リフト終点からシールを付けて登り始める。まだ先に登っている人はなさそうでどこにも人影が見あたらない。約1年ぶりの樹氷原は懐かしかった。青空が広がる樹氷原地帯をしばらく登っていたが、刈田岳山頂付近にはぶ厚い雲がもう発生していて、天候がくずれる気配が濃厚だった。結構強い風は冷たくて頬が痛いほど。熊野岳にはまだ日が差していたがよく見ると薄い雲が広がり始めている。休憩はほとんどとらずにひたすら馬の背をめざす。視界がある内に刈田岳まで行きたかった。夏山リフトの直下を登り詰めるともう馬の背だ。稜線はかなり強い風が吹いている。刈田岳山頂はガスのためなのか、あるいは積もった雪が飛ばされているせいなのか視界が少しずつなくってきていた。馬の背で急いでお釜の写真をとり、山頂をめざした。下を見下ろしても他に誰も登ってくる様子は見られない。熊野岳にも人影はなかった。朝方は抜けるような青空だったのに数時間もたたないうちに天候は急変していた。
山頂は馬の背にも増して冷たい強風が吹き荒れていた。祠に簡単に手を合わせ、山行の安全を祈る。三脚を立ててお釜をバックに写真に納まり休憩もそこそこに下山を開始した。いくら慣れているコースとはいえ、平坦な地形が多いこのあたりでガスに卷かれたら引き返せなくなる恐れがあるところだ。
幸い、なんとか視界がまだある内にお田ノ神避難小屋まで戻ってくることができて,正直ほっとする。ときどき視界が遮られてすごく不安だったのだ。小屋の入口は雪ですっかり埋まっている。スコップもあるようだったが、調べてみると窓から入ることができた。ほとんど厳しい寒さの中の行動が続いていたために小屋にはいると心底安心した。昼食のメニューは相変わらずラーメン。しかし冷え切っていた体には熱いラーメンがことのほかおいしかった。食後はお汁粉にコーヒー。ささやかだったが天候がここまで荒れてしまうと小屋での食事が今日の唯一の楽しみとなった。小屋を出ると風雪に近い状態だったが、雪で埋まったエコーラインを横切りながら真西に進めば、坊平スキー場のリフト終点に戻ることができる。いつもであれば天候が良ければリフト終点からはエコーラインをたどりながらのツアーコースを下ることができるのだが、今日はあきらめるしかないようだ。ゲレンデに飛び出すとひとすぺりで駐車場だった。