山 行 記 録

【平成12年7月20日〜21日/飯豊連峰 オンベ松尾根から大日岳】



大日岳山頂にツェルトを張る[2000.7.20撮影]


【メンバー】単独
【山行形態】夏山装備、ツェルト泊
【山域】飯豊連峰
【山名と標高】大日岳2128m、 牛首山1960m
【天候】(20日)曇り時々晴れ、(21日)曇り後晴れ
【温泉】新潟県鹿瀬町 かのせ温泉「亀田郷山荘」(500円)※休館日毎週 / 水曜日
【行程と参考コースタイム】
[2000.7.20]
5:15第一ゲート(380m)〜7:45- 8:00湯ノ島小屋(640m)〜9:50-10:10 月心清水(1150m)〜11:50 一服平(1570m)〜13:10 早川の突き上げ(1840m)〜13:50 牛首山(1960m)〜15:30大日岳(2128m)(ツェルト泊)

[2000.7.21]
6:00 大日岳〜7:40 早川の突き上げ〜8:40-9:00 月心清水〜9:50 湯ノ島小屋〜12:00 第一ゲート

【概要】
新潟県実川口から大日岳への直登コースであるオンベ松尾根はいつかは登ろうとして先延ばしにしていたものである。実川までのアプローチの悪さと、取付までの林道歩きが極端に長いことから前々からためらっていたというのが本音だった。とくに林道歩きはガイドブックにも2時間半から3時間を要するとあり、これはこれでこのコースの核心部といえそうなものである。林道終点の湯ノ島小屋から大日岳までは7時間30分から8時間はかかる。もちろんこれには休憩時間が入っていないので、第1ゲートから一気に登るとなると気が遠くなりそうな距離がある。この湯ノ島小屋に一泊して登り始める2泊コースだと余裕かも知れなかったが、今回山頂1泊で往復してみて実に厳しかったなあ、というのが正直なところ。大石ダムからの権内尾根も長い林道歩きを伴うつらい歩きだったが、ここはそれ以上だった。まだ下りしか経験が無く登ったことはないのだが、あの長大なダイグラ尾根にも匹敵するのではないか、と思えるほどである。しかし、それだけに登る人はごくまれのようで、梅雨明けの連休にもかかわらずコース上で出会った人は2日間で2人だけであった。深い谷間を流れる実川の急流やうっそうとしたブナ林に満ちた実川渓谷は容易に人を寄せ付けないだけに原始性を保持していて美しく、今回の山行は数多い飯豊連峰の登山コースの中でも久しく記憶に残りそうである。

[2000.7.20] 曇り時々晴れ

5:15第一ゲート(380m)
前日の夜、日出谷駅前で車中泊をし、夜明け前に実川口に向かう。しかしゲートのずっと手前で道路工事の夜間作業のため通行止めとなっていた。工事は午前5時までだったが少し前に通してもらい、第一ゲートに到着したときは5時を少し過ぎていた。ワゴン車1台が駐車してあったが釣り人のものだった。「ここから湯ノ島小屋まで約8キロ。携帯電話は通じない」と書かれた立て看板がある。ラジオもほとんど入らなかった。8キロ先の登山口をめざしてとぼとぼと歩き始めた。平坦な道路なのだが登り勾配のためにこの歩きはボディブローのように次第に効いてくる。背中から顔からと汗が流れ始めた。林道は砂利道でも結構整備されてあり道幅も広い。それだけに車で入れればなあ、と愚痴りながら歩く。空は曇り空で暑くない分だけよしとしなければならなかった。渓谷沿いの道をひたすら歩いているとやがてトンネルに差し掛かった。手前に車止めのためのゲートがありこれが第2ゲートらしかった。ヘッドランプを出してトンネルに入る。中はヒンヤリとして真っ暗で不気味な感じだ。予想よりはかなり長いトンネルで、ここをたった1人で暗闇の中を歩くのは怖いほどである。ここの通過に早足で12分ほど要した。

トンネルを抜け出てからも林道を歩き続け、うんざりする頃になってやっと湯ノ島小屋に着いた。この小屋は雪崩で崩壊し、仮設の小屋が建っていると聞いていたが、最近新しく改築されており、道路から奥まったブナ林の中にひっそりと建つ木造の小屋が予想外に美しく、目を見張る思いだった。


改築されたばかりの湯ノ島小屋

7:45- 8:00湯ノ島小屋(640m)
小屋からしばらく林道終点まで進むと左手に登山口を示す標識がある。山道を少し進んでからアシ沢の沢底まで下り、仮設の橋を通って対岸に渡るとやっと登りの取り付きだった。林道歩きと違ってやはり山道はいいなあ、などとのんきなことを考えながら登っていたが最初から急登が続き、呼吸が乱れて途中何回も休まなければならなかった。さすがに2時間半の林道歩きで体力の大半を費やしてしまったようだった。

9:50-10:10 月心清水(1150m)
水場と一服平まで2kmを示す標識が木の枝に下がっている。ここはちょっとした広場になっていて小さな石仏があった。山頂までたどり着けないかもしれない、といった漠然とした不安もあり石仏に手を合わせ、今回の山旅の安全を祈った。腰を下ろすとすぐにでも眠ってしまいそうな誘惑に襲われる。この時点でもかなり疲れていたようだ。水場へは100mほど右手の沢に少し下る。喉を潤して水筒を満たした。ここからもなおも急な登りが続く。しかしこの付近からは樹林帯に変わって潅木が目立ちはじめ、見晴らしが利くようになってきた。また両側がすっぱりと切れたヤセ尾根を何カ所か通過する。尾根道は相変わらず急だったが、時折吹く風は疲れて汗だくの身にはとても心地よい涼風だった。所々にロープが下がっている急坂を登り切るといったん平坦な場所に出た。一服平らしかった。

11:50 一服平(1570m)
急な登りがいったん終わりほっとしたのもつかの間、まもなくまた急な登りになる。

13:10 早川の突き上げ(1840m)
稜線の直前は雪渓となって雪がだいぶ残っていた。雪渓も急斜面だったが周りの草付も非常に滑りやすく慎重に登る。斜面には針金も設置されていた。ここで60歳は超えているかと思われる登山者がひとり牛首山から下山してきたところに出会った。日帰りと聞いただけでびっくりしたが、話の後を聞いてさらに驚いた。第1ゲートの手前、約5キロメートルの地点で工事のため通行止めとなっていたが、この人はそこに車を留め、未明の2時30分から歩き始めたという。何でも林道歩きは3時間30分かかったらしく、この人はこれから下山してまたその区間を歩くわけである。いったい今日は何時間歩くのだろうか。なんとも恐ろしい人がいるものだとあきれてしまった。ここから少しの区間は見晴らしのいい稜線歩きだったが、まもなく笹ヤブに変わってきた。いくつかの花崗岩のピークを越えながら標高をだんだん上げて行く。しかし少し下るとまたヤブこぎだった。ほとんど歩かれていないことと、登山道の整備は全くされていないために草木が伸び放題で登山道を覆い隠しているのだ。はじめは膝上程度だったが背丈を越すようなヤブもあって、ほとんど勘で進まなければならなかった。


ガスがつかの間、晴れて御西から大日岳への稜線が現れた。
(牛首山手前で)

13:50 牛首山(1960m)
大日岳が正面に立ちふさがるように迫っているはずだったが、ガスがいっこうに切れず、大きな山容はなかなか姿を現さなかった。花崗岩の岩場のような牛首山山頂からはいったん長い下りになる。ここも背丈を超すヤブこぎだった。足元が見えないのでストックで探りながら進む。下りきった鞍部からはいよいよ大日岳への最後の登りが待っている。道はいったん右側を卷くようにしながら登るようだった。回り込んだ岩場で少し休んでいると霧が晴れてしばらく青空が広がった。正面には御西から大日岳への稜線がいよいよ間近に見える。登山道もみえたが登山者はいないようだ。大日岳山頂直下まで進むと雪渓が広がっていた。ここが惣十郎清水らしかった。水筒やペットボトルに水を満たし、ビールはビニール袋に雪を詰めて冷やした。もう山頂は目の前だった。

15:30大日岳(2128m)
ほとんどバテバテの状態で山頂に到着した。山頂には誰もいない。ザックを放り投げ、Tシャツを脱いだ。汗が絞れるほどでまるで雑巾である。展望よりなにより休みたかった。銀マットを出して大の字になりしばらく横になる。眠っていたら耳元の足音で目が覚める。御西から1人、登ってきたようだった。新潟の人で、弥平衛四郎口からテントを担ぎ1日で御西まできたらしくその体力に驚いた。こちらも1日で大日岳まで登ってきたことを話すと相手もびっくりしている。しかし、今日途中ですれちがった大日岳を日帰りする登山者の話をしたら「上には上がいるものだなあ」と呆れていた。

その後もガスが一瞬晴れたりしたがほとんど展望はなかった。しばらくして山頂から一段下がったところにツェルトを張った。山頂に着いたばかりの時は疲れのために食欲もなかったが、一眠りしたためか少し回復してきたようだった。早速冷えたビールで1人祝杯をあげる。のんびりと食べても一人だとあっという間に終わる。夕食を済ませるとなにもすることがなくなり、山頂にエアーマットを敷いてまた一眠りした。薄暗くなり日没が近くなる頃になってガスがときどき晴れてくるようになり、ときどき起きては写真を撮ったりした。


大日岳山頂(午後5時20分頃)
一瞬晴れたりするがすぐにまたガスが張り出す


日没が近くなる頃になってガスがときどき晴れてくるようになった。
大日岳山頂から牛首山の稜線。


大日岳山頂からの日没


[2000.7.21]
曇り後晴れ

4:00 起床
シュラフに入ったままツェルトから顔を出してみたが、相変わらず濃いガスが流れていてほとんど見えない。しかし正面の御西の方角がこころなしか明るくなってきている。間もなく夜明けだった。日の出が始まるとガスもだんだんに晴れてくるようになり、西大日岳や北股岳から御西の稜線も見えるようになってきた。5時過ぎになり御西小屋に泊まったらしい登山者が2名ほど山頂にやってきた。そんな光景を眺めながら朝食を済ませた。日差しもだんだん強くなってきており、今日は暑くなりそうな気配だった。


飯豊本山からの日の出(右は草履塚)
(テン場から撮影する)


雲が次々と湧いては牛首山を乗り越えてゆく。
(テン場から撮影する)


北股岳(左)から梅花皮岳、烏帽子岳の稜線。
(大日岳山頂から)


西大日岳
(大日岳山頂から)


雲が湧く牛首山付近


牛首山
(大日岳からの下りで)


朝6時に 大日岳を出発。早川の突き上げを過ぎて月心清水に下る途中、登山者が1人登ってきた。まだ朝早い時間なので湯ノ島小屋から登ってきたと思ったら昨夜は月心清水にテントを張ったとのことだった。この長いコースではほとんど人に会わないのでうれしくなってしばらく立ち話をした。この人も新潟の人だった。月心清水で喉を潤した後はただひたすら湯ノ島小屋まで下るだけだった。湯ノ島小屋からの林道歩きは日差しが強い分だけ昨日よりつらい歩きだった。林道の日陰の部分を選びながら歩いた。真夏の炎天下の中の林道歩きほどつらいものはない。第一ゲートに到着したときは足は棒のようだった。疲れもピークに達していたようだった。


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