【平成13年7月7日(土)/南会津 猿倉口から田代山、帝釈山】
田代山山頂に広がる高層湿原
午後、薄雲が広がりだした頃
山形から登山口の猿倉口までは遠い。福島県舘岩村は檜枝岐村の手前とはいえ、自宅から登山口までは約4時間を要する道のりである。登山口到着は9時30分。しかし、田代山か帝釈山の山頂で昼食をとるつもりなので、ちょうどよい時間と言えそうである。
猿倉口の駐車場に着くと、乗用車の他にも、マイクロバスや大型バスまで停まっているのでびっくりしてしまった。駐車場には入りきれず、途中の道路沿いに何台も停まっている。かなりの混み具合でこの田代山の人気のほどが伺えるようだった。すでに陽は高く昇っていて駐車場には夏の日射しが照りつけていた。
小さな沢を渡って登山道を進み急登を登る。樹林帯の中でほとんど展望はないものの、直射日光が当たらないので気分的にはだいぶ楽である。水場で水筒を満たし、更に登り続けるとだんだん見晴らしが利くようになった。久しぶりにカミさんとの山行なので、のんびりと休みながら登る。まもなくすると木道が現れた。小田代の標識がたつ湿原だった。登山者が湿原の花を観察しながらのんびりと木道を歩いている。標識には田代山山頂まで500mとあり、少し先で木道がいったん途切れた。そして再び木道が出現するとそこはすでに田代山山頂で、広大な湿原の一角のようであった。山頂は予想に違わず、頂上湿原が広がっており、まさに天上の楽園を思わせた。湿原にはワタスゲが多く目立ち、ニッコウキスゲやタテヤマリンドウも咲いている。湿原の底の方を見ると、赤みを帯びたモウセンゴケも多い。また湿原一帯には小さなハタキのような枯れ草がおびただしく残っているのに気づいた。良く見ればそれはチングルマの果実で、残念ながら花の時期はすでに終わっていた。
昼食にはまだ時間があり、このまま帝釈山まで行くつもりでいたところ、カミさんが急に腹痛を訴えたために、しばらく木道で休憩した。体調があまりよくなさそうなので太子堂で休憩後、帝釈山には私一人で往復することにした。
オオシラビソの樹林帯を下りはじめてまもなくすると、ざわざわと人の話し声が聞こえはじめ、やがてだんだんと賑やかになってきた。狭い道を登山者が登ってくるところで、その後ろにも行列が延々と続いている。聞くと50人以上の団体で、マイクロバスできたツアー客のようだった。私は辟易するばかりで、この団体とすれ違うのに散々苦労した。帝釈山へはほとんど展望のない道をたどった。登山道の周辺にはオサバグサが盛りで、シャクナゲの白い花も咲いている。いったん道は大きく下り、鞍部からは同じぐらいの標高を登り返す。ぬかるみや倒木が多く、決して歩きやすい道ではなかった。
帝釈山の山頂では意外と多くの人達が休憩をしていた。最近、桧枝岐村からのルートが再開されたらしく、そちらから登ってきた人もいるようである。正面には燧ヶ岳が望め、その右手には会津駒ヶ岳だろう、山頂から中門岳へと続く山並みは考えていた以上に平坦な稜線を見せている。上空にはいつのまにか薄黒い雲が広がっており、陽射しも陰りはじめて、なんとなく寂しい山頂だった。私はカミさんを待たせているので、展望もそこそこに田代山へ引き返した。この帝釈山へは汗を飛ばしながら、ほとんど駆け足で往復した。
カミさんは木道に腰を下ろして文庫本を読んでいた。腹痛は一応治まったようで一安心だった。薄雲に陽射しが遮られて、少し肌寒くなってきたため、お湯を湧かしてレモンティーを作ることにした。この天上の楽園のようなところで、日なが一日のんびりとできたら、なんと贅沢な一日だろうか、と私は風に揺れるワタスゲの白い花を見つめながら、ぼんやりと考えていた。短時間でこの田代山まで来れる近くの人達が、無性にうらやましくなるほどの山であった。
マイカーやバスで溢れていた猿倉登山口の駐車場
すでに満杯なので、下の道路の片隅に駐車した
急坂を登ると視界が開けて、ようやく小田代に着く
湿原とワタスゲの群落
おびただしいチングルマの果実が風に揺れていた
帝釈山の山頂からの燧ヶ岳
薄雲が広がりだして、なんとなく寂しい山頂だった