山 行 記 録

【平成13年7月3日(火)/小赤沢から苗場山】



苗場山山頂に広がる頂上湿原



【メンバー】単独
【山行形態】夏山装備、日帰り(前夜民宿泊)
【山域】三国山脈
【山名と標高】苗場山2145.3m
【天候】晴れ
【温泉】長野県栄村 秋山郷 屋敷温泉「秀清館」300円※露天風呂
【行程と参考コースタイム】
小赤沢登山口3合目515〜4合目547〜5合目606〜6合目637〜7合目651〜8合目712〜9合目745-805〜苗場山山頂825-910〜小赤沢登山口3合目1110

【概要】
平家の落人が住み着いたといわれる長野県栄村の秘境、秋山郷。ここは山奥のまた山奥といった雰囲気のところで、中津川の深い渓谷沿いに古くからの秘湯が連なる温泉郷であった。その秘湯のひとつである小赤沢温泉から登るのが今日の小赤沢コースである。小赤沢温泉が1合目となっていて、マイカーなら3合目まで入れる。

当初は和田小屋から入山して神楽ガ峰を越え、苗場山に登る予定をしていた。ところが、昨日、越後駒ヶ岳に登った時に、駒の小屋の主人である米山氏から、初めて苗場山に登るのならばと勧められたのがこの小赤沢コースである。他のコースはまあ、いつでも行けるがこの小赤沢コースはなかなかゆけないことと、なにより登山口である3合目の標高は1300m近くもあるので容易に苗場山の山頂に登ることができること。さらに見晴らしもよい尾根歩きが続くので是非登ってみてほしいと教えられたのである。そして下山した後の温泉も「屋敷温泉」がいいよ、と畳み掛けるように勧められていた。

小赤沢温泉の民宿「苗場荘」を早朝、4時20分頃出る。民宿の前の林道をそのまま山に向かって行けば終点が登山口だと、昨夜、「苗場荘」の女将さんが教えてくれた。到着したところは新しいトイレも建っている広い駐車場であった。すでに車は10台近く留まっている。駐車場は奥まで続いていて、終点には登山者カードを記入する百葉箱のような白いポストが建っている。3合目を示す標注には現在の標高と次の4合目までの所要時間が書かれている。こうした指導標はこの先もずっと続いており、休憩をするのに適度な間隔で設置されてあった。4合目では水場があり、冷たい沢水が豊富に流れていた。民宿で水を頂いてきていたが、この沢水の方が冷たく水筒の水を入れ替えた。

登山道沿いにははじめ太いヒバが目立つが、だんだんとツガやオオシラビソの針葉樹が多くなってくる。道は倒木とぬかるんだ道で歩きにくく、また木の根が露出してすべりやすいので、慎重に歩かなければなからなった。

6合目近くの沢にはかなりの雪渓が残っていて上流から冷たいガスが降りてきていた。この冷気は汗をかいた体に心地よく、しばらく佇みながら休憩する。ひと登りすると付近には様々な高山植物が現れた。サンカヨウ、キヌガサソウ、シラネアオイ、イワカガミ、ムシカリ、ショウジョウバカマ、ムラサキヤシオなどが咲き競い、残雪がやっと解けた登山道は一気に花の盛りを迎えているようだった。。

7合目を過ぎると霧が濃くなり見通しが悪くなった。雲の中に入ったようである。道は木の根が露わになった急斜面が続くようになり、クサリが何カ所かに設置されている。8合目からは急に見晴らしの良い場所に出た。そこからひと登りすると湿原と共に木道が現れた。ここは坪場と呼ばれる9合目で、4キロ四方に広がる広大な頂上湿原の一端に出たようだった。付近はまだ靄に包まれていて幻想的な風景が漂っている。

湿原の中をしばらく進むと木道がいったん途切れ、木の根や大きな石がゴロゴロした登山道になった。途中にはまだ雪渓も残っていて、石の上はじめじめしていた。

再び現れた湿原ではワタスゲ、チングルマ、イワカガミなどが咲き乱れ、登山者が何人か写真を撮ったりしている。今日は平日で登山者も少ないので静かな湿原をのんびりと歩く。苗場山の山頂と赤倉山への分岐点にある、板敷きの休憩場所で朝食をすることにした。民宿で作ってくれた朝食の入った袋を開けてみると、大きなおにぎり2個と、アルミホイールに包まれたおかずが入っていた。お湯を沸かしていると広く覆っていた靄もだんだんと晴れだしてきて、やがて青空が広がった。

食後、苗場山山頂に向かう。付近一帯は広大な湿原と数多くの池塘が点在し、木道が湿原の間を縫うように設置してある。登山道には大きな雪渓がまだ残っていて、湿原とのコントラストが美しかった。ここは山頂の楽園が広がる桃源郷のようだ。山頂には遊仙閣と苗場山頂ヒュッテの二軒の山小屋があった。

山頂を踏んだあと、苗場山頂ヒュッテに立ち寄った。ログハウス調の新しい小屋である。宿泊者もみんな出払った後で、スタッフだけが掃除などに追われていた。私は小屋の前にある広場のテーブルでお湯を沸かした。そしてコーヒーを淹れながら、いつかこのヒュッテに泊まって、日暮どきや早朝に、のんびりと湿原散策ができればなあ、としばらく考えていた。

ヒュッテを後にして一段低い湿原まで戻ってくると、再びガスが流れてきて視界が悪くなった。どうやら山頂付近だけが晴れているような具合である。8合目付近から見下ろすと、登山者が三々五々と下から登ってくるのが見える。また登山者だけではなく、地元の人であろう、タケノコ取りの人たちも多かった。みな大きな布の袋を背負っていた。5合目付近まで下ってくると、強い夏の陽射しが戻ってきた。そして振り返れば夏空にくっきりと新緑の山々がスカイラインを描いていた。

下山後は、予定どおり屋敷温泉に向かった。屋敷温泉は小赤沢温泉から1kmほど先に進んだ、中津川の清流沿いにある。屋敷温泉「秀清館」の露天風呂は旅館の玄関への通路に面した、目隠しもない、いわば庭の池のような雰囲気の風呂であった。幸いに付近には人の気配はない。聞こえてくるのは目の前を流れる中津川の清流の音と小鳥のさえずりぐらいである。私は露天風呂を独り占めにしながら、周囲を深い山々に囲まれた山村の静寂さをあらためて肌で感じていた。しかし、昨日から今日にかけて日焼けした腕や首の周りが痛くて、肝心のお湯にはなかなか浸ることができなかった。


小赤沢登山口駐車場
新しいトイレもあり、整備された登山口だ



輪切りにされた丸太が敷き詰められた登山道



8合目を過ぎるとすぐに見晴らしがよくなり湿原に飛び出す
あいにく靄がかかり良く見えないが幻想的な雰囲気がする



9合目で朝食
ようやくガスが上昇し晴れだしてきた



小赤沢の民宿で作ってもらった朝食のおにぎり



頂上湿原
木道の一部にはこうした雪渓がまだ残っている


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