろうが、一昨日に比べると紅葉はかなり進んでいて、普段は退屈するばかりの登山道も、色づき始めた木々を眺めながらの歩きは実に楽しいものだった。このダイグラ尾根の一番の魅力は、やはり花が咲き乱れる残雪期と紅葉の時期に尽きるだろう。いつか紅葉が盛りの頃に、全身を錦秋の彩りに包まれながらダイグラ尾根を登りたいものだと、静かな温身平を歩きながら真剣に考えていた。



鉾立峰を下り、杁差岳(中央)に向かう[2001.9.23撮影]



佐渡ガ島の左手に日が沈む[2001.9.23撮影]



北股岳から見る飯豊の主稜線[2001.9.24撮影]



大日岳と御西小屋
御西岳付近は草紅葉に包まれている[2001.9.25撮影]



雲が湧く飯豊連峰(飯豊本山直下で)[2001.9.25撮影]



飯豊本山から見るダイグラ尾根(中央は宝珠山)[2001.9.25撮影]


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