駐車場からリフト乗り場までスキーを担ぐ。距離は200mほどで、軽い準備運動のようなものなのだが、陽射しが強く早速汗が流れた。湯殿山や姥ガ岳がまるで白い絵の具を塗ったように白く、春の陽光に反射してまぶしいほどだ。残雪はまだ10メートルを超えているという。久しぶりに眺める雄大な景色に心が踊るようだった。
スキーリフトの終点からシールを貼り、まず姥ガ岳を目指して登りはじめた。右手には月山がまだかなた先に見える。頂上付近には雲がかかっているがまもなく晴れるだろう。陽射しが強くて、拭っても拭っても汗が額から滴り落ちた。どこを見渡しても無立木の大斜面が延々と続いていた。この雄大で広大な斜面の中で、頂上を目指す登山者はまるで小さなアリのようにしか見えなかった。
姥ガ岳からはいったんシールをはずして今日の最初の滑りを楽しんだ。しかしあっと言う間に鞍部に下ってしまい、またシールの貼り直しだ。しかしこの陽気の中で作業が少しも苦にならなかった。
そこからはひたすら月山の山頂を目指して登る。斜面がだんだんときつくなり、所々で休憩している人達もいる。鍛冶小屋直下の急斜面ではスキーを担いで登る人もだいぶ目立った。山頂では多くの登山者、山スキーの人達で賑わっていた。ここまでは下着一枚でも登れるほど気温が高かったのだが、山頂を吹く風は冷たく、神社の陰で風を避けて昼食をとることにした。
山頂からの下り初めは急斜面のために慎重に下った。しかし少し下ればザラメ雪のためエッジが適度に食いつくようで安心してターンできる。少し下った地点で、奇遇にも私のHPを見ていてくれたという、山形在住(今は鶴岡)の安倍さんと武田さんにたまたま出会う。話をしているうちに今日、これから石跳川コースを下るというので一緒に下ることになった。安倍さん達は車2台できているので、車の回収ができるのだからありがたい話だった。
午後になってますます気温が上昇して、雪は重くなりほとんど滑らなくなってきていた。
姥ガ岳までの登り返しもシールを貼る必要もないほどだった。
姥ガ岳と石跳川コースへの分岐点、金姥付近では西川山岳会の柴田さんも加わってくれることになった。初めてのコースに幾分不安だった我々3人のにわかパーティに、ルートを熟知している人からコースの案内役をしてもらえるのだからこれは安心だった。
姥ガ岳をトラバースするとまもなく真っ白い雪を抱いた湯殿山が正面に現れる。ここから眺める湯殿山は迫力があり、思わず目を見張った。
石跳川コースは予想していたよりも幅が広くて快適なのだが、雪はますます重くなってきていた。ほとんど滑らなくなったスキーに手を焼いた。最初は無理してテレマークターンを繰り返したが、そのうち傾斜が緩くなり、直滑降で下っていった。それでもブレーキがかかるほどで足を取られて転倒したりした。
スキーの滑りはいまいちだったが、好天の中で穏やかな春の風を体いっぱいに受けながら滑る気分は最高だった。たちまち終点まで着いてしまうのがもったいなくて、途中で休憩をとる。付近はブナの樹林帯が広がる斜面の中間地点だった。振り返れば湯殿山の雄大な東斜面が迫力満点だ。そして姥ガ岳の裾野に広がる春の芽吹き前のブナ林が美しく、いくら眺めていても飽きない風景だった。4人で雪の上に座り話をしていると、気持ちの良い風が吹き渡っていった。ブナの香りの漂ってきそうな、早春の甘くて優しい風だった。このまま時間が止まってて欲しいような、至福ともいえる山の時間だった。
小1時間ほど休んでから再び滑り出す頃には、いつのまにか陽が傾いてきていた。
そこからはまもなく、志津の山形県自然博物園(ネーチャーセンター)だった。