【平成13年5月12日(土)/朝日連峰 長井葉山】
葉山山荘の近くから長井の市街地を眺める
午前中の悪天候がウソのように晴れ渡る
毎年同じ時期の春の葉山登山ではあるが、我々にとってはなんといっても地元の山。下山後の温泉と山開きのなおらいも含めて毎年心待ちにしている山でもある。少し薄黒い雲が山の稜線を隠していて、なんとなく雲行きが怪しいので、今日の天候を心配しながら登山口に向かう。草岡の縄文村に車を停めて登り始めた。
歩き始めてまもなく登山道の真ん中でたくさんのカエルが交尾をしており道をふさいでいる。なんとなくほほえましく思える反面、あれだけ数が多いのを目の当たりにすると、カエルたちの本能というのか、その熱気に気圧されそうになりながら通り過ぎた。
オケサ堀を過ぎるとやがて行く手には残雪が現れた。昨年の大雪と比べれば今年はだいぶ少ないのだが、それでも例年よりは多いようだ。登山道は無視して目の前の峰を目指して雪の上を直登していった。雲の中に突っ込んだのか、視界がだんだん悪くなってきていた。稜線にでる前のこの付近は目標物も特にないので、ガスられると本当にわかりずらいところだ。それほど不安になるほどでもないのだが、心細くなってきたのは確か。ところどころに目印に赤いテープを巻きながら登った。葉山山荘付近も一面の濃霧のために視界がなかったが、小屋の周りに立つ杉の大木がガスの中からうっすらと見えてくると、みんなでホッとして胸をなでおろした。
小屋に着いてまもなく大粒の雨が降り出してきたために、神社に参拝した後は駆け込むようにして小屋の中に入った。いっこうに良くならない天候にはみんな辟易していたが、缶ビールで乾杯すると、悪天候のことは忘れてしばらく食事を楽しんだ。しかしみんな体が冷えているためかなかなかビールも減らないでいる。その後、温かいみそ汁や紅茶を飲むと、やっと体も温まってきて、話も弾んできた。
食後、小屋をでるといつのまにか雨は上がっており、一部に青空も垣間見えていた。だんだんと晴れてきそうである。いつもは灌木が密集していてほとんど周囲の景色はみえないのだが、残雪で覆われている今の時期はどこも展望がきくから楽しい。高いところから自分の住んでいる集落や町並みを眺めるのは大人でもうれしいものだ。この葉山にはそんな楽しみがある。下界の風景を眺めていると、見る間に雲が流れてゆき青空が広がった。
途中の見晴らしのよい尾根に出ると、しばらく腰を下ろしてそこからの風景に見入った。芽吹いたばかりのブナの新緑が美しく、また、遠く小鳥の声が聞こえてきたかと思うと、気持ちの良いそよ風が残雪の上を渡っていった。春山の息吹が伝わってくるようで、なんともいえない気持ちになる。塞いでいた午前中の気持ちなどみんな忘れてしまっていた。
オケサ堀では最後の休憩をする。ここからは里まで小1時間ほどで下るだけである。遅い午後の日差しが雑木林を突き抜けて、オケサ堀に柔らかい陽光が降り注いでいる。背の高いブナ林は春の陽を受けてまぶしいほどに輝いている。そんな風景を眺めていると、春の山って本当にいいなあ、としみじみと思う。風はほとんどなく、ザックを枕に横になるとたちまち眠気が襲ってきてしまった。
帰路、山菜に詳しい人はコゴミやワラビなどを道端から摘みながら下る。私は登山道の周りに咲く、ショウジョウバカマ、カタクリ、イワウチワ、イチリンソウ、イカリソウなど、久しぶりに春の植物を愛でながら下っていった。
今年の春の山開きはこうして終わり、長井温泉に向かったのだった。
ほとんど視界がない中、通称「壁」の急登を登る
ブナの新緑が美しい季節になった(オケサ堀で)
遅い午後の陽射しが降り注ぐ中、オケサ堀で一休み