【平成12年10月28日(土)/飯豊連峰 梶川尾根から丸森尾根】
扇ノ地紙はエビの尻尾がびっしり(中央奥は北股岳)
稜線は真っ白で飯豊はもう冬である。
小国町長者原を過ぎ飯豊山荘に向かっていると、道路の両側に迫る山の斜面の紅葉の美しさに目を見張った。紅葉の盛りがこのあたりまで下がってきたのだとすると梶川尾根の紅葉はすでに終わっていると考えなければならなかった。飯豊山荘の駐車場は3台だけだった。奥の駐車場の台数を合わせても7、8台といったところか。付近に登山者は見あたらず、2週間前の賑わいと比べると様変わりである。登山者名簿を見ると丸森尾根を登っている人は単独者が一名だけで梶川尾根は誰もいないようだった。
湯沢峰まではいつものように急登に汗をしぼりとられた。しかし尾根を通ってくる風は冷たく既に秋は去ったことを感じさせた。半分くらい葉を落としたブナの木がせわしなく風に揺れている。登り始めこそ周囲にはまだ紅葉は残っているものの、湯沢峰付近ではすでにほとんど葉を落としていた。しかしフカフカに積もった落ち葉を踏みしめながらの登りはなかなか気持ちのいいものである。
五郎清水からさらに登り続けると、ダケカンバの峰を過ぎる頃から登山道には霜柱が目立ち始めた。湿気を含んだ土はカチカチに凍っている。梶川峰では女性が一人で休憩中だった。丸森尾根を登ってきて梶川尾根を下る途中らしかった。私とは逆コースである。稜線の状況を聞くとかなり寒いらしかった。たしかにここからは冷たい風が非常に強く吹いていた。今までは薄い下着一枚で登ってきたが肌を突き刺すような冷たい風は冬を感じさせるほどで、長袖のシャツを着ても寒さは半端ではなくゴアの上着も羽織った。
梶川峰からは緩やかな稜線をたどりながら扇ノ地紙まではもうまもなくだ。途中の湿原に点在する池塘には早くも氷が張っていた。扇ノ地紙はまさしく天上の道、雲上の縦走路が左右に彼方まで延びている要の場所である。標柱がある稜線に立ってみると新潟県側、つまり西斜面は真っ白であった。冠雪しているというほどではないがハイマツなどの灌木やササの葉は白く凍り付いて荒涼とした風景だった。それは冬山の世界といってもよく、秋は完全に終わりを告げていた。葉を落としたナナカマドの赤い実にもびっしりとエビの尻尾が付着している。扇ノ地紙か地神山で昼食を楽しみにしていたが寒風が吹き付ける状況ではとてもそんな気分にはなれなくて、結局地神北峰から丸森峰側に少し下った地点で風を避けながら短い昼食をすることにした。葉を落ち尽くした梶川峰の斜面を正面に見ながら熱いコーヒーをすする。日溜まりに包まれながらの休憩とはほど遠かったが、本格的な冬を間近に控えての静かな飯豊連峰を見ながら、この晩秋とも初冬ともいえそうな風景を目に焼き付けておこうと思った。
丸森尾根を下ると丸森峰付近で若い登山者が二人、腰を下ろして休んでいた。来年3月の春山のための荷揚げで、これから頼母木小屋まで日帰りするとのこと。二人とも丸森尾根のルートは初めてらしくこの辺の地形を聞かれて2、3話を交わした。3月の飯豊といえばまだ真冬と同じで豪雪に埋もれているはずである。私はその厳しさを想像するだけでめまいがしそうだった。
上空を見上げるとすっかり薄雲が広がっていて太陽はかくれてみえなかった。私は少し薄暗くなりかけた登山道を注意しながら飯豊山荘を目指して下った。飯豊山荘には紅葉を目的にした多くの観光客でごったがえしていた。
滝見場から見る石転ビ沢
もう初冬の雰囲気が漂っている。
(午前9時30分頃)