山 行 記 録

【平成13年6月23日(土)/飯豊連峰 飯森山】



ヒメサユリ咲く鉢伏山山頂



【メンバー】単独
【山行形態】夏山装備、日帰り
【山域】飯豊連峰
【山名と標高】鉢伏山(はちぶせやま) 1,576m、飯森山(いいもりやま) 1,595m
【天候】曇り
【温泉】福島県熱塩加納村 「夢の森」500円
【行程と参考コースタイム】
登山口625〜見晴台700〜薬師736〜地蔵830〜大倉の頭911〜血の池917〜高倉窪キャンプ場937〜鉢伏山945-1000〜子安神社1009〜県境分岐1038〜飯森山1045-1115〜登山口1430

【概要】
飯森山は飯豊連峰と吾妻連峰の間に位置し、ちょうど山形県と福島県の県境稜線上の山である。あまり知られていない地味な山であるが、私の住んでいる長井市や川西町方面から眺める飯森山は、特に春先にかけては残雪が遅くまで残り、すぐ近くの飯豊連峰の山並みと見紛うばかりの美しい姿を見せる山でもある。

ガイドブックによれば登りに6時間、下りに5時間を要する(うつくしま百名山、福島テレビ発行)とあるが、いくらなんでも往復に11時間はかからないだろうと思いながら、早朝、国道121号を南下し、登山口である日中ダムに向かった。

登山口は日中ダムの管理所を過ぎてまもなくのダム湖畔にあった。登り口にはりっぱな石の鳥居と登山口を示す標識が立ち、すぐそばには石の祠と新しく大きな案内標識もある。私が着いたのはまだ朝早い時間なのに、すでに軽トラ2台を含めて数台が道路の路肩に駐車中である。飯森山までは長い行程なので、みんな暗い内から登り始めたのかも知れなかった。

登山道は最初から急な登りで始まった。度肝を抜かれるような急登で、まるで飯豊の丸森尾根か梶川尾根を思わせる登りである。太い杉林やカラマツが多い薄暗い林間の急坂をひたすら登る。やがて尾根に出ると車の通る音が反対側から聞こえてきた。少し前に通ってきたばかりの大峠道路を走る車の音である。さらに急登を続けると、やがて見晴台に着いた。看板が木の枝にぶら下がっている。見晴台といっても木々の間からわずかに会津盆地が覗けるだけである。ここの標高はおよそ830m。登山口からの標高差約320mを約30分で登ってきた計算だ。それほど急な登りだった。

そこからは今までよりも勾配は緩くなったものの、まだまだきつい登りが続いた。間もなくすると登山道沿いに、看板と共に古い祠が現れた。色々な名前が書かれた看板と祠はこの先でもところどころに現れ、この飯森山が古くからの信仰の山だったことを忍ばせる。ふと2年前に栂峰を登ったときのことを思い出した。栂峰は飯森山から約2kmほど北に位置する山で、この飯森山と同じように、登る先々で様々な祠が祀られてあるので驚いた記憶がある。

「薬師」の祠を過ぎると前方からかすかにエンジン音が聞こえてきた。チェーンソーに似たような音はだんだんと近くなり、追いついてみると4人ほどが草刈機を使って作業中なのであった。みんな地元の栂桜(つがざくら)山岳会の人達で、全部で11人もの人達が3班に分かれて作業してるとのことである。みんなまだ薄暗い4時半という朝早い時間に登山口を出発して、すでに額には玉のような汗を浮かべて作業をしている。その後、草刈の作業している人達には「地蔵」付近でも出会った。

今日は朝から曇り空で、ガスに覆われてほとんど何も見えなかった。しかしこの時期は、日差しに晒されないだけ、今日の天候には感謝しなければならないようである。急な登りに加えて、梅雨の蒸し暑さも手伝い、背中はかなりの汗まみれだった。歩くたびに全身から汗がほとばしった。
予報では昼頃からだんだんと快復するらしいので、山頂に着く頃には晴れるだろうと思いながらさらに登る。

登り初めは、登山道周辺には高山植物が見当たらなく、ギンリョウソウとアヅマシャクナゲがチラホラと目に付く程度だった。しかし「地蔵」付近からはヒメサユリが現れ始めて、足元にはミツバオウレン、ゴゼンタチバナ、イワカガミ、シラネアオイなども加わり、一転して華やかな登山道になった。またヒメサユリに混じってニッコウキスゲも数輪咲き始めていた。

いくつかのアップダウンを繰り返し、比較的大きなピークである「大倉の頭」から下ると、「高倉窪キャンプ場」の看板があった。ここは鉢伏山手前の鞍部になっているところだ。ここで草刈作業グループの先頭と思われる若い4人組と出会った。みんな腰をおろして一休みしているところだった。「高倉窪キャンプ場」とはいえ、特にテントを貼るスペースはなく、水場もないので名ばかりの場所のようでもある。それにしても、ここまでただ登ってくるだけでもたいへんな所を、重いザックの外に草苅機を担ぎ上げるのだから、山岳会の人達はいかに若いとはいえ大変だろう。頭が下がるばかりだ。

この若い4人の内の1人から、栂桜山岳会が主催している、飯森山の沢開きの話を聞くことができた。例年、沢開きは7月最終の日曜日なのだが、今年は選挙の関係で、一週早めて行われるようである。大桧沢を遡るコースは、沢歩き、雪渓歩きに加えて、途中トンネルを潜ったりしながら沢を詰め、飯森山へ直登する。飯森山山頂からこの尾根道を下ってくるとちょうど周回コースとなるので、飯森山では特にお勧めなのだという。その日、私はすでに予定が入っているので残念ながら参加できないが、話を聞いていると今日の尾根歩きとは違った楽しみがありそうで、いつかは登ってみたいコースに思えた。

「高倉窪キャンプ場」からはひと登りで鉢伏山山頂だった。山頂には三角点と小さな祠があり、ちょっとした広場になっている。腰をおろしてはみたものの、相変わらず周囲は白い雲の中で何も見えない。風が強いので長袖を羽織り、休憩もそこそこにまたザックを担いだ。

ここから飯森山まではいったん大きく下らなければならなかった。下る途中から雪渓が現れ、一番低い場所は雪渓が融けだしている。そこは大きな水たまりになっているので通過するのに少し苦労した。足を滑らすと膝近くまで水に浸かってしまう程の深さがありそうである。ストックがなければ両足ともずぶぬれになっていたかもしれなかった。ここは夏でも湿地帯になっているような場所らしかった。ここで山頂から登山者が4人下ってきた。3人はスパッツを着け、1人は長靴を履いていた。ここのぬかるみともいえるような湿地帯を知っているのだろう。長靴の人は地元の人かも知れなかった。それからもしばらく雪渓歩きが続き、一段低いところから再び登り返すと夏道が現れて、まもなくすると飯森山山頂だった。この山頂までの区間は今までにも増して、おびただしいほどのヒメサユリがずっと咲いていて、展望が得られない寂しさを慰めてくれているようである。

飯森山山頂での視界の悪さは相変わらずで、展望もないのでザックを山頂に置き、登山道をさらに進んでみた。100mほど先に石の祠が建つ飯森神社があり、そこも小さな広場になっていた。飯森神社から先、道はかなり下るようだった。このまま進めば栂峰なのだろうが、しかし廃道となって既に久しく、全く道がないと聞いているので引き返すことにした。大桧沢のルートを登ってきた場合はこの先の一段低くなっている地点で尾根に上がってくるらしかった。

山頂でおにぎりを食べながらしばらくガスが晴れるのを待っていた。しかし、なかなか晴れる兆しはない。上空には厚い雲が居座ったままで、それは短時間でなくなるようには見えなかった。飯森山は、ガイドブックによればヒメサユリの咲く6月〜7月がベストシーズンとあり、まさに今がちょうどよい時期で、圧倒されるほどのヒメサユリに感嘆しながらここまで登ってきたのだが、もう一つの楽しみである飯豊連峰や吾妻連峰の展望は得られず、実に残念である。今度は大桧沢から雪渓を登って飯森山に立ってみたいと思いながら山頂を後にした。

下りでもなかなかガスが上に昇ってゆかなかったが、鉢伏山を下り始めた頃、ようやく少しガスが晴れだしてきた。振り返るとつかの間、きれいな三角錐の鉢伏山を仰ぐことができたのは幸いであった。しかし遠くの山はまだまだ雲に隠れている。しばらくすると、ガスが東側から流れてきていままで見えていた鉢伏山の山頂は再び見えなくなってしまった。今日はこの程度の展望で満足しなければならないようである。そこからはブナ林が続く中、何回か上り下りを繰り返しながら、長い下山路を下っていった。


日中ダム近くにある登山口



鉢伏山から飯森山に向かう鞍部に残る雪渓



飯森山への登山道はおびただしいほどの
ヒメサユリの群落が続いていた



飯森山山頂の先にある飯森山神社
この先は栂峰へと稜線は続くが登山道はない



やっと姿がみえた鉢伏山
下りの登山道で


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