石転ビ沢の出合から見上げると前回はガスがかかって稜線は全く見えなかったが、今日は快晴である。稜線上の梅花皮小屋が見えるほどだった。アイゼンを装着して雪渓を登り始める。背中からは真夏の強い日差しが照りつけたが雪渓の上は涼風が吹いていて快適な登りである。まさに天然のクーラーという感じだ。ときどき湿ったなま暖かい風が吹いてくるとメガネが曇った。北股沢の出合をすこし登った地点で、40〜50cmはあろうかという石が北股沢から落ちてきた。私の10〜15mぐらい下をものすごい早さで落ちていった。直後「落石!」と下を登ってくる登山者に叫ぶ。幸いに石は雪渓を横断して対岸に激突し、粉砕したようだった。みな急坂で立ち止まって成りゆきを見ていた。続く中ノ島は久しぶりの上陸だった。夏道といっても急斜面は変わらないのでたちまち呼吸が苦しくなり休み休みの登りが続いた。中ノ島からはわずかの残雪を登ると梅花皮小屋だ。
小屋の周辺では縦走中の登山者達が写真を撮ったり、昼寝をしたりそれぞれ思い思いに休憩をしていた。昼食の予定だったのだがまだ10時と早い時間だったので水場に立ち寄りペットボトルに水だけ詰めて北股岳に向かうことにした。北股岳の南斜面から西斜面にかけて飯豊の特産種のイイデリンドウやチシマギキョウ、クルマユリ、イブキトラノオなどの高山植物で溢れている。またニッコウキスゲのお花畑も一面に広がっていて、黄金色と白の残雪とのコントラストが美しかったが、良く見ると花は少し盛りを過ぎたようだった。
気温はかなり高いはずだったがさすがに2000mの稜線を吹く風は爽やかで時の経つのも忘れるほどだった。北股岳では時間に余裕があったのでゆっくりと休憩と昼食を楽しんだ。北股岳から門内岳へと続く登山道は快適な稜線漫歩が楽しめるところ。ギルダ原付近から眺める門内岳は抜けるような青空を背景にして美しかった。空には巻雲も現れていて秋空のような爽やかな青空が広がっている。門内小屋にはソロ用のテントが一張りあったが人のいる気配はなかった。
梶川尾根への分岐点である扇の地紙で果物の缶詰を開けて少し休憩した。稜線を吹く風は爽やかとはいっても、風が途絶えると真夏の日差しは容赦なく全身に降り注いだ。水は十分確保していたが、飲んでもたちまち汗となって吹きだし、いくら飲んでも体に吸収しない感じだった。梶川峰付近から樹林帯に入るとひたすら下るだけだった。風がなくなると体が燃えるような感じで体力が奪われてゆくのを感じた。五郎清水では登山者が5〜6人休んでいた。水筒がちょうどカラになり清水を汲みに水場まで下る。岩から沁み出すような清水は手を切るほどに冷たい。バンダナを濡らして顔を拭い首筋を冷やした。
そこからは風がほとんどなくなり、ただ黙々と天狗平を目指して下った。汗は顔や背中からばかりではなく腰や足など全身から吹き出してきていた。水筒の水もたちまち底をついてきた。やっとの思いで梶川尾根の登山口に降り立ち、まっすぐゲート脇から湯沢におりる。そして頭から水を浴びた。梅花皮荘の温泉から上がってもすぐには立ち上がれず、2時間ほど横になってから自宅に向かった。もしかしたら軽い熱射病にかかっていたのかもしれなかった。