【平成12年12月4日(月)/阿武隈山地 霊山】
霊山のなかで随一の景観を誇る国司沢
(日暮岩入口付近から)
今日の山形は冬型の気圧配置によって強い寒気が入り込み朝から雨模様。雨からだんだん雪に変わる予報もでていた。しかしこの霊山は福島県でも浜通り地方に属していて、日本海側の気候とは反対に冬晴れが期待できるところだ。一昨日の朝日連峰敗退により体は結構疲れ切っていたので手軽に登れる山をということで、以前からなかなか登れないでいたこの霊山に登ることにした。
登山口である「霊山こどもの村」の奥に駐車場があり、見上げると霊山の一角には大小様々な奇岩を仰ぐことができる。広い駐車場だったが、さすがにこの時期には一台も車が見あたらなかった。準備を終えてさっそく整備された登山道を歩きだす。上空は晴れているとはいえ霊山から吹き下ろす風は冷たかった。気温はだいぶ低くて体感温度は氷点下である。歩き始めはウインドブレーカーだけでは寒くて中にフリースのジャケットまで着込んだ。登山道にはすでに半分朽ちたような落ち葉がそこらじゅうに積もっていたが、一陣の風が吹くと多くの落ち葉が舞い上がっては散っていった。
登山口である霊山庵の標高はおよそ510mで、霊山の最高峰である東物見岩までは標高差300mほどしかない。登山道をただ歩くだけならばハイキング程度であって、一周しても大した時間はかからないのだが、至る所にある奇岩をそれぞれ立ち寄るようなコースにもなっており、歩きはおのずからゆったりとしたペースになった。この霊山は標高を競うとか歩く時間を競うといった山ではないようであった。
コースは一般コースである周遊3時間コースを歩くことにした。私はどうせ時間があるのでほとんど全ての岩に立ち寄ってみた。岩山なので少しは岩登りの練習にはなるだろうかと考えて、五百羅漢岩など3点確保が必要な岩を探しながら歩いたものの、練習に適した場所はそう多くはなく、ここはどうもそんな山ではなさそうであった。ガイドブックによれば、コース上のハイライトは福島市内や吾妻連峰を望める絶景の地と称される護摩檀だろうと書かれてある。しかし一般の観光客には受ける場所なのかもしれなかったが感激はあまりなかった。
私はむしろ、晩秋の雰囲気に満ちた国司館跡付近の景観に静かな感動を覚えていた。最近はすっかり冬山に気持ちが傾いていただけに、この予想もしなかった里山の秋に再びふれることができた喜びの方が大きかった。この頃は日もだいぶ昇っていて、誰もいない枯れた芝草一帯にはやわらかな陽光が降り注いでいた。
私は蟻の戸渡り付近でザックをおろして休憩をすることにした。とくに疲れてはいなかったがこのまま下りてしまうのが惜しかったのだ。東を眺めれば遠く太平洋が見えた。私はコーヒーを飲みながら、かつてこの場所には城が築城され、また数多くの寺などが散在していたことなどを想像しながら、栄華を誇ったであろう当時の様子に思いを馳せていた。