山 行 記 録

【平成12年8月15日/飯豊連峰 オオインの尾根から北股岳】



湯ノ平山荘



【メンバー】単独
【山行形態】夏山装備、日帰り
【山域】飯豊連峰
【山名と標高】北股岳2,025m
【天候】晴れ時々曇り
【温泉】湯ノ平温泉
【参考コースタイムと標高】
自宅 2:30−−−加治川ダム林道終点駐車場 4:50(自宅から114km)

加治川ダム林道終点 5:00(450m)−−−湯ノ平温泉(朝食) 6:00-6:20(500m)−−−鳥居峰 7:00 (884m)−−−中峰 9:30(1320m)−−−北股岳(昼食) 11:20-12:00(2025m)−−−鳥居峰15:00−−−湯ノ平温泉(露天風呂に入る) 15:50-16:30−−−加治川ダム林道終点 17:50

加治川ダム林道終点駐車場−−−自宅着22:30

【概要】
飯豊連峰には主要な登山コースが14ほどあるが、なかば廃道となっている胎内尾根を除くと、まだ歩いたことがなく唯一取り残されていたのが今回のオウインの尾根である。登山口の東赤谷までは山形からだとちょうど飯豊連峰の反対側に回る形になり時間はかなりかかる。さらにこのコースは距離が長く標高差が1500mもあるので、本当ならば秘湯で有名な湯ノ平温泉と山頂の避難小屋に宿泊する2泊3日のゆったりとした行程で登りたいところだ。しかし決断を先延ばしするうちにこのままでは今年の日程が取れなくなるそうな懸念も生じてきたところから結局日帰りで登ることにした。いつもの前日、衝動パターンである。涼しいうちに少しでも早く歩きたいので前日は目覚ましを午前2時にセットする。そしてまだ真っ暗な国道113号をひた走った。

加治川ダム林道終点から湯ノ平温泉までは露天風呂が目的の一般の観光客や釣り人も多い。道は飯豊川に沿う渓谷道になっている。標高差がほとんどないが結構上り下りがあって普通の登山道と変わりがない。吊橋を二つ渡り湯ノ平温泉に着く。山荘前では宿泊者が朝食の準備などをしていた。登山道は山荘の建物の中を通って行くようだった。山荘の中の通路の両側がすぐ板の間になっており数人がまだシュラフで就寝中だった。山荘の前のベンチに腰を下ろしてパンとヨーグルトで軽く朝食を食べてから出発することにした。

山荘を抜け出ると左手の断崖に北股岳への登り口の標識が立っていた。いきなりの急な登りだ。ほとんど絶壁ともいえる斜面に登山道がつけられていた。鉄ハシゴと鎖を頼りにして一気に標高を稼ぐ。やがて鳥居峰に着くと突然、展望が開ける。見上げるといくつもの峰峰がはるか先まで続いていて、アップダウンを繰り返しながらだんだん標高を上げて行くようだった。登り詰めたところが北股岳なのだろうが、あいにくまだガスがかかっていて飯豊の主稜線は見えなかった。急登から開放され、しばらくなだらかな登山道が続くが、急な斜面のトラバースやヤセ尾根の通過などがあってなかなか気を抜けない。途中、滝見場付近で二つのグループが山頂から下ってきたところに出会う。梅花皮小屋を早朝に出て、北股岳でご来光を拝んできたらしかった。梶川尾根の滝見場と紛らわしいが、ここからは飯豊川の不動滝を左手に俯瞰するとことができる。かなり高い位置から流れ落ちていて長い滝なのだが、距離があるために細い糸のようにしか見えない。滝見場を過ぎるとまもなく潅木帯になり風通しもよくなってきたが、同時に陽射しもだんだん強くなってきていた。さらに登ると寅清水の標識が立っていた。この先水場が期待できないのでザックを下ろして水場まで下る。20mほど下った所に清水が湧き出ていたが流れは細く水筒をいっぱいにするのに時間がかかった。

なおも登り続けると前方に白い雨量観測所が見えてくる。登山道脇に中峰の標識があってこの付近が中峰らしかったが別にピークでもなさそうで、不思議な感じだった。地図によるとこの近くに水場があるらしかったが標識は別に見あたらなかった。逆戻りするような形で右手に踏跡が続いていて、どうもそれらしかったが確認はしなかった。付近の草地にはハクサンコザクラ、コバイケイソウ、ニッコウキスゲ、ノアザミなどが咲いている。
この頃からだんだん雲の中に入ったのか陽射しが遮られると涼しい風が吹いた。体中の細胞が生き返るようだった。真夏の暑い中での歩きには懲り懲りしていたので今日の天候に感謝した。中峰からは快適な尾根道が続いた。振り返ればうねうねと続く登山道が見渡せた。登山道の脇にはハクサンフウロ、マツムシソウ、トリカブト、ミヤマナデシコ、ミツバオウレン、ミヤマキンポウゲなどが咲き競い、疲れを癒してくれるようだった。
北股岳を前方に大きく見上げる付近まで来ると登山道は二手に分かれていた。新しい標識が据えられていて、左は北股岳への道で右手は洗濯平経由で梅花皮小屋に続く二股らしかった。朽ちかけた古い標識も一緒に横たわっていて「直登 北股岳」とかろうじて読める。

北股岳山頂に着いたときは休憩中の登山者は二人だけだったが、昼食の準備をしていると梅花皮小屋から三々五々登ってきて、食べる頃には10人ほどにもなり、にぎやかな山頂となった。あいかわらず陽射しは遮られたままで暑くもなく涼しい風が吹き渡る。山頂ではみんな昼食を兼ねた休憩を楽しんでいた。梶川尾根はガスにおおわれていたが門内岳、扇の地紙へと続く主稜線は眺めることができた。また石転ビ沢にかかっていた雲海のガスも徐々に上昇してきていた。休んでいると横になって眠ってしまいたくなるほどだった。こんな穏やかな山頂にいると、このままずっと過ごしていたくなり日帰りで登ってきたことを今日は本当に後悔した。

後ろ髪を引かれるような思いで山頂を後にする。下山してまもなくすると登山道のササヤブからガサゴソと不穏な音が続いていた。気味が悪くしばくら不安を抱きながら歩く。もしかしたら熊かもしれないと思い下手な歌を歌いながら下っていると道の前方に猿の姿がみえた。するとその先のヤブから他の猿が飛び出してきた。また左手の窪地の草地を見下ろせば10数頭の猿の群が遊んでいるのだった。登ってくるときは気が付かなかったから午後から出てきたものだろうか。物音の正体が熊でなくて安心したが野生の猿がこんなにもいることに驚いた。猿はこちらには近づいてもこなかったが、かといって人間を恐れている風でもなさそうだった。

登りの時はそれほどにも感じなかったが、中峰から鳥居峰までの区間は長いアップダウンに閉口した。下っても下っても次々と小さな登りや大きな急斜面の登りが待ちかまえているようで、まるであの長大なダイグラ尾根を下っているかのようだった。午後になってまた体力が奪われるような陽射しが照りつけてきていたこともあったが、やはり前半の長い登りで疲れていたのだろうか。湯ノ平温泉に着く頃は膝が少し痛みだしていた。こんなことは最近にはなかったことでこのオウインの尾根の長さをあらためて思ったのだった。

小屋にザックを置かせてもらい、湯ノ平温泉の露天風呂に入って汗を流した。飯豊川をせき止めただけの露天風呂で野趣あふれる風呂だ。少し熱めの湯に浸りながら、今日はこのまま湯ノ平山荘に泊まってビールでも飲んでゆっくりシュラフで眠りたいと切実に思った。日帰りで来たことをここでまた後悔してしまった。
風呂から上がって上下ともすっかり着替えてまたザックを背負う。加治川ダム林道終点駐車場まではまだ1時間以上も歩かなければならなく、痛みだした膝を考えると途方もない距離に思えて気が遠くなりそうだった。駐車場に到着する頃はすでに薄暗くなっていた。


北股川にかかる吊橋


湯ノ平温泉間近
飯豊川の渓谷に湯煙が上がっている
ちょっとわかりずらいが中央に女湯の建物がある


中峰の近くにある池


ミツバオウレン


ミヤマキンポウゲ


ハクサンフウロ


北股岳が目前だが山頂まではまだ1時間近くかかる。
急坂はつらいが、陽射しが差さないために涼しく快適な登りだ。


ガスに覆われる石転ビ沢を俯瞰する
北股岳山頂から


門内岳、扇の地紙へと続く飯豊の主稜線
北股岳山頂から


ニッコウキスゲと雪渓
北股岳山頂からの下りで


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