山 行 記 録

【平成12年11月23日(木)〜25日(土)/朝日連峰 古寺鉱泉から大朝日岳】



初冬の大朝日岳と避難小屋[2000.11.25撮影]
朝方まで続いた吹雪きもようやく収まり、上空は2日ぶりに晴れ渡った。



【メンバー】単独
【山行形態】冬山装備(無線、12本爪アイゼン、ピッケルなど)、避難小屋泊
【山域】朝日連峰
【山名と標高】古寺山1,501m、小朝日岳1,647m、大朝日岳1,870m
【天候】23日(快晴)、24日(終日吹雪き)、25日(曇り)
【温泉】西川町 水沢温泉館(200円)
【行程と参考コースタイム】
[2000.11.23]
古寺鉱泉8.30〜ハナヌキ分岐10.00〜古寺山11.10〜小朝日岳12.00-12.30〜大朝日避難小屋14.15(大朝日岳ピストン)
[2000.11.24]
(終日吹雪のため大朝日小屋にて停滞)
[2000.11.25]
大朝日避難小屋7.45〜小朝日岳9.15-9.30〜古寺鉱泉11.30

【概要】
朝日連峰に初冠雪してからすでに2週間ほど経っているが、大朝日岳には昨年も同じ時期にこの古寺鉱泉から登っている。単独では厳冬期の朝日連峰はとうてい不可能なので、積雪もまだそれほどではないこの時期ぐらいまでが、大朝日岳になんとか一人で登れる限界だろうか。遠くから見る限り積雪状態は昨年と同じくらいだが、稜線付近は完全な冬山のはずでツェルト、ピッケル、アイゼン、目出帽、防寒手袋など冬山装備は必携である。

[2000.11.23]
古寺鉱泉の周辺の山々は葉を全て落としており寂しい雰囲気が漂っている。翌日は平日なのだが駐車場には車が5台と意外と多かった。今日は移動性高気圧に覆われるために好天が予想されていた。しかし放射冷却現象のせいで今日は平地でも氷点下5度〜6度とかなりの冷え込みだ。古寺鉱泉は山あいの温泉宿なので日が差さず気温が全然上昇していないようだった。手がかじかんで思うように登山靴の紐が結べなかった。

久しぶりに冬山装備などでいっぱいになったザックは予想以上に重く、最初の一歩からがつらかった。寒さは厳しく、早く日当たりの良い尾根まで登りたかった。20分ほどして汗がひとまず出てしまうとザックの重さにも徐々に慣れていった。登山道に積もった落ち葉は凍っていて歩くとキュッキュッと音がする。雪は高度800m付近から現れた。このあたりの積雪はまだ5cm前後だが登るに従って積雪も増していった。ハナヌキ峰分岐手前の一服清水とその先の三沢清水は周囲は氷が張っているがまだ水が豊富に出ていた。三沢清水をすぎてなおも急坂を登り続ける。えぐられた登山道には雪が吹き溜まっていてこのあたりは30〜40cmほどあるだろうか。積雪は多いが先行者がいるおかげで歩くのはだいぶ楽である。
だんだんザックの重さに慣れてきたとはいえ一歩一歩足を上げるのがつらい。あえぎながら古寺山を登り小朝日岳山頂にはやっとの思いで到着した。ここで持ってきた果物やパンで昼食にした。ここから眺める大朝日岳、中岳、西朝日岳、そして以東岳への主稜線はすでに真っ白である。快晴の中で峰峰は陽光を浴びて輝いていた。振り返れば古寺山の上には冠雪した端正な姿の月山が望め、その左奥には鳥海山も青空に浮かんでいた。陽射しはあるものの、遮るものがない稜線を吹く風は冷たく、ここからはウインドブレーカーを着た。小朝日岳から熊越しまでは急な斜面を下る。ここの雪は結構深く滑るようにして下った。鞍部からは急坂の登り返しが待っている。無理せずにゆっくりと歩いていたのに、ここの登りで両足がつりそうになってしまった。それもふくらはぎではなく太股のほうである。歩いている途中に足がつるのは久しぶりで、重荷のために両足が悲鳴をあげているようだった。

ところで、踏跡の多さから大朝日小屋はだいぶにぎやかになるのだろうかと思っていたのだが、今日は早めに出発した人達が次々と下山してきたところに出会っていた。下ってきたのは4人で、そのうち二人は小朝日岳で引き返し、一人は銀玉水で断念し、山頂まで往復してきたのは一人だけだった。様子を尋ねてみると、小屋泊まりの予定で登っていったのはいまのところ一人だけのようである。その人とは銀玉水で追いついた。山形から来たというTさんは三脚を立てて大判カメラで撮影していた。銀玉水からは最後の急坂だ。ここをひと登りすれば大朝日小屋はまもなくだった。出発する前に銀玉水をのぞいてみたが予想どおりここは既に雪に覆われていた。水は小屋に着いてから雪を解かすしかないようである。私はTさんと別れて先に小屋に向かった。銀玉水からの急斜面はまだ坪足でも可能だが上部の雪は堅く凍っていた。私はストックを頼りに慎重に登ったが下りはアイゼンを付けないと危険だろう。滑れば左手のY字雪渓をまっすぐに落ちて行くはずである。

小屋の中にはやはり誰もいなかった。ザックを下ろして周辺の写真を撮っていると先ほどのTさんが一足遅れて小屋に到着した。結局小屋泊りは二人だけだった。小屋の周辺の雪をビニール袋に詰めて早速水作りをする。この時期の雪は新雪だけあってきれいな水が得られるので安心だった。またこの小屋にはたくさんの枚数の毛布があるので助かる。夜はかなり冷えるのが予想されるために小屋に備え付けの毛布をできるだけ利用させてもらうことにした。その後コーヒーを淹れて体を暖め、落ちついたところで焼きソバを作って食べた。

夕方になってからTさんと日没前に山頂まで行ってみることにした。さきほど玄関に置いていたスパッツが寒さでカチカチに凍っていて、再び足に付けるのに非常に手間取った。念のためにアイゼンも装着して山頂に向かった。山頂の標注にはエビの尻尾がびっしりで「大朝日岳」の文字が全く見えなくなっている。日はもうまもなく沈むところで、祝瓶山や月山などが残照に輝いて美しかった。

日没後はますます気温が下がった。夕食後、雪を解かした水も凍りそうなために水筒をシュラフの中にしまい込んだ。就寝前に外に出てみるとキーンと張りつめたような冷え込みのせいで頬がピリピリした。見上げれば数え切れないほどの星が闇夜にきらめき、遠くには山形市や寒河江市の夜景が輝いている。この空を見る限り翌日の天候も良さそうな気がして安心してシュラフに潜り込んだ。しかし予想に反して、夜半からは風が強く吹き始め窓ガラスがガタガタと震えた。それはだんだん風雪に変わり次第に激しさを増してゆき小屋を一晩中揺るがした。

[2000.11.24]
吹雪き模様は翌朝になってもおさまらなかった。激しい雪と風はいっこうに衰えをみせず、視界は全くなかった。朝食後もしばらく様子を伺っていたが二人とも予備日があるので無理をせずに停滞することにした。結局、この風雪状態は終日続いた。
私はシュラフにもぐり込んで文庫本を読む。Tさんはひたすらシュラフに潜っていた。小屋の中の寒さはハンパではなく、シュラフから手を出していると感覚がなくなりそうなほどでフリースの手袋をして本を読み続けた。途中、外の様子を見ようと入口のドアを開けようとした時、なかなか開かなくて慌てた。叩いたり蹴ったりしてもだめだった。仕方がないので二階の冬季用入口からいったん外にでてから入口のドアを開けた。たたきつけられた雪がドアの下に積もり、それが凍ってしまったようだった。
私は新しい文庫本も昼頃には読み終えてしまい、停滞用にもう一冊持ってくるべきだったなあと反省。その後はコーヒーにウイスキーを入れて飲んだりしながら時間をつぶした。

平日でもあるし、こんな風雪が激しい日には誰も登ってはこないだろうと思っていたら昼過ぎになって若い二人組が小屋に入ってきたので驚いた。下界は雨降りで、1300m付近から雪になっているらしかった。小朝日岳からの稜線は風雪が厳しく視界もない状態でやっと小屋にたどり着いたようだった。その日登ってきたのはこの二人だけで2日目の夜は4人となり、前日より少しだけにぎやかな夜になった。この夜も風雪は相変わらずで明日の天候も変わりがないように思われた。

[2000.11.25]
まる一日以上吹き荒れた吹雪きもようやく朝になっておさまった。6時頃はまだガスが晴れなくて視界は全くなかったが、1時間ほどすると上空の雲が切れて一部に青空も見えてきた。これからだんだんと晴れてきそうな空を見上げてみんなで胸をなで下ろした。

朝食をすませるとTさんは早速小屋の前に三脚をたてて撮影の準備を始めた。昨日小屋に着いた二人は空身で山頂をピストンするといって登っていった。私は荷物をまとめて写真を撮りながら下ることにした。雪は昨日一日でかなり積もり踏跡はすっかりなくなっている。小屋周辺で20cm前後新たに積もったようだった。その誰も歩いていない雪原に自分だけの踏跡をしるすのは心地よいものだった。昨日の停滞で沈んでいた思いはきれいに消えてゆく気がした。振り返ると昨日の吹雪でさらに雪をまとった大朝日岳は、一段と白く輝いてまぶしいほどだった。しかし中岳や西朝日岳は見えたり見えなかったりでなかなかすっきりとは晴れなかった。見回すと小朝日岳や鳥原山は厚い雲の中に隠れて全く見えず、平地も雲海の下に隠れている。どうも上空だけが晴れている様子だった。



快晴の空に輝く月山(古寺山から)[2000.11.23撮影]
左奥には鳥海山がうっすらと見える。


銀玉水の急斜面を登る[2000.11.23撮影]
登ってくるのは山形のTさん。
小屋でこの日泊まったのはTさんと二人だけであった。


大朝日岳山頂から日没直前の祝瓶山[2000.11.23撮影]



大朝日小屋[2000.11.25撮影]
風雪がやっとおさまり、久しぶりに晴れ渡った。
エビの尻尾が昨日からの吹雪で長さが増した。


大朝日小屋前[2000.11.25撮影]
前方の小朝日岳や古寺山はガスに隠れて見えず
上空だけが晴れている。


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