山 行 記 録

【平成12年11月3日(金)〜4日(土)/朝日連峰 泡滝ダムから以東岳】



晩秋の大鳥小屋[2000.11.4撮影]



【メンバー】単独
【山行形態】避難小屋泊(大鳥小屋)
【山域】朝日連峰
【山名と標高】以東岳 1,771m
【天候】(3日)雨のち曇り、(4日)快晴
【温泉】西川町「水沢温泉館」200円
【行程と参考コースタイム】
[2000.11.3]
泡滝ダム10:10〜七ツ滝沢吊橋11:40〜大鳥小屋12:45(泊)
[2000.11.4]
大鳥小屋6:10〜三角峰〜オツボ峰〜以東岳8:20-9:40(休憩)〜東沢〜大鳥小屋11:10-13:00(休憩)〜泡滝ダム15:10

【概要】
[2000.11.3]
いつもこの時期になると以東岳が恋しくなる。去年は冠雪した大朝日岳を楽しんでいるので今年は朝日連峰の北端の名峰というわけである。しかし強い寒気が入らないためか雪はまだどこにもなかった。2日目は全国的に移動性高気圧に覆われて、これ以上の好天はめったにないだろう、と思われるほどに晴れ渡り、晩秋の朝日連峰を満喫した一日となった。

泡滝ダム手前では林道工事が行われていてバス停のずっと手前の道路脇に車を停めた。昨夜から降り続いた雨は朝方には小降りになったものの、泡滝ダムに着いても薄黒い雲が上空を塞いでいて時々小雨の降る状態が続いていた。晴れの特異日として知られる11月3日としてはめずらしい。車内でしばらく雨宿りをしながら晴れるのを待った。

冬用のシュラフと様々な食材を詰めるだけ詰めたために通常使用している45リットルザックには入り切らず久しぶりに65リットルを背負う。ずっしりと重いが今日は天候も悪く大鳥小屋までと決めているのでしばらくの辛抱だった。大鳥川右岸の渓谷道を歩く。周囲は紅葉が盛りだが日が差さないために色彩はパッとしない。冷水沢と七ツ滝沢に懸かる吊橋を渡ってから少し休憩した。歩き出した時間は遅かったがこの付近から登山者がちらほらと目についた。分岐から七ツ滝への道を左に見送り七曲がりのコースを進む。ここは急登が続くところで水場では何組かのグループが休んでいた。


大勢の登山者で賑わう大鳥小屋[2000.11.3撮影]



標高963mに立つ大鳥小屋は別名タキタロウ山荘ともいう。きれいな小屋で水場やキャンプ場も完備された快適な小屋である。小屋前では大勢の登山者やハイカーが休憩中だった。雨はいつのまにか上がっていて、大鳥池をはさみ正面には以東岳も望める。晴れてしまうとこのまま以東小屋まで登ろうかとも気持ちが傾きかけた。しかし明日の好天は間違いなさそうで今日のうちに登ってしまい、明日はただ下るだけというのは何となくもったいなくて思いとどまる。

一階にザックを下ろす。時間はまだまだ早かったので持ち込んだ食材で昼食を楽しみ、午後のほとんどは文庫本を読んで過ごした。夕方になると小屋にはぞくぞくと登山者が入ってきた。二階には大勢のパーティが入り、かなりの混み具合のようだった。薄暗くなって本が読みずらくなってきた頃、発電機による蛍光灯が灯された。山小屋らしくはないのだが小屋で本を読むのを楽しみにしている者にとっては本当にありがたい。夜は私と同じく単独で来ていた、朝日連峰は初めてという宮城からのF氏と夕食を楽しんだ。

その夜、小屋の中も時間が経つにつれてだんだん冷え込んできたが、久しぶりに使用した冬用シュラフは温かく、夜中に靴下もズボンを脱ぎ下着一枚で寝なければならないほどだった。

[2000.11.4]
4時半頃起床する。窓の外はまだ真っ暗である。無数の星が夜空に煌めいていた。隣に寝ていたF氏は3時頃起床して3時半には小屋を出ていった。昨夜、ご来光の写真を撮りたいといっていたことを思い出した。朝食を終えると空がだんだん薄明るくなってきた。小屋を出ると外はかなりの冷え込みである。

今日は久しぶりに分岐から左のオツボ峰のコースをゆく。標注には「以東岳までは直登コースで3時間半、オツボ峰コースで4時間」とある。今日はザックが軽いのでそんなにかからないだろうと思いながら登り始めた。周りの木々はほとんど葉を落としておりナナカマドの赤い実だけが目立った。前方の峰に遮られてまだ登山道には日が差さなかったが、振り返ると大鳥池の対岸の山、甚六山の稜線には朝の強い陽射しが当たり金色に輝いている。上空には一つも雲がなかった。予報どおりの快晴である。右手の以東岳と以東小屋がいつもよりずっと間近に見えるようだ。三角峰を過ぎるときつい登りは一段落してしばらくなだらかな稜線歩きが続く。登山道は凍っていて霜柱が目立った。暖かい陽射しを浴びながらの稜線歩きは快適で至福ともいえるほど。この時期でこのような快晴、無風の日はそうはないだろうと思いながら誰にともなく感謝したくなるほどだった。


月山(右)と鳥海山(左奥)
オツボ峰手前の水場付近から


オツボ峰手前の水場付近から左手を見ると月山が見えた。そのすぐ後ろには鳥海山がポッカリと空に浮かんでいた。小さなアップダウンを繰り返しいくつかのピークを乗り越えるとやがて以東岳だ。山頂では早朝に出発したF氏が三脚を立てて撮影していた。真っ暗だったために東沢付近で道がよくわからなかったらしく、直登コースで4時間近くかかったとのこと。

山頂からはこれほどの展望はないだろうと思われるほどの眺めが広がっていた。目の前に続く朝日主稜線の最奥には大朝日岳の鋭鋒。背後には吾妻連峰や飯豊連峰、そして磐梯山。左をみれば蔵王連峰、船形山、神室連峰などまさに360度の眺めだ。見える山を数え上げればそれこそきりがないほどである。大朝日岳から稜線を右にたどってゆくとその南端には秀峰、祝瓶山が屹立している。ここから見るとすっきりした三角錐をしていて、いかにも登高意欲を誘われる山である。この山は見る場所によっていろんな姿に形を変えるようだ。いつまでも眺めていて飽きない風景だった。以東岳でこれほど好天に恵まれたことは初めてだった。何年分もの小春日和が一度にやってきたような天気だった。早速ザックを下ろし、コーヒーを入れながら、今朝作ってきた茹で玉子やリンゴなどを食べる。食べ終えると日溜まりに包まれながらしばらく横になって眠った。

そして1時間以上も休んでから下山をはじめた。山頂でも多くの人たちで賑わっていたが大鳥小屋からは次々と登山者が登ってくる。熊の皮を広げた形に見える大鳥池を見下ろしながら下る。溢れるほどの陽気の中で時々立ち止まりながらのんびりと下った。大鳥小屋には昼前に着いた。このまま登山口に下りてしまうのはもったいなく、小屋前のベンチで早い昼食をしてから、昨日読み残した文庫本を読むことにした。風もなく暖かい陽が降り注ぐベンチは快適な書斎のようだ。周囲にも登山者が休憩中だったが皆、思い思いに静かな山の時間を楽しんでいるようだった。


大鳥池[2000.11.4撮影]
快晴の青空を写して池は青々として美しかった。
本当に熊の皮を広げたような形をしている。


快晴の中の紅葉が美しい(冷水沢付近で)[2000.11.4撮影]
秋の陽を浴びてまさに光と色の競演。


inserted by FC2 system